Microsoft 365(以下、M365)をはじめとしたクラウドサービスは、いまや企業活動をするうえで欠かせないアイテムになった。しかし、仕事をしながら「なんだか通信が遅いな」と感じたり、社内から「Web会議の映像が固まってツライし、音声もちょくちょく途切れる」といった声が聞こえてきたりすることもあるのではないだろうか? こうした事態は言うまでもなく業務に悪影響を与え、生産性も大きく下げてしまう。せっかくのクラウドサービスが、ビジネスのジャマをしかねないわけだ。
原因として考えられるのが、クラウドサービスの利用に伴いトラフィックが増大して発生するネットワークの輻輳(ネットワーク機器や回線にアクセスが集中し、処理能力を超えてしまうこと)である。本記事では、クラウドサービスのビジネス活用で深刻なテーマになっているこの問題に注目し、有効な解決につながるヒントを見ていくことにしよう。
クラウド活用が増えるにつれ、通信環境が悪化の一途……
総務省の過去数年の通信利用動向調査(※1)によると、2020年に68.7%と7割に迫っていた企業によるクラウドサービス利用は2021年に7割を超え(70.4%)、2024年の最新調査では80.6%とついに8割を超えた。その中で、クラウドサービスの利用に効果があったと感じている割合もここ数年は88〜89%台で推移し、ほぼ9割に達しているところを見ると、クラウドサービスの利用価値の高さが多くの企業で理解されていることがわかる。
<参考資料>
(※)通信利用動向調査/総務省 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05a.html
その一方、業務で当たり前のようにクラウドを使うようになったことから、ネットワークを行き来する通信が大容量になり、トラフィックが混雑。要するに、道路での渋滞と同じ状況が発生して、冒頭で書いたように「通信速度が遅い」「Web会議が快適にできない」といった不満も生まれるようになった。
一般的に利用されるクラウドサービスの中でもとりわけ大容量通信を必要とするのが、Web会議である。Microsoft TeamsによるWeb会議が今日も明日もスケジューリングされている……そんな人もきっと少なくないはず。しかも最近は働き方が多様化して、リモートワークの社員が増えたことから、オフィスで顔を合わせない社員とのコミュニケーションや情報共有にも不可欠なものとなっている。
このWeb会議、大量のトラフィックを使用し、ネットワークに負荷をかける。そのため通信環境が混雑し、肝心なところで音声が途切れて大切な部分が聞こえなかったり、映像が固まって滑稽な表情が映し出されたままになってしまったりといった経験は、誰もがしていることだろう。そしてWeb会議を快適に行えないと、情報をスムーズにやり取りできないだけでなく、相手が社外であれば自社の信頼に影響する可能性もあるし、何よりストレスがたまる。そうすれば業務効率が下がってしまうことは言うまでもない。
Web会議が原因で起きるトラフィック増大はその当事者だけでなく、Web会議をしていない他の社員が行う仕事にも影響する。またWeb会議以外に、クラウドストレージに大容量ファイルをアップロードするといった使い方でトラフィックが逼迫するケースもあるだろう。こうした事態が続けば、ひいては社内全体で業務効率が低下し、従業員のモチベーション、さらには会社に対するエンゲージメントを損なってしまう危険性だってあるわけだ。
これではいけない。ビジネスへの深刻な影響を避け、クラウドサービスの活用をより効果的に成長につなげるために、企業側としてはいますぐに対策をとるべきなのだ。
大容量トラフィック問題を解決に導く4つのパターン
クラウドサービスの利用拡大に伴うこうした通信負荷の課題を解決するには、どうすればいいのか。まず思い浮かぶのが、クラウドサービスへの通信を、データセンターや本社ネットワークの拠点を通さずインターネットに直接接続する「ローカルブレイクアウト」だろう。特定の通信(例えばWeb会議)に関してゲートウェイ環境を経由しないようにするため、大容量トラフィックによる社内ネットワークリソースの負荷を減らし、“渋滞解消”を期待できる。
ただ、ネットワーク構成や利用環境によって、ローカルブレイクアウトでは別途コストがかかったり、制約が生まれたりすることもある。また、クラウド通信の負荷を減らしたいと一口にいっても、実現する場合のニーズは企業によって異なり、つまりは適切な方法も変わってくる。その意味から、ローカルブレイクアウト以外の方法も挙げてみた。
1.拠点からのローカルブレイクアウト
従来のオフィスワーク向けに、社内各拠点のルーターで特定のクラウドサービスへのアクセスについてはゲートウェイを経由しないようブレイクアウト設定を施し、インターネット回線に直接つなげる方法。Web会議など大容量トラフィックを使用する通信を設定対象にすることで、その通信がゲートウェイを通過せずに済むので懸案の“渋滞”を回避でき、Web会議などが快適に行えるようになる。
2.リモート接続端末からのローカルブレイクアウト
在宅勤務などのリモートワーカーは通信時に社内拠点のルーターを経由しないため、端末にリモートアクセスサービスを利用するためのクライアントソフトをインストールすることで、特定のクラウドサービスへのブレイクアウトを実現できる。こちらについては、利用しているリモートアクセスが閉域網サービスなどインターネットにつなげられないものである場合は、当然ながらブレイクアウトによるクラウドサービスへのアクセスもできない。加えて、クライアントソフトがブレイクアウトに対応していないケースもある。また、そもそもリモートワーカーがさほど多くない企業では、実施しても通信負荷改善の効果は薄いだろう。
3.ロードバランサーによる通信の振り分け
Web会議以外の通信も分散させたい場合は、ロードバランサーによる通信振り分けが有効だ。外部のトラフィックを複数サーバーに分散させるロードバランサーの設置で、Web会議など特定のクラウドサービスへの通信と一般的なWeb閲覧(HTTP/S)の通信を振り分け、負荷を効果的に減らせる。ただ、UDPトラフィックにより行われるWeb会議の通信についてはロードバランサー側がその制御に対応している必要がある、機器を新たに購入するコストや運用するコストが必要になるといったデメリットはあり、インターネットゲートウェイではなくWAN側で輻輳が起きている場合も解決策とはならない。
4.クラウドへのダイレクト接続
M365を主に使っている企業であれば、クラウド型専用回線「Microsoft Azure Peering Service」を利用することで、特定の通信をクラウドのダイレクト接続へと動的に振り分けることが可能になる。こちらについてはクラウド通信の負荷をうまい具合に解消し、遅延を低減できるうえ、M365に広帯域で接続できるようになるメリットもあるが、コアL3スイッチが動的ルーティングに対応している必要があり、対応していない場合は新たな機器の購入・運用が必要になるなどロードバランサー同様の問題が発生する。もちろん、M365を使っていない企業ではそもそも利用できない。
4つの構成を実現するIIJのソリューション
ここまで、Web会議をはじめとしたクラウドサービスの利用で発生するトラフィック増大の課題を解決するための方法に迫ってきた。本記事ではさらに、日本のネットワークに関する多様な課題を長年にわたり解決してきたインターネットイニシアティブ(IIJ)が提供する、上記4つを実現できるそれぞれのソリューションを紹介しよう。
まず1つ目、拠点からのローカルブレイクアウトを実現するには「IIJクラウドナビゲーションデータベース」が適している。同サービスはIIJのSD-WANサービスの拠点ルーターに不定期に変更となるクラウドサービスの宛先情報を配信。クラウド通信を適切な経路でブレイクアウトすることによって、トラフィック増大を回避し、快適な利用が実現するというわけだ。
2つ目のリモートからのローカルブレイクアウトに関しては「IIJフレックスモビリティサービス/ZTNA」に注目したい。リモートアクセス機能に加えて、Microsoft TeamsやZoomのような大容量通信を必要とするクラウドサービスの通信をブレイクアウトすることができる。端末にインストールするのみで利用できるため、既存ネットワークの変更を最小限に導入できる点も特長といえる。
3つ目のロードバランサーによる振り分けでは、「IIJクラウドプロキシサービス」がソリューションになる。クラウド上でSaaSなどへの通信を最適な経路に振り分けるサービスで、Web(HTTP/S)の通信も分散できる点や日々更新されるM365の宛先リストに追従するので運用管理者の負担が減るメリットも大きい。
そして4つ目のクラウドダイレクト接続では、クラウドサービスとデータセンター・拠点を閉域網で相互接続する「IIJ Smart HUB」が力を発揮。広帯域を必要する大規模な環境にも適しており、拠点の終端機器からアクセス回線まで含めフルマネージドで提供されるため、運用負荷軽減にもつながるソリューションだ。
クラウドサービスの活用は今後さらに広まりと深まりを見せていくことだろう。そのとき、安定的・高速に快適接続できる環境が用意されていなければ、ビジネスに多大な影響が表れてくる可能性もあるので、これを機に企業としてクラウドサービス接続環境の充実に取り組んでみてはいかがか。
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