グローバル市場における競争力をいかにして高めるかが、製造業における深刻な経営課題となりつつあります。「メイド イン ジャパン」という言葉が「品質の優れた製品」を表すようになってから 40 年以上が経過した今、日本が強みとする品質だけでは、競争力を保てなくなってきているのです。とりわけ、成長著しい新興国からは「安く」「速く」「シンプル」なものが求められています。

火力発電に必要なタービンやボイラーなどの製品製造を行う三菱日立パワーシステムズ (以下、MHPS) は、こうしたニーズの変化を受け、Microsoft Azure を活用した「共創プラットフォーム」の提供を開始。火力発電所の運営事業者に対する O&M (運用と保守: オペレーション & メンテナンス) サポートをより柔軟、迅速、低コストに提供してほしいという顧客ニーズへの対応を進めています。

O&M サポートを越えて、顧客と共に価値創造できるプラットフォームを目指す

MHPS は、大型火力プラントの開発から建設、試運転、アフター サービスに至るすべての工程を、自社の技術で提供する企業です。IoT やビッグ データ活用の広がりにより、数多くの製造業が、「もの」を売るだけではなく「こと」も組み合わせて提供できるよう事業転換を図っています。そのような中、MHPS では約 20 年前、1990 年代からこの歩みを進めてきました。三菱日立パワーシステムズ株式会社 デジタルイノベーション総括部 IT戦略企画部の田崎 陽一 氏は、同社が早期から事業転換を進めてきた背景について次のように説明します。

「当社では従来、石炭火力発電向けの事業を主流としてきましたが、1990 年代からは大規模化、高効率化が可能な天然ガス発電向けタービンへと主力事業がシフトしてきました。石炭と比べ、ガスタービンはより厳密な保守が求められる製品となります。発電所は 1 秒の停止が莫大な損失につながる事業ですから、パーツのメンテナンスや交換など、安定稼動のための運用と保守 (O&M) が求められるようになったのです。これを受けて、当社は 1999 年に兵庫県高砂市に遠隔監視センター (RMC) を設置し、O&M サポート事業を開始。お客様の発電所と RMC を専用線で接続し、秒間約 1 万件という情報をリアルタイムでモニタリングすることで、運用管理の最適化や改善、発電性能の向上をサービスとして提供してきました」(田崎 氏)。

  • 全世界に 3 拠点ある RMC のようすは、神奈川本社内にあるセンターで統率されている

MHPS の強みは、自社で製造した製品で発電所を建設するところから O&M サポートの提供までを、自社グループで実施できるという点にあります。製品と構築、保守サービス、これらの品質を担保するために必要な能力を、同社はすべて自社グループ内に持っています。

しかし、海外市場においてもすべて自社でメンテナンスを届けることは、O&M サポートのコスト高騰につながってしまいます。ガスタービンは中東、中南米、ASEAN など新興国での導入が進んでいますが、新興国でプレゼンスを示すには、コスト課題をクリアすることが求められました。

こうした背景のもと、MHPS が 2016 年 9 月からスタートしたのが、バーチャルな RMC 機能を備えたデジタル ソリューション "MHPS-TOMONI" プロジェクトです。三菱日立パワーシステムズ株式会社 パワー&エネルギーソリューションビジネス本部 ICT開発推進部長の石垣 博康 氏は、「共創」をキーワードに、同ソリューションの特徴を説明します。

「最高品質の O&M サポートを求める顧客だけでなく、コストや導入の容易さ、システムの使いやすさなどを求める顧客についても、当社は目を向けなければなりませんでした。既に競合他社がロー コスト サービスを提供していますから、単なる価格競争をしていては、選ばれ続けるサービスにはなりません。"MHPS-TOMONI" で構想したのは、Azure 上にバーチャルな RMC を構築してマン パワーを集約し、コスト課題を解決すること。そして、毎日生まれる膨大な量の発電所運営のデータを、モニタリングを越えた『価値創造』として活用することです。お客様、パートナー、MHPS が『共に』価値を発展させていく、生態系のようなシステムづくりを目指しています」(石垣 氏)。

  • "MHPS-TOMONI" で目指している、モニタリングを越えた「価値創造」

MHPS は「ユーザーの安心」につながるサービス基盤として、信頼性が高い Azure を選択

"MHPS-TOMONI" は、プロジェクト初期からクラウド上に提供基盤を構築することが検討されていました。顧客先の火力発電所から集まる大量のデータを蓄積し、解析し、活用する。これらを迅速に提供するうえで、物理的なハードウェアに依存するオンプレミスでは、顧客が求めるビジネス スピードに追従できないおそれがありました。また、顧客数が不明な段階では、リソースをどの程度確保しておけばよいのかも判断がつきません。MHPS がクラウドを前提に提供基盤を検討したことは、必然といえるでしょう。

"MHPS-TOMONI" 上で稼動するコア アプリケーションには、発電所向けシステムの監視、分析ソフトとして最もスタンダードな "PI System" が選ばれています。石垣 氏は、「あらゆるお客様、パートナーに "MHPS-TOMONI" をプラットフォームとして活用してもらうためには、ユーザーが知っている、慣れている環境を用意することが重要だった」と、この理由を説明。続けて田崎 氏は、「この視点はクラウドの選定においても同様だった」とし、Azure の選定理由を明かします。

「長年 IT に携わってきた私たちの目線で言えば、限られた人員で運用するオンプレミスよりも、多くの専任者で管理されるクラウドの方が、信頼性、セキュリティ水準ともに優れていると感じます。しかし、クラウドを不安視する企業はいまだ少なくありません。当社の顧客は海外にも数多くいますから、だれもが知っているグローバル企業である『マイクロソフトのクラウド サービス』だと示すことが有効だと考えました。Azure の採用がお客様やパートナーの安心につながり、ひいてはそれが "MHPS-TOMONI" の成長を加速すると思えたのです」(田崎 氏)。

"マイクロソフトは他の事業者と比べても多くのコンプライアンス基準を満たしています。また、コンプライアンス取得のスピードもきわめて迅速であり、これらがお客様やパートナーの信頼につながると考えました。また、当社のエンジニアは .NET や Windows をベースに長年開発をしてきました。そこで培った技術がプラットフォーム構築にも活かせるという点も、Azure を採用した大きな理由でした"
-田崎 陽一 氏: デジタルイノベーション総括部IT 戦略企画部 部長
三菱日立パワーシステムズ株式会社

田崎 氏が語ったように、"MHPS-TOMONI" がターゲットとするのは、全世界のユーザーです。データセンターが世界中にあるという Azure の優位性は、全世界の顧客に対して同じ可用性、同じ性能のもとで "MHPS-TOMONI" を提供できることにもつながります。さらに、Azure の備える数々の機能が、MHPS の目指す「共創」を大きく広げることにも期待できたと、石垣 氏はいいます。

「"MHPS-TOMONI" では、将来的に火力発電プラントの自動自立運転を提供することを目指しています。ここに至るまでには、データのモニタリングに始まり、稼動率向上支援や予兆検知、対処策の自動提案など、段階的に O&M サポートを高度化していく必要があります。そのためには発電所から収集するデータだけでなく、パートナーが持つ運用ノウハウなど、膨大かつさまざまな形式のデータを収集し、分析していかなければなりません。Azure はこうしたデータを収集するための Azure IoT Suite や、集めたデータを機械学習技術で分析するための Azure Machine Learning などを PaaS として備えています。こうした機能をうまく使っていくことで、"MHPS-TOMONI" を速やかに発展させていけると強く感じました。また、Azure は機能追加のスピードが速いため、その点にも期待しました。最近提供開始された Azure Stack も、当社のビジネスと親和性が高いと考えています」(石垣 氏)。

Azure Stack は、Azure 上に構築したサービスをオンプレミス環境でも設置可能にするAzureの拡張機能です。機密保持やガバナンスの観点から、「自社で監視、分析プラットフォームを持ちたい」という発電事業者は少なくありません。そうした場合にも、Azure Stack を利用して "MHPS-TOMONI" を顧客のオンプレミス環境に設置すれば、データの分析、活用が可能となります。システムの設置箇所を問わないという利点は、共創の主体となるユーザーやパートナーが "MHPS-TOMONI" を採用するハードルを引き下げることにつながるのです。

  • "MHPS-TOMONI" のシステム イメージ

"MHPS-TOMONI" の価値を高めていくことのできる機能性と拡張性に優れたサービス基盤を、早期に構築

MHPS が Azure の採用を決定したのは、2016 年春のことです。同社はそれからわずか半年後の 9 月に "MHPS-TOMONI" の提供を開始。2017 年 11 月時点で、"MHPS-TOMONI" は 35 の発電所に対して O&M サポートを提供しています。

"MHPS-TOMONI" ほどの規模のシステムをクラウド上に構築することは、MHPS にとって初の試みでした。ですが、先述のとおりこの作業は短期間で完了しています。田崎 氏は「早期にサービス インできたことは、大きな意義を持つ」と語り、次のように評します。

「クラウドの有用性は理解していたつもりでしたが、半年で設計から検証までを完了できたことにとても驚いています。オンプレミスでこの規模の開発を行う場合、半年という期間は、サイジングだけで過ぎてしまうでしょう。クラウドではミドルウェア以上の階層のみに作業を集中できるため、プロジェクト工程とシステム構成の両方を簡素化することが可能です。これは、開発の短期化だけでなく、今後の拡張性を見越した柔軟なシステムを用意できるということでもあります。市場変化が激しい中、早期にサービスインしたこと、そしてニーズに対応するための機能拡張に即応できることは、ビジネスの成否に影響します。こうした視点からも、Azure の採用は最適だったといえるでしょう」(田崎 氏)。

"MHPS-TOMONI" ではモニタリング データの収集を 1 分周期で行っており、専用回線を引いて物理 RMC から提供するリアルタイム モニタリングはオプション サービスとしています。しかし、既に多くの発電所が "MHPS-TOMONI" を利用しているという事実は、物理 RMC をもった O&M サポート契約が選べない顧客が同サービスに対して高い価値を感じていることを意味します。石垣 氏は今後、コンセプトに掲げた「共創」の動きを加速することで、"MHPS-TOMONI" のユーザーにさらなる価値を提供していきたいと語ります。

「お客様である電力会社と我々プラント メーカーが協業して発電所運営の最適化を目指す取り組みが、既に始まっています。たとえば東京電力フュエル&パワー様と当社の共同で進めた『火力発電のトラブル予兆検知モデルの構築』では、2017 年 9 月にこのモデルの有効性を確認し、発電所での適用を実際に開始しています。MHPS の立ち位置は、従来の『顧客の発電所を支援するメーカー』から『顧客のビジネスを支援するパートナー』へとシフトしつつあるといえるでしょう。こうした『共創』の動きは、"MHPS-TOMONI" というプラットフォームがあって初めて生まれたものです。さまざまな企業とのコラボレーションによって、今後、"MHPS-TOMONI" で提供できる価値を高めていきたいと考えています」(石垣 氏)。

"当社ソリューションの価値を高めるべく、現在、Azure を用いたデータ分析にも取り組んでいます。お客様だけでは気づくことが難しい問題を "MHPSTOMONI"が検知してアラートを提示するといったような「新しい価値」を、共創を通じながら世に提供していきたいと考えています"
-石垣 博康 氏:パワー&エネルギーソリューションビジネス本部
ICT開発推進部 部長
三菱日立パワーシステムズ株式会社

ローカル環境とクラウドを複合した O&M サポートの提供を計画

Azure で稼動する "MHPS-TOMONI" は、「TOMONI - 共に」と名づけられたとおり、世界のあらゆる発電所とそこに携わる企業を結び付けるプラットフォームとなっていくでしょう。また、"MHPS-TOMONI" は三菱重工業のエネルギー ソリューション "ENERGY CLOUD" との連携も行っており、グループどうしを結び付けることにもつながっています。「お客様やパートナー、そして当グループが持つ豊富な資産、情報、ナレッジを組み合わせることで、市場に大きな影響力を持つサービスにしていきます」と、田崎 氏は意気込みます。

一方、MHPS では、O&M に関するすべてのシステムがクラウドに移管することはないと予測しています。石垣 氏は O&M の将来像について、次のように語ります。

「秒間におよそ 1 万件も生まれる情報を発電所のオペレーションに十分なほど信頼性高くリアルタイムに処理することは、よほどの技術革新がない限り、クラウドでは実現しないと考えています。実装自体は既に可能ですが、コストがわりに合わないのです。今後は、エッジ側でリアルタイム データ処理を行い、クラウド側では情報解析と故障予知のモデル構築を進める、というように双方の役割が明確化されていくと考えています。こうした観点で、ローカル環境にも Azure のサービスを拡張できる Azure Stack は、大きな意義を持ちます。物理 RMC で提供する O&M サポートと "MHPS-TOMONI" の両方を組み合わせてより優れたソリューションを提供できるよう、これからもお客様やパートナーの声をサービスに反映させていきます」(石垣 氏)。

グローバル競争の激化によって、日本企業が強みとする「品質」だけでは生き残ることが難しい時代がやってきました。ICT を活用することで、自分たちが培ってきた強みを活かしつつ、顧客ニーズにも適うサービスの提供を始めた MHPS。同社の取り組みは、今の日本企業にとって大いに参考になることでしょう。

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