企業変革を支援する総合プロフェッショナルファームとして 2020 年に設立された Ridgelinez が、データ利活用基盤を構築し、社内 DX 実践を加速させています。背景には、SaaS と PaaS を活用したフルクラウドなアーキテクチャを推進するうえで直面した「データのサイロ化」や「データ陳腐化に伴う関心の薄れ」への対応があったといいます。DX 推進に不可欠なデータの課題を Ridgelinez はどう解消したのか。同社のデータドリブンマネジメントの取り組みと、そこで Microsoft Azure が果たした役割を紹介します。

「変革の稜線を最初から最後まで登り抜く」企業変革を支援する総合プロフェッショナルファーム

「未来を変える、変革を創る」という使命のもと、富士通グループにおいて、企業変革を支援する総合プロフェッショナルファームとして 2020 年 4 月に設立された Ridgelinez。社名は、山の峰から峰へと続く線である稜線(ridgeline)にちなんでおり「お客様と共に、変革の稜線を最初から最後まで登り抜く」という決意を示しています。また、山々が重なり合い美しい景色を生み出すように「多彩な個性が共創することで、新しい価値を生み出す」という意味も込められています。

Ridgelinez は、目指すべき姿を明確化した「適切なストラテジー」、ツールありきではない「利用者目線のテクノロジー」、そして、迅速な実装を可能にする「最適なデザイン」の 3 つを組み合わせ、クライアントの伴走者として「変革の稜線」を共に歩みます。DX 戦略を進めるにあたり、多くの企業は「戦略」、「技術」、「実装」などの側面で課題を抱えています。Ridgelinez では、長年の実績を持つ富士通グループの知見・ノウハウ、スタートアップとしての俊敏性や先進性を活用し、戦略の策定からアーキテクチャの設計・開発、エコシステムの構築・運用まで、変革を End to End で支援するコンサルティングサービスを提供しています。

変革を支援するうえで欠かせない取り組みの 1 つが自社における実践です。歴史的に見ても、イノベーティブな取り組みの多くは自社の実践から生まれています。クライアントに対して、最適な戦略、技術、実装を提供するためには、Ridgelinez 自らが DX 推進のリーダーであることが求められます。そうした重要な役割を担うのが、Ridgelinez の DX 推進およびシステム導入/運用を担う部門 Corporate DX&IT です。Corporate DX&IT シニアマネージャー 林 航 氏はこう話します。

  • Ridgelinez株式会社 Corporate DX&IT シニアマネージャー 林 航 氏

    Ridgelinez株式会社 Corporate DX&IT シニアマネージャー 林 航 氏

「社外はもちろん、社内に対しても DX に資する取り組みを実践していくことが Ridgelinez のミッションです。コーポレート IT を担う DX&IT では、その実践から得られた経験値をクライアントおよび富士通グループに還元していく役割を担っています。本来コンサルファームというシンプルな業態ですが、あえて多様な製品やサービスを積極導入し、自分たちが肌感覚を持って DX を語れるよう取り組んでいることが大きな特徴です」(林 氏)。

徹底的な実験の 1 つにクラウドサービスの活用があります。フルクラウドを基本コンセプトに先進的な SaaS や PaaS を積極的に導入し、複数のサービスをつなぎ合わせるベスト オブ ブリードなアーキテクチャを志向しています。林 氏によると、このアーキテクチャの最も重要な目的の一つがデータドリブンマネジメントであり、同手法を確立するために採用したのが Microsoft Azure(以下、Azure)でした。

  • フルクラウドを基本コンセプトにしたアーキテクチャ

    フルクラウドを基本コンセプトにしたアーキテクチャ

Microsoft Azure を活用して「データドリブンマネジメント」を社内実践

データドリブンマネジメントは、データに基づいてあらゆる意思決定を行う経営管理の手法です。データはビジネスのアウトプットであり、それをデータ利活用基盤に収集し、全体俯瞰でインサイトを得ることで、経営、リーダー、スタッフなどビジネスに関わるさまざまな人が業務フローの改善やシステムの改善、迅速な意思決定を行うことを目指します。林 氏はこう話します。

「エリア横断のデータを分析・可視化することで、意思決定者や社内キーパーソンの目を引き、部門の垣根を超えた意思決定につながります。データは、人を惹きつけ、つなげ、行動をうながす主体であり、変革のきっかけになるものです。例えば、営業部門と人事部門がデータで連携することで、ビジネス見込みや実績、強化したい領域を踏まえた、タイムリーな採用計画の見直しが可能です。また、従業員がダッシュボードを活用できるようにすることで、部門を超えたリーダー陣のディスカッションや協業が促進されます。実際、Ridgelinez では、こうした組織変革が起こることを社内 DX 実践によって実感することができました。今は、データによって新しいマインドやカルチャーを作り上げていく環境ができあがりつつあります」(林 氏)。

もっとも、当初からデータドリブンな環境が整備されていたわけではありません。Ridgelinez は、富士通グループという日本を代表する総合電機メーカーの歴史やノウハウを組織のバックグラウンドに持ちながら、企業変革を支援する総合プロフェッショナルファームという新しいビジネスを展開するスタートアップとしての意識、文化を併せ持つ企業です。富士通グループとして従来から利用していたシステムと、新法人設立にあたって新たに採用したシステムが混在する環境だったが故の困難があったといいます。Corporate DX&IT 渡辺 克哉 氏はこう話します。

  • Ridgelinez株式会社 Corporate DX&IT 渡辺 克哉 氏

    Ridgelinez株式会社 Corporate DX&IT 渡辺 克哉 氏

「当初は、富士通グループの基幹システムを利用しつつ、業務 SaaS をベストオブブリードで組み合わせるかたちでした。データドリブンを志向するというより、事業や組織をスピーディーに立ち上げ成長させるために、業務エリアごとに最適なサービスをまずはとにかく導入することに注力していたのです。ただ、業務 SaaS が増えるのにともない、データが急速にサイロ化していきました。既存の ERP ・基幹システムにデータを集約することも難しく、データを横断的につなげるための新しいアプローチが必要でした。そこで取り組んだのがデータドリブンマネジメントと、そのための基盤である Azure の本格採用でした」(渡辺 氏)。

Synapse Analytics でデータ利活用基盤を構築、データを巡る複数の課題を解消

Ridgelinez が利用していた業務 SaaS は、計画/予測のための EPM(Enterprise Performance Management)サービスや、商談管理のための SFA / CRM サービス、財務会計向けのクラウド ERP サービス、経費精算サービスなどです。SaaS でカバーできない業務については、ローコードプラットフォームやサーバーレスアプリケーションを活用して最小限の開発を行っています。また、サービス間の連携には iPaaS(Integration Platform as a Service)サービスを活用するという構成です。

「先進かつデファクトスタンダードなサービス群を組み合わせ、資産を持たないフルクラウドの実現を目指していました。ただ、データはそれぞれのサービスごとに持っているため、サービスとしてプロセスは連携しているものの、データが横断的に連携しているわけではないことが課題でした。各システムから手元でデータを取得して加工すれば、データを見える化することはできるものの、活用にまでつながらないケースが増加していったのです」(渡辺 氏)。

「見える化できるが活用できない」ケースというのは、例えば、実績のレポートや経営指標をダッシュボード上で表示することはできるものの、それをもとに次のアクションがとれないような状態です。

「当初、ダッシュボードのデータはリアルタイムに反映されるわけではありませんでした。自分たちが見たいデータを自由に操作して見られるわけでもありません。急速にビジネスが成長したこともあり、データをアップデートする頻度やデータの品質も不十分になりがちでした。すると、次第にダッシュボードを見てもらえなくなり、みんながデータに興味を示さなくなったのです。こうした事態に対応するために、認証基盤やサーバーレスですでに実績のあった Azure を活用して、データ利活用基盤の構築とデータドリブンマネジメントの採用を本格化させたのです」(林 氏)。

Ridgelinez では、認証基盤として Azure Active Directory(Azure AD)を採用し、業務ロジックの実装などでサーバレスサービスの Azure Functions や Azure Logic Apps を活用していました。Azure Functionsや Azure Logic Apps は、業務ロジックを素早く実装できるサーバーレス環境として Azure のサービスのなかで最初に採用されたもので、例えば、Microsoft Excel で入力したデータをリレーショナルデータベースである Azure SQL Database や NoSQL データベースの Azure Cosmos DB と、API を介して連携させることなどに使っていました。

「Azure には、Azure Functions や Azure Logic Apps のような使い勝手の良い優れた PaaS が多いことは知っていました。データのサイロ化やデータへの関心の薄れといった課題に対しても、Azure のさまざまなデータサービスが利用できると考えたのです」(渡辺 氏)。

現場レベルでのデータ利活用が加速、「経費精算の自動不正検知」まで開発

そんななか、データ利活用基盤として新たに採用したのが DWH サービスの Azure Synapse Analytics(以下、Synapse Analytics)でした。すでにさまざまなデータが Azure SQL Database や Azure Cosmos DB に蓄積されてきており、それらを Synapse Analytics で収集/加工し、BI ツールである Microsoft Power BI(以下、Power BI)を使って、リアルタイムにデータが反映されるダッシュボードを新たに構築し、従業員が利用できるようにしました。

「データの収集や加工は基本的にわれわれが手元ツールで行っていました。ただ、これによって、スピード感や柔軟性が失われタイムリーなデータ提供ができなくなったり、属人性が高まってしまい異動などでメンテナンス性が失われがちになることが課題でした。そこでデータ利活用基盤では、収集や加工を自動化し、また、現場部門がこれらの加工済みデータに自由にアクセスして、自分が必要なデータをいつでも利用できる環境を作ることを目指しました。Synapse Analytics を使うことで、包括的にデータの収集、加工、マネジメントができるようになります。また、どんなデータが利用可能なのかを把握するためのデータカタログ機能を提供する Microsoft Purview(以下、Purview)も合わせて採用し、現場の担当者が Power BI を使ってデータを見たり、新規レポートを作成するために Purview でデータを確認できるようにしました」(林 氏)。

Ridgelinez がフルクラウドを目指して SaaS を積極的に採用したのは会社設立 1 年目です。それにともなうデータのサイロ化やデータへの関心の薄れに直面し、データ利活用基盤の構築をスタートさせたのが 2 年目のこと。3 年目に入ってからは、Power BI や Purview を使った現場レベルでのデータ利活用が急速に進んでいる状況だといいます。

「新しいダッシュボードによって、開発エンジニアだけではなく、人事部門や経理部門の担当者が分析のためのレポートやアプリケーションを自由に開発できるようになり、データの民主化が進みつつあります。また、データを可視化するだけでなく、他の SaaS と連携した仕組みを構築したり、AI などの最先端機能を組み込んだりする取り組みもはじまっています。」(渡辺 氏)。

高度なデータ活用事例の 1 つに、経費精算の自動不正検知があります。経費精算サービスと人事システムのデータを連携させ、申請内容と人事内容を照合して、過去の申請実績などを見ながら、何らかの不正や誤謬がないかを AI が自動検知し、アラートを出す仕組みです。この仕組みは人事や総務部門だけでなく、リスクマネジメントを専門にした弊社コンサルタントも参画して構築しました。

  • データ利活用基盤の概要

    データ利活用基盤の概要

データ利活用プロジェクトを成功裏に進めるポイントは「ストーリー」と「驚き」

現在、Azure を基盤とするデータドリブンマネジメントは、Ridgelinez のシステム運用や組織文化の醸成といった点からさまざまな効果をもたらしています。システム運用面での効果としては、開発サイクルの高速化とセキュリティ環境の強化が挙げられます。

「以前は、あるデータ同士をつなぎたいと思ってもできないことがありました。しかし、現在は、データ利活用基盤を使って、GUI ベースで簡単にデータの連携や可視化、アプリケーションの開発ができます。以前は 1 カ月かかっていた開発が数日で済む場合も少なくありません。Azure の魅力は、さまざまな取り組みを行うためのリソースがオールインワンで入っていることです。開発自体も Azure DevOps を使って効率化していて、製品やサービス同士の親和性や連携性も高い。また、セキュリティについても、マイクロソフトのサービスを軸にゼロトラストセキュリティ環境を実現することで、安全なデータの利活用が可能です」(渡辺 氏)。

組織文化の醸成面での効果としては、部門の垣根を超えた連携が進んだことや、各部門のチームがデータを利活用してビジネスフローを変えていくカルチャーが育まれたことを挙げます。

「計画/予測サービスと人事システムを連携させ、コンサルタントやエンジニアの稼働状況の可視化やアベイラブル要員の可視化を行った事例もあります。データを起点にさまざまな部門のさまざまな担当者がコラボレーションやデータ活用に向けた活動に取り組むようになりました。みんなのマインドが大きく変わってきていることを実感しています」(林 氏)。

林 氏によると、データドリブンマネジメントやデータ利活用基盤プロジェクトを成功裏に進めるポイントは「ストーリー」と「驚き」にあるといいます。

「誰が、いつ、どこで、どうやってデータのありかを把握してダッシュボードを作るのか、それを誰がどんな場面でダッシュボードを参照して意思決定を行うのか、というストーリーを練り上げ、そのストーリーの中で優先度の高いコンポーネントからシステム化していきます。また、ストーリーを描く際には、いかに『あたらしい驚きを感じてもらえるか』に焦点を当てるかも重要です。例えば、Power BI の表現力や改修スピードの速さは、エンドユーザに与えた驚きの一つだったでしょう。また、実際の取り組みにおいては、Azure DevOps のような開発/運用管理のプラットフォームを活用しました。『開発優先度をこまめに見直しながら、高い頻度で小さくリリースしてストーリーを実現していくアジャイル型である』ことも重要です」(林 氏)。

林 氏は「データドリブンマネジメントの取り組みに終わりはありません。今後も適材適所でさまざまなサービスを組み合わせ、その自社実践の結果をお客様に提供していきます」と今後を見据えます。

マイクロソフトは、Ridgelinez の DX 実践とお客様へのさらなる価値提供の取り組みを支援していきます。

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