企業の持つ情報を 1 つのプラットフォームに集約する。そして、複数サービスでここにあるデータを活用する――データ プラットフォームの構築によって事業の対応性や発展性を高める動きが、各社で加速しています。日本有数のメーカーであるコニカミノルタも、今、正にこれを進めている 1 社です。

同社は 2004 年に MFP (multi-functional peripheral : 複合機) の情報を集約したデータ分析基盤「FDAS (Field Data Analysis Services)」を構築するなど、早くから "データを活用した事業価値の追求" に取り組んできました。近年では、データとアプリケーションの関連性の抜本的な見直しによって、この歩みをいっそう加速させています。先の FDAS の場合、コニカミノルタは 2016 年、12 年の間オンプレミスで稼働を続けてきたサービス基盤を対象に、Microsoft Azure (以下、Azure) へと環境を移行。データの集約と管理を担う"CWH (Central Warehouse : 共通データ基盤)" と "アプリケーション" とを分離した設計を採ることで、FDAS の利便性向上に加えてデータ活用のカバレッジも拡大しているのです。

データを駆使して事業価値を追求する

イメージング (画像) の入出力技術をコア テクノロジーに、情報機器、計測機器、ヘルスケア機器といった様々な商品を提供するコニカミノルタ。数ある商品の中でも、同社の MFP は特に高いプレゼンスを市場で示しています。

数多くのメーカーが存在する中、なぜコニカミノルタの MFP は高い支持を得続けているのか。この背景には、プロダクト自体の優位性、そして、同社が進める "データを活用した事業価値の追求" があります。

コニカミノルタ株式会社 情報機器 カスタマーサポート統括部 サポートシステム技術部 部長の井上 太二 氏は、同社が 2004 年に構築したデータ分析基盤 FDAS に触れ、このように説明します。

「コモディティ化の進行により、モノ単体では差別化が困難な時代となりました。良い商品を提供することは前提であり、サポートなどのサービスをここへかけあわせて最良の顧客体験価値を提供することが、"選ばれ続けるメーカー" の条件になってきているのです。FDAS では世界中で稼働する MFP の動作ログ、販売会社を介して収集するサポート履歴という、大きく 2 つの情報を集積しています。ここにあるデータを分析すれば、トナーなどの消費物を適切なタイミングでお客様に届ける、予兆検知によって MFP の動作不良を未然に防ぐ、こういったことをサービス化することができます。当社が 15 年も前からデータ活用を進める背景には、サポートを含む "コト売り" によって事業価値をいっそう高めたいという思いがあったのです。」

  • コニカミノルタの MFP は、世界中で数多くのユーザーが利用している。同社の MFP が選ばれ続けるのは、商品が持つ優れた機能性、そしてきめ細やかなサポートの存在が理由だ。

    コニカミノルタの MFP は、世界中で数多くのユーザーが利用している。同社の MFP が選ばれ続けるのは、商品が持つ優れた機能性、そしてきめ細やかなサポートの存在が理由だ。井上氏は、「FDAS ははじめ国内だけの展開でしたが、展開エリアを年々拡大し、今では世界中にある 100 万台以上の MFP と接続するまでに規模を拡大させています。」と語った

2004 年当時、世の中にはまだデータ分析やビッグデータという言葉が広く浸透していませんでした。FDAS を構築したコニカミノルタの試みは、市場全体を見渡しても先行した取り組みだったと言えるでしょう。そして、FDAS の構築から 15 年を経て、同社は今、故障予測の活用など、データ分析の在り方を一歩先へと進めつつあります。

Azure を利用して、データ基盤とアプリケーションを分離させる

コニカミノルタは 2016 年、FDAS のサービス基盤について、オンプレミスから Azure へと環境を移しました。

コニカミノルタ株式会社 情報機器 カスタマーサポート統括部 サポートシステム技術部の川合 彰 氏は、リプレースを検討したきっかけとしてデータの肥大化やシステムのモノリス化があったと言及。同じくサポートシステム技術部の安藤 昌哉 氏とともに、詳細をこのように説明します。

「リプレースを検討した 2016 年時点で、FDAS 上のデータ量は 4TB に達しつつありました。そして、驚くべきことにこの内の 1TB 以上が、直近の 1 年間で収集したデータだったのです。FDAS では月次でバッチ処理を走らせていますが、総容量や 1 度の転送量の肥大化により、月内で処理が終わらないという事態が発生していました。オンプレミスには物理リソースの制約があるため、このまま運用を続けることに限界を感じていました」(安藤 氏)。

「ユーザーへ提供するレポート環境についても課題がありました。レポート環境では 30 以上のメニューを用意しており、ユーザーはワン クリックで必要なレポートを得ることができます。ただ、改修を重ねてきたことを背景に、集計処理のビジネス ロジックが複雑化していました。集計対象のデータが膨大なこともあって、クリックからレポートの出力までに数時間かかるものもありました。クラウドへただ環境を移すだけでは劇的な効果は見込めない。そう考え、クラウド ネイティブな思考をもったシステム マイグレーションを進めることにしました」(川合 氏)。

このマイグレーションにあたり、コニカミノルタは、システム構造の抜本的な見直しに取り組んでいます。モノリシックな構造に陥っていた従来環境を "CWH (共通データ基盤)" と "アプリケーション" という大きく 2 つにレイヤーを切り分ける。これにより、FDAS にあった性能面の課題を解消するとともに、データ活用のカバレッジを拡大することも画策したのです。

井上 氏と川合 氏は、数あるクラウドから Azure を選択した理由を交え、同取り組みのねらいをこう説明します。

「FDAS は、誰もが容易に分析データを活用できるという意味で有用なツールです。ただ、今後はメニュー化されていない軸からも自由分析を行いたいというニーズが増えてくるでしょう。FDAS のデータを分析とは別の用途で利用するケースも出てくるかもしれません。MFP に関わるデータは、当社にとって大きな資産です。FDAS だけでなくあらゆるサービスを介してこれを利用していくべきだと考え、アーキテクチャをデザインしました」(川合 氏)。

「現在収集しているデータだけを見ても、1 年あたりで蓄積するデータ量は増加傾向にあります。用途を拡大すれば、これまで対象としてこなかったデータも収集することになるでしょう。確かにクラウドではここで求められるスケーラビリティを確保することが可能です。ただ、容量を増やす場合には処理性能も増やさなければならないというクラウドの仕様に疑問を感じていました。Amazon Web Services を始めとする世にあるクラウドは、多くがコンピューティングとストレージを一体化してプランを用意しています。ストレージに合わせる場合どうしても必要以上のコンピューティング性能を持ったプランを組むこととなりますが、情報関連経費の観点で言えば、ストレージもコンピューティング性能も必要な時に必要なサイズで利用したいというのが本心でした。DWH サービスの Azure SQL Data Warehouse ではそれぞれ個別でプラン組みができるため、処理リソースと容量、双方のスペックを最適化できると期待したのです」(井上 氏)。

  • コニカミノルタ株式会社 情報機器 カスタマーサポート統括部 サポートシステム技術部 部長  井上 太二 氏、コニカミノルタ株式会社 情報機器 カスタマーサポート統括部 サポートシステム技術部 係長 川合 彰 氏
  • MFP の高度化によって 1 台から得られる稼働ログが増えたこと、コニカミノルタの MFP を利用する顧客増などを理由に、FDAS に集積するデータ量は 2017年以降で急激に増加。2018年 4 月から 2019 年 3 月の 1 年間だけを見ても、およそ4.2TB ものデータが集積されている

    MFP の高度化によって 1 台から得られる稼働ログが増えたこと、コニカミノルタの MFP を利用する顧客増などを理由に、FDAS に集積するデータ量は 2017年以降で急激に増加。2018年 4 月から 2019 年 3 月の 1 年間だけを見ても、およそ4.2TB ものデータが集積されている

  • FDAS のユーザー画面
  • FDAS のユーザー画面から出力できるレポート・帳票
  • FDAS のユーザー画面 (上) とそこで出力できるレポート・帳票 (下)。性能面の課題を解消することは、レポート出力までのリード タイムの短縮に繋がる。さらに、CWH とアプリケーションを分離すれば、定型レポートの出力だけでなく、ユーザーが独自の軸から自由分析を行う仕組みも容易に実装していくことが可能だ

処理性能を劇的に改善。データの活用範囲も広がる

コニカミノルタでは、MFP の情報を収集するシステムや販売会社が利用するサポート報告システムなど、数多くのシステムを ESB (Enterprise Service Bus) を介して繋いでいます。そしてこの ESB を経由して、CWH へデータを集積。既存システムとの兼ね合いから ESB には Amazon Web Services を利用していますが、それ以外は全て Azure でFDASの環境を構築しています。

本プロジェクトの構築を担当し、15 年以上の間 FDAS の開発/機能拡張・保守/運用を支援してきた株式会社インテックソリューションパワー 西日本本部 中部支社 システム一課 課長の福井 謙二 氏は、新たなサービス基盤のアーキテクチャについてこのようにポイントを整理します。

「ESB を介して転送するデータは、Informatica Power Centerを利用し、全て Azure SQL Data Warehouse に集積されます。FDAS では SQL Data Warehouse からデータ連携を行い、集計処理して Azure SQL Database に格納。これをアプリケーションから参照する仕組みを採っています。SQL Data Warehouse の活用により、増加するデータを日次で蓄積・連携し、FDAS でのバッチ処理時間を大幅に短縮することが可能となりました。また、SQL Data Warehouse や周辺のビジネス ロジックには自動スケール機能を持たせ、転送量や総容量に応じてスペックを最適化しながら稼働させる計画です。さらに、今後の自由分析ニーズの高まりを受け、Azure Analysis Services を初めとする BI 関連サービスも組み合わせられる、ビジネス要求に柔軟に対応できるサービス基盤を構築することが出来たと考えています」(福井 氏)。

  • 株式会社インテックソリューションパワー 西日本本部 中部支社 システム一課 課長 福井 謙二 氏
  • Azure を利用したデータ プラットフォームのアーキテクチャ図。データとアプリケーションを切り分けたことで、自由分析など従来無かったサービスが容易にリリースできるようになった。

    Azure を利用したデータ プラットフォームのアーキテクチャ図。データとアプリケーションを切り分けたことで、自由分析など従来無かったサービスが容易にリリースできるようになった。福井 氏は、「今回のプロジェクトでは短期構築が求められました。そのため、データ加工といった処理はオンプレミスにあった既存のビジネス ロジックを IaaS で稼働させています。今後 Azure Functions や Azure Databricks などを活用してサーバー レス化を進めれば、より運用性の高い環境にしていくことが可能でしょう。」と語った

続けて川合 氏と安藤 氏は、Azure を利用したマイグレーションによって、情報関連経費を従来とほぼ変えることなく容量や性能の課題が解消できたと語ります。

「これまで月次で参照元となるデータを更新してきましたが、月内で作業が完了しないということもありました。マイグレーションを経た今、バッチ作業を滞りなく完了するだけでなく、その頻度も週次へと変えることができ、現在は更に短縮する取り組みをしており3日ほどで実現できる目途が立ってます。情報の鮮度は意思決定の精度に直結します。頻繁にデータが更新できるようになったことは、FDAS 単体でみても大きな成果だと言えるでしょう」(安藤 氏)。

「今回のプロジェクトでは、Oracle Database から SQL Server ベースの PaaS へとデータベースをマイグレーションしました。Oracle 時は高価で導入できなかった圧縮処理をSQL Server ではライセンス費用に大きな投資をすることなく導入することができ、 この圧縮処理によって CWH にあるデータの総容量を大幅に縮小し、ストレージ費用を大きく抑えることができました。従来は難しかった複数ジョブを並列処理することも、マイグレーション時にスケールアウトする機能を盛り込むことで実現しました。また、当社ではオンプレミスの多くのシステムで SQL Server を利用していますから、オンプレミス環境で得たスキル セットが活かせる Azure Database は運用性を高める上でも有用でした」(川合 氏)。

Azure の備えるサービスを駆使し、データ活用を加速させていく

マイグレーションがもたらした成果は、FDAS の利便性・運用性向上、データを活用する領域の拡大だけに留まりません。

FDASの取り組みでは、サービス基盤の健全性を維持するために、運用状況をモニタ リングするダッシュボードを独自に構築。川合 氏は、「Azureが持つ高い信頼性により定常のサーバー監視が不要になり、稼働の確認には、サーバーの状況は Azure Monitor で確認、システムの稼働状況、処理の進捗状況はダッシュボードで確認しています。このAzure Monitor + 独自ダッシュボードにより、運用、保守の作業を最適化でき、また、Azure の高い信頼性と今回のアーキテクチャもあって 24 時間 365 日稼働を続けられる環境が用意できたと感じています。CWH にあるデータは日本だけでなく全世界のユーザーが利用しますから、今回可用性を高めたことには大きな意義があります。」とし、この点を評価しました。

" Azure は有用な PaaS を豊富に揃えています。現時点ではまだ、オンプレミスのビジネス ロジックを一部 IaaS で稼働していますが、近い将来でサーバーレス化できると考えています。"

-井上 太二 氏:情報機器 カスタマーサポート統括部
サポートシステム技術部 部長
コニカミノルタ株式会社

世の中に先行してデータ活用への歩みを踏み出したコニカミノルタ。同社は今、データ プラットフォームの構築によって、この歩みをいっそう加速させようとしています。高品質な商品とデータを駆使したサービス。この両方を武器にして、同社はこれからも、市場から高い支持を得続けることでしょう。

  • コニカミノルタ株式会社、株式会社インテックソリューションパワーのみなさま

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