デジタル複合機(MFP)を中心に、オフィスで活躍する事務機器を長年にわたり提供し続け、OA メーカーとして確固たるポジションを築いてきたリコー。同社はいま、OA メーカーから脱皮し、デジタルサービスの会社へ生まれ変わろうとしています。ニューノーマル時代におけるワークプレイスと新しい働き方に焦点を当て、デジタルを活用した新たな価値を顧客に提供するため、まずは社内 DX の実現が必須だと考えた同社は、データ分析を推進するプラットフォーム構築に乗り出しました。そのソリューションとして、クラウドベースのエンタープライズ型の統合データ分析サービスである、Azure Synapse Analytics が採用されています。
デジタル活用の働き方を社内実践し顧客への価値提供につなげる
リコーは 1936 年、理化学研究所の研究成果を工業化する目的で設立された理化学興業から、感光紙の製造販売会社として独立した企業をルーツとしています。その後は光学機器、事務機器へと事業を広げ、1970 年代に世界初の事務用高速ファクシミリを発売するなど、OA 分野で確固たる地位を築いてきました。
同社の事業の根底にあるのは、働く場にフォーカスした価値提供です。時代が進み、ワークスタイルが急速に変化しているいま、同社は従来のオフィスから現場を含めたワークプレイスへと領域を拡大し、顧客に対する新たな提供価値を「EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES(以下、EDW)」と定めて、働き方の変革に取り組んでいます。
2019 年にはリコーグループ 3 社が総務省や厚生労働省からテレワーク推進に関して表彰を受けているように、まずはリコー自体が新しい働き方の追求を率先して進め、そこで得たものを顧客にも展開することを目指しています。ワークフロー革新センター EDW開発室室長の芝木 弘幸 氏はこう話します。
「お客様にデジタルを活用した新しい働き方を提案・価値提供するには、まず自らが EDW を社内実践することが重要です。本社・設計・生産・サービスなど各部門でデジタルを導入し、現場のプロセス改革としての社内 DX を進めてきました。その結果、確かな手応えと成果を確認できたことで、お客様に提供できるレベルまで昇華するための体制として 2020 年 4 月、ワークフロー革新センターを設立しました」
同センターでは RPA や AI、Microsoft 365 など各種デジタル技術・ツールの利用促進に加え、全社でデータを活用できる基盤の整備も重要なミッションとなっています。この流れの中で、今回のテーマであるデータ分析基盤のプラットフォーム導入プロジェクトが動き出しました。
新たなデータプラットフォームで分析の壁を低くする
デジタルツールの進化により、いまはさまざまなデータを取得できるようになっています。ものづくりを生業とするリコーでも、設計においては評価過程でのセンシングデータ、生産現場では検査や工程品質のデータ、そして市場からは製品の稼働状況や保守サービス履歴など、多種多様なデータを収集しています。しかしながら同社ではそうしたデータをうまく活用できていなかったと、芝木 氏はプロジェクトに至った経緯を解説します。
「従来、各種データは個別のシステムで管理され、連携できていませんでした。また、そもそもどこにどのようなデータがあるかわからない、データがあっても分析のためにデータを集め加工するのに時間がかかる、といった問題がありました。そこで、全社で迅速に利用できる一元化したデータ基盤を構築し、データ分析の壁を低くしようと考えたのです」
新たなデータプラットフォームの構築に向け、同社では以前から導入実績のあったマイクロソフトに相談。マイクロソフトの紹介により、構築パートナーとして Microsoft Azure(以下、Azure)の多彩なソリューションに知識と経験、導入実績を有するジールを選定しました。
「システム構築は WHAT(何を解決するか?)が重要といわれますが、スタート時に大きな効果が見込める WHAT が明確にあったわけではありません。これまでも、市場品質と工場の工程検査データを分析し、設計や生産工程にフィードバックするなどデータ利活用にトライしてきましたが、次々と新たなデータを追加して分析を進めるというスピード感に欠けていました。
そこで、とにかくデータ分析基盤をスピーディーに作り上げることが分析を加速させるためには必要だと位置づけ、まずは HOW(どうやって速く分析サイクルを回すか?)からスタートすることにしました」と芝木 氏は振り返ります。
そのデータ分析基盤のソリューションとして採用されたのが、Azure Synapse Analytics です。ジール ビジネスアナリティクスプラットフォームユニット 上席チーフスペシャリストの永田 亮磨 氏は、選択の理由を次のように語ります。
「リコー様は、Azure SQL Managed Instance を使い、Power BI の環境で利用していたこともあって、新たなデータベースとして Azure Synapse Analytics を選択するのは自然の流れでした。要件定義のプロセスで重視していたのは、今後起こり得るさまざまな分析ニーズに対応するプラットフォームとしてどの基盤を選定すべきか、という観点です。そこで、ビッグデータの分析に有効な Spark などの機能を兼ね備えた統合分析サービスとしての Azure Synapse Analytics が有力になりました」
選定の過程では、芝木 氏が語った「まずは HOW」の考え方も大切にしたと永田 氏は付け加えます。
「分析ケースが登場するたびにその機能を持ったアーキテクチャで設計し直すのではなく、なるべく大きなアーキテクチャでデータプラットフォームを用意することが重要だと考えました。Azure Synapse Analytics はマイクロソフトが分析機能の拡充を進めており、そうした大きな思想を持ったアーキテクチャでありながら、まずは HOW を実現するという視点でスモールスタートできるところも適していると判断したのです」
ちなみに永田 氏は、製品とサービスに関する深い知識と多様なプラットフォーム・製品・ソリューションを集結させる能力を持ち、実際の問題を解決できる人物としてマイクロソフトが認定する Microsoft MVP(Microsoft Most Valuable Professional)です。データプラットフォーム領域の Microsoft MVP は世界に約 400 人、日本では 12 人しかおらず、その 1 人である永田 氏及びジールに、リコーも大きな信頼を置いていました。
データ処理高速化でより大規模な分析にも道を開く
それでは、今回 Azure Synapse Analytics を導入して構築したデータプラットフォームの概要を見てみましょう。以前のシステムでは Azure 上にデータベースを設置していました。ただ、この構成では SQL Managed Instance の容量が最大で 8TB と制約があり、データを蓄積して分析に取り組むにあたっては性能不足になる懸念がありました。芝木 氏と同じワークフロー革新センター EDW開発室に所属し、プロジェクトの取りまとめ役を担った佐藤 雅彦 氏は、こう説明します。
「データ基盤の構築にあたっては、ビッグデータ解析に対応することを視野に入れていました。Azure Synapse Analytics で置き換えた新たな構成は、社内のシステムと Azure を専用線で結び、Azure 側でデータを受け取った後は、必要に応じてデータの品質チェックを行ってから、Apache Spark を使ってデータを加工し、オープンソースのストレージレイヤソフトウェアである Delta Lake を使ってデータを保存しています。
Power BI へのデータ提供は、Azure Synapse Analytics のサーバーレス SQL プールなどを使っています。また、品質チェックについてもさらなる性能向上ができるように Delta Lake のスキーマ適用機能の利用や、ジール提供の Spark テンプレートの利用を検討しています」
Azure Synapse Analytics の導入はスムーズに進んだと佐藤 氏は振り返ります。社内ユーザー向けの権限設定やサーバーレス SQL プールの設定など、細かなところで苦労した点もあったようですが、いずれもジールやマイクロソフトのサポートで解決できたとのことです。
SQL Managed Instance に入れていたデータの移送はすでに終わったほか、データサイズが大きいため従来は保存していなかったデータも追加し、利用を開始しています。「これまではできなかった重いデータの処理がスムーズに行えるようになり、データ分析の生産性と質の向上を感じています」と佐藤 氏。従来のアーキテクチャでは 3 時間かかった処理がわずか 10 分で済むようになるなど、効果を感じていると評価します。
社内での活用拡大に手応えを感じ、次のステージを見据える
HOW からスタートして社内におけるデータ分析の広がりを目指す今回の取り組み。実際に活用は広がっているのでしょうか。芝木 氏が語ります。
「現在はまだ、ものづくりに関係する設計・生産・市場の一部データの蓄積にとどまっています。ただ、サービスや物流など活用できるデータは数多く存在しているので、今後はこれらのデータも統合することで、分析の範囲が広がり、大きな価値の創出につながると考えています。実際に、物流や人事系などものづくりと直接関係がないデータでも、この基盤を活用したいという声は社内から次々と出ています」
もちろん、この取り組みは社内実践にとどまらないはずです。冒頭で紹介したように、リコーはデジタルサービスの会社に生まれ変わることにより、顧客への新たな価値提供を目標としています。
「この社内実践で得た経験と成果を、今後お客様に提案できるものに育てていきたいと考えています。処理が速いと、単に待ち時間が減って効率が上がるだけでなく、思考を切らさず次々と新たな分析にチャレンジできることから、分析の質の向上にもつながります。マイクロソフトには、今後もさらなるスピードアップを実現する先進的技術の提案を期待しています」と芝木 氏。リコーの歩みを、マイクロソフトも引き続きサポートしていきます。
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