配車注文アプリの普及が進むなか、電話による 無線配車システムのクラウド化に着手
DX(デジタルトランスフォーメーション)の波はタクシー業界にも押し寄せています。スマートフォンアプリによる配車注文が普及し、クレジットカードに加え QR 決済などへの対応によるキャッシュレス化も加速。タクシーチケットも紙から電子へと移行が進み、ドライブレコーダーを活用した危機管理・自己管理体制の改善と対応の迅速化も浸透するなど、あらゆるシーンで IT が効果的に活用されています。
1928 年(昭和 3 年)4 月に創業し、一台のハイヤーから事業をスタートした日本交通は、現在東京特別区・武三地区(東京23区、武蔵野市及び三鷹市)を中心としたタクシー事業・ハイヤー事業に加え、関係会社・業務提携会社との連携により、関東近郊、関西エリアでもサービスを提供しています。東京都内においてはもっとも多くの車両・乗務員を抱えるリーディングカンパニーでもある同社は IT 活用の推進にも積極的に取り組んでおり、自社開発アプリをルーツに持つ(現在は独立企業として活動)タクシーアプリ「GO」の活用をはじめとした DX ソリューションを積極的に導入し、顧客のニーズに応えてきました。システム部門を統括し、無線センターのセンター長も務める日本交通 システム部 部長 の岡村 敦司 氏は、配車注文アプリの利用が急速に普及している現状について、こう語ります。
「もともとタクシー業界は、乗務員(ドライバー)がタクシーを“流し”、現地でお客様を乗せて目的地に移動し、現金で運賃をいただくという、アナログな仕組みでビジネスが成り立っていました。そこにオペレーターが電話を受けて状況を確認し、乗務員と連携しながらタクシーを配車するという無線配車の仕組みが加わり、さらに効率化を図るためのデジタル活用が推進。スマートフォンで配車注文ができるアプリが登場したことで無線配車の件数が一気に増加しました。現状では無線配車の 大多数が配車注文アプリからですが、とはいえ残り少数となった電話を使った配車注文に関しても、今後も絶対数は変わらないと予測しており、サービスを提供し続ける必要があると考えました」(岡村 氏)。
日本交通の IP 無線配車システムは、長年にわたり運用を続けていくなかで進化を遂げ、地図画面と車の動きがリアルタイムに連動するなど、非常に完成度の高いシステムに仕上がっていたと言います。ところがシステムの開発・運用を担うベンダーがサービスを継続できなくなるという事態に陥りました。それでもニーズがある限り、廃止するという選択肢は考えられなかったと岡村 氏。「配車注文アプリが主流になっていくなか、オンプレミス環境にシステムを作り直す予算を確保するのは難しいものがありました」と振り返り、解決策としてクラウドサービスを利用したシステムの構築を検討したと解説します。そこで同社が着目したのが、クラウド型の CRM ソリューションを活用して 無線配車システムを構築するというアプローチでした。
「従来の IP 無線配車システムはオンプレミス中心の構成で、一部のサーバーはMicrosoft Azure(以下、Azure)の IaaS 上に構築していましたが、電話とシステムを統合する CTI(Computer Telephony Integration)については無線センターの環境に構築する必要がありました。ところが、昨今のコロナ禍によりオペレーターの分散稼働を強いられた際に配車注文に対応できなくなってしまい、VPN を急遽張り直すなど対策を施したのですが、電話のやり取りが 10 秒くらい遅れたことにより顧客からクレームが入ることもありました。こうした経緯もあり、完全クラウド型のシステムを導入する方向に舵を切りました。そこで以前から付き合いのあったソリッドアドバンスに相談したところ、Azure 上に配置した CRM プラットフォームをベースに 無線配車システムを構築するという提案をいただきました」(岡村 氏)。
クラウド型の CRM をベースに、短期間・低コストでのシステム構築を実現
クラウド型 無線配車システムの導入プロジェクトは、2020 年 12 月から本格的に始動します。既存システムの廃止というタイムリミットによるスピーディーなシステム構築が求められる一方で、コストを抑えて構築・運用したいといった要望もあり、クラウドの採用は必然とも言えました。無線配車に関わる課題解決を主な業務とし、本プロジェクトにおいても中心的な役割を担った日本交通 システム部 兼 無線センター 企画管理部 チーフマネージャーの大西 太朗 氏は、ソリッドアドバンスの提案を採用した経緯について振り返ります。
「ソリッドアドバンスには、以前からさまざまな提案をいただいておりました。非常に求心力のある企業であるという印象を持っており、既存システムの廃止という課題に直面した際にも、快い対応と迅速な提案をいただけました。機能的に過不足なく十分なシステムであるという評価は大前提として、加えてスピード感、拡張性、コスト面での要望にも対応してくれたことが、採用の決め手となりました」(大西 氏)。
ソリッドアドバンスは 20 年にわたって CRM の開発を行っており、近年では受注開発にとどまらず、純国産の CRM パッケージとなる「All Gather CRM」の提供も推進しています。さらに Azure上にAll Gather CRMのプラットフォームを構築する「All Gather Cloud」サービスも提供しており、本プロジェクトには、最新バージョンである All Gather CRM V3 と All Gather Cloud を軸としたクラウド型の 無線配車システムを提案しました。ソリッドアドバンス 代表取締役 ソリューション統括本部 部長の鳥谷部 浩 氏は、本プロジェクトのシステムについて次のように解説します。
「ソリッドアドバンスでは、長年にわたり受託開発で個別に CRM 案件に対応してきましたが、数年前からパッケージ化、さらにはクラウドサービス化を推進して全国展開を図っており、現在は国内 200 社以上の企業が導入している状況です。All Gather CRM V3 は、試行錯誤を重ねて作り込んだ完成度の高いパッケージで、その最大の特徴は拡張性の高さにあります。UI はもちろん、より踏み込んだプロセスまでをユーザー側でカスタマイズできるようになっており、今回も All Gather CRM V3 をベースにカスタマイズを施し、『日交スマート配車システム』というソリューションとして提案させていただきました。Azure 上に構築するクラウド型のシステムで、乗務員向けアプリには CRM のスマートフォンアプリを拡張したものを提供する仕組みです」(鳥谷部 氏)。
CRM ソリューションは、顧客情報や行動履歴などを管理し、営業活動やマーケティングなどに活用されるケースが一般的ですが、ソリッドアドバンスでは、顧客と乗務員、オペレーターが密接に連携して位置情報の管理や配車指示を行う 無線配車システムに対しても、CRM の機能が有効であると判断。All Gather CRM には CTI オプションも用意されており、CTI クラウドサービスと組み合わせることで、CTI を含めて顧客情報の管理が行える仕組みを提案したと鳥谷部 氏は語ります。
岡村 氏も「システムを短期間かつ低コストで構築したいという要求に対して、拡張性の高い CRM で対応するというソリッドアドバンスの提案は検討に値するものでした」と振り返り、さらに日本交通が培ってきた IP 無線配車システムのノウハウを生かしたいというニーズにも対応してくれたとソリッドアドバンスの技術力を高く評価しています。
本プロジェクトにおけるクラウド基盤として Azure が採用された理由としては、そもそも All Gather CRM のプラットフォームとしてAzure が採用されていたことに加え、本プロジェクトを推進するうえで重要となる機能が Azure に実装されていたことが大きかったと、システム開発の責任者であるソリッドアドバンス ソリューション開発グループ 統括マネージャー の原田 翔 氏は語ります。
「乗務員のスマートフォンに通知やチャットを送信するために、Azure のモバイルプッシュ通知機能である Notification Hubs を活用しています。他のクラウドサービスで同等の機能を利用すると、大幅なコスト増となることもあり、費用対効果を考えても Azure がベストであると判断しました」(原田 氏)。
実際、ソリッドアドバンスの知見をもとに Azure の機能を効果的に活用することで、2022 年 1 月にソリッドアドバンスが提案した日交スマート配車システムが採用されてから、わずか3 カ月でプロトタイプの開発が完了。同年 4 月から構築した簡易環境で台数を絞った形で実証実験が行われ、配車のロジックを見直すなど、緻密なマッチングを実現するための作り込みが進められました。そして既存システムの廃止のタイミングに合わせ、同年 10 月から東京特別区・武三地区における従来のIP 無線配車システムを日交スマート配車システムへと完全移行することに成功しています。
拡張性に優れた CRM に実装された機能と Azure が提供する機能が相乗効果を生む
Azure 上に配置された CRM プラットフォームをベースに構築された日交スマート配車システムは、クラウド CTI サービスを用いて顧客からの電話を受け、IVR(自動応答)で処理。オペレーターは必要な情報を CRM 側で処理し、配車指示を乗務員のスマートフォンに送信するという構成を採用しています。原田 氏は、日交スマート配車システムのシステム構成について以下のように語ります。
「今回のプロジェクトでは、24 時間 365 日システムを停止させないことが大前提となります。そこで All Gather CRM を配置した All Gather Cloud プラットフォームの領域に、Web アプリケーションや DB サーバーなど、すべてのシステムを載せて冗長化。障害が発生してもシステムが停止しないことを時間をかけて検証し、問題がないことを確認したうえでリリースしています。無線配車の特性上トラフィックが時間帯によって変動するため、最もトラフィックが増大するタイミングでも問題が生じないことを検証するのに苦労しました」(原田 氏)。
鳥谷部 氏も、Azure 上の VM を拡張して冗長化・負荷分散した構成を採用したと語り、さらに「顧客情報の管理や営業支援(SFA)といった CRM の構成を維持しつつ、CTI からの情報を登録し、それを有効活用できる仕組みを構築していきました」と説明します。
大西 氏は、コストを抑えながら必要な機能を実装することに苦労したと語り、ソリッドアドバンスの支援によって本来は実装する予定のなかった機能も盛り込むことができたと喜びます。
「車両(乗務員)の現在地は重要な情報であり、従来の IP 無線配車システムでは地図上で車の動きが可視化されていました。ただこれを新しいシステムでも再現しようとすると莫大なコストがかかるため、乗務員が配車注文を受けた場所(出発点)とお客様が今いる場所を地図上で確認できるような機能を実装しました。オペレーターはそれを確認し、到着が遅れそうな場合はお客様に連絡することができます。当初は予定がなかったのですが、ソリッドアドバンスの協力のおかげで、コストをかけない形で実装できました」(大西 氏)。
他社の CRM パッケージで同じような仕組みを構築していくとかなりのコストがかかると鳥谷部 氏。「前述した CTI オプションも、もともと All Gather CRM に実装されている機能を日本交通様向けに拡張したもので、拡張性の高さはコストの削減にも生かされています」と力を込めます。また、1000 台以上の車両への配車は、All Gather CRM の活用としても初の大規模事例と言え、その意味ではマージンも含めた可用性を実証できたことが大きいと本プロジェクトで得た成果を実感しています。
本プロジェクトを統括した岡村 氏も「単に我々からの要望に応えるだけでなく、ツールや拡張機能を用いたさまざまな提案をいただけたことが、ソリッドアドバンスをパートナーに採用したメリットであると感じています」と語り、ソリッドアドバンスの支援を高く評価しています。
また、今回の取り組みにおいては、マイクロソフトのサポートも重要な役割を担っています。鳥谷部 氏は「技術的なサポートはもちろん、コスト的な部分でも数多くの提案をいただき本当に助かりました」と語り、原田 氏も「今回のプロジェクトは All Gather CRM にとってかなり大規模なもので、知見のない事象にぶつかるケースが数多くありました。その際にはマイクロソフトに相談して、都度適切なアドバイスをいただけました」と感謝の言葉を口にします。
Azure Data & AI サービスの導入など、クラウド CRM のメリットを生かしたチャレンジを続けていく
プロトタイプの実証実験を経て、都内においては既存の IP 無線配車システムからの完全移行を実現した本プロジェクト。現在は都内だけではなく、関東全域の日本交通の無線室のシステムを日交スマート配車システムで巻き取り、本社無線センターに集約するという取り組みを進めています。その結果、オペレーターの処理件数が、前システムと比較して 20 %向上したと岡村 氏は導入効果を語ります。
「取れなかった電話が取れるようになりました。これまでは、オペレーターの増員か、コストを考えて現状のオペレーターに努力してもらうといった選択肢しかなかったのですが、今回のシステムは拡張性が高く、オペレーターの意見も反映しやすくなっています。そのため負荷を軽減する改修を進めることができ、結果として処理件数が 20 %アップしました。乗務員も含めて、コミュニケーションを取りながらシステムをブラッシュアップできるようになったことが大きな成果と感じており、乗務員やオペレーターからは『フットワークが軽くなった』といった声も出ています」(岡村 氏)。
運用開始にあたっては、配車アプリを導入する乗務員のスマートフォンの機種や OS のバージョンが多岐にわたっていたため、不具合が起きるケースもあったと岡村 氏。さらに以前のシステムとの違いにとまどうオペレーターも少なくなかったと導入時の苦労を語り、オペレーションの見直しや無線センター内でのツール作成などにより解決を図ったと説明します。また、従来の IP 無線配車システムは、現場で自由な登録・編集が可能な仕組みとなっており、基幹システム内のマスターデータとの乖離が課題となっていました。
「アプリを適切に動作させるためには、正しいマスターデータをアプリ側に渡す必要があるのですが、当社の基幹システムにあるマスターは現場の運用を反映していないものも少なくありませんでした。その意味では無線センターで運用していた従来の IP 無線管理システムがハブ的な役割を果たしていた側面もあり、新しいシステムへと切り替わったことでマスター管理に苦労することになりました。システム部や無線センターなど関係各所が協力して、日次で更新できる仕組みを構築し、解決を図っています」と大西 氏は語ります。
日本交通では本プロジェクトの成果を踏まえ、今後は Azure のメリットをさらに生かしていきたいと考えています。リモートワークを推進して遠隔地や短い時間しか稼働できないオペレーターでも働ける環境を実現したり、集約したデータを Azure の Data & AI ソリューションで分析・活用していきたいと岡村 氏。さらに関係各社が個別に運用しているシステムを日交スマート配車システムに集約・連携させていければと展望を語ります。
原田 氏も Azure が提供する BI サービスや AI ソリューションの活用を視野に入れた提案を考えており、「乗務員やオペレーターの方、そしてもちろん乗車されるお客様の満足度向上につなげていきたいと考えています」と語ります。鳥谷部 氏は、CRM 本来の機能をより活用してもらいたいと語り、「集約したデータを使って分析・レポートの作成を行い、特定のお客様に対してマーケティングに活用するなど、さまざまな提案をしていきたいと考えています」と抱負を口にします。
日本交通とソリッドアドバンスが推進する、クラウド化をフックにした業務効率化及び顧客満足度向上の取り組みからは、モビリティ DX の未来像が見えてきます。マイクロソフトと Azure は、今後も支援を続けます。
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