DX推進が叫ばれて久しいが、まだ多くの企業がその実践に苦心している。なかでも中小企業におけるバックオフィス業務はなかなかDXが進まず非効率な状態が続いているのが現状だ。なぜバックオフィス業務のDXは進みにくいのか。DXを成功させると、どのような恩恵がもたらされるのか。

2025年3月18日、「税制改正大綱解説とこれからの経理部門の在り方 2025Mar.」に、ピー・シー・エー株式会社事業戦略部 プロダクトマーケティングセンター ITコーディネータ 浦川 貴成 氏が登壇。「2025年のバックオフィス業務の現状と未来」と題した講演の様子をお届けする。

3割の人が「この 10年でバックオフィス業務が改善した」と感じている

ピー・シー・エー株式会社は 1980年に創業した、基幹業務システムの開発販売会社である。具体的には財務経理担当者向けの会計ソフトや、売上や仕入れ、在庫管理ができるソフト、さらには固定資産管理や償却費計算、法人税計算、電子申告などを行うためのソフトなどを開発販売している。

また、人事総務部向けにも、給与計算や人事管理、勤怠管理などのソフトや、氏名や住所が変更になった際の身上届を社員自身がスマートフォンから申請できるサービスなど、幅広いバックオフィス業務に対応できる製品・サービスをとりそろえているのだ。

そんな同社の事業戦略部プロダクトマーケティングセンターでITコーディネータを務める浦川氏は、近年のバックオフィス環境の変化を探るため、中小企業中心にアンケート調査を実施したという。

「10年以上前は何百万円もしたようなツールが、安価にクラウドで利用できるようになっています。そうしたなか皆さんの職場環境がどうなったのか、『ここ10年における経理・総務における業務内容・職場環境の変化』について調査しました。その結果、約半数の方が『変化がほとんどない』と回答されたのです」(浦川氏)

  • (写真)浦川 氏

    ピー・シー・エー株式会社事業戦略部 プロダクトマーケティングセンター ITコーディネータ 浦川 貴成 氏

この結果を意外だと感じる人は多いかもしれない。浦川氏は、「ペーパーレス化やリモートワークの導入、業務の自動化や社内コミュニケーションのデジタル化といった業務改善が、まだまだ実現できていない企業も多いのでは」と分析する。

一方で、約3割の企業はデジタル技術を活用して仕事のやり方を変えており、「業務や職場環境が改善している」と回答している点は見逃せない。

生成AIの弱点をサポートする「PCA AIアシスタント」とは

浦川氏自身も業務の変化は感じており、特に社内で導入した生成AIによる業務効率化は大きいと述べる。

「私自身、生成AIを原稿作成や文章の要約、アイデア出し、翻訳、コード生成、コードレビューなどに利用しており、ひと月あたり 25時間分の業務圧縮ができています。社内で導入した生成AIの利用料 (社員1人あたり)月額 1,000円で、医師や弁護士、公認会計士といった士業レベルのアドバイザーを雇っているようなものです」(浦川氏)

では、バックオフィス部門ではどのような生成AIの活用法が考えられるのか。調査によると、財務経理では「国税庁のWebサイトなどの文章要約」や「領収書や請求書といった書類画像データの読み込み」、「過去の財務データ分析と予算作成」などに生成AIを活用するケースがあるという。また、人事総務においては「採用企画の案出し」や「求職者への案内文の作成」、「各規定のたたき台の作成」などに用いられているとのことだ。

ただし、こうした生成AIには注意点もあると言う。専門的な業務で活用しようとすると、生成AIが次のような回答を返すことがあるのだ。

『具体的な状況に応じて、法的な助言を求められる場合は専門家(税理士、弁護士)に相談し、詳細なアドバイスを受けることをおすすめします』

知りたいのはむしろその先なのに、生成AIがここで回答を辞めてしまうケースは少なくない。そうした生成AI活用の課題を解決するため、ピー・シー・エーが提供を予定しているのが「PCA AIアシスタント」というサービスだ(サービス名は仮称)。

「我々は基幹業務システムを開発してきた会社なので、税理士や会計士、社労士といった方々とつながりを持っています。生成AIに質問した際、最終的にはそういった専門家に話をつないでくれるのがPCA AIアシスタントなのです」(浦川氏)

AIアシスタントに近い概念の言葉として、昨今トレンドになっているのが「AIエージェント」だ。指示をしっかり出さないと回答を返してくれない現状の生成AIと異なり、AIエージェントはさらにその先の動きまでできると言われている。

たとえば、「この日に出張するので飛行機を予約して」と指示すると、自動的にAIエージェントが飛行機のチケットまで予約してくれるような、そんなイメージである。

ただ、実際にAIエージェントが実現する日はまだ少し先のことだろう。その過渡期をサポートするのが、同社が提供するPCA AIアシスタントというわけだ。

「お客様の課題と回答を共有して、最速で質問に回答するユーザーナレッジという機能も開発しています。また、マニュアルだったり、本来はサポートセンターが回答すべき専門的な内容についても、PCA AIアシスタントが回答できるよう開発を進めています」(浦川氏)

DXは企業にどんな効果を与えているのか? 調査から見えてきた意外な事実

ここで冒頭のアンケート調査結果に再び注目してみよう。約 3割がデジタル技術でバックオフィス業務をどんどん改善しているなか、半数の企業はデジタル技術の導入や変化が遅れているのが現状である。

もしかすると、そうした企業はこう考えているのかもしれない。「DX推進は本当に必要なのか?」と。

そこで浦川氏は、実際に「DXが推進されている会社員」と「DXが推進されていない会社員」、それぞれ 100名に調査を実施した。

その結果、意外な事実が見えてきたという。

「私はDXを推進している企業の方が、ルーチンワークが少なくなっているのではないかと想定していました。ところが調査した結果、ルーチンワークの割合については大きな差が見られなかったのです」(浦川氏)

DXというと業務効率化とセットで語られがちなキーワード。それだけに、ルーチンワークの割合がそれほど変わらないというのは意外な結果と言えるかもしれない。

ではDXに意味がないのかというと、そうではない。もうひとつ、意外な事実が明らかになったのだ。

「両者で圧倒的に差が出たのが『評価に対する満足度』と『裁量度』、『報酬満足度』でした。DXが推進されている会社員については、これらの満足度が 90 %に達する一方、DXが推進されていない会社員については、 40 %程度に留まったのです」(浦川氏)

DXの推進状況は「職場環境とメンバーのマインド」に大きな影響を与えるということだ。

事実、社員数 500名以下の中小企業に限定して調査したところ、「身上届や年末調整に必要な情報(扶養控除申告書など)を社員からどのように収集しているか」という質問に対して、半数以上が「紙」と回答しているという。

  • (図)「身上届は社員からどの様に収集しているか」についてのアンケート結果

浦川氏は「大企業では割合は変わってくるかも」としつつも、「まだまだ紙が使われている割合は大きい」と現状を分析した。

経費精算をシステム化し、業務を大きく効率化する「PCA Hub 経費精算」

紙が使われているということは、その紙の書類に書かれている情報をシステムに手入力しているということでもある。この点について浦川氏は、「担当者の時間やエネルギーが入力に消費されてしまっている」と指摘する。

また、システム間の連携についても課題は多いとのことだ。

「経費精算システムを導入している企業は全体の 66 %に上ります。ところが、その経費精算システムを会計ソフトと連携している企業となると、約 52 %まで下がってしまうのです。経費は会計ソフトと連携すべき情報ですから、まだまだ手で入力されている方が多いことがわかってきました」(浦川氏)

  • (図)「経費精算システムと会計ソフトを連携しているか」についてのアンケート結果

なぜ経費精算システムと会計ソフトを連携しないのか。大きな理由が、ふたつのシステムが別メーカーであることによる煩わしさである。同じメーカーであれば、あらかじめ連携を想定したシステムになっているかもしれないが、別メーカーではそうはいかない。そのため、連携には大規模なシステム改修が必要になってしまうのだ。

そうした状況を改善するため、ピー・シー・エーがリリースしたのが「PCA Hub 経費精算」である。

「紙やExcelで申請を行う場合、計算ミスや起票のミスがあるかもしれません。そうなると面倒になって、申請自体が遅れてしまうこともあります。経理担当者にとっては、会計ソフトへの手入力や電子帳簿保存法による管理も負担になりますし、経費の立て替えの支払いや、請求書に対する振込、小口現金などにおいても大変です。『PCA Hub 経費精算』ではこうした運用をシステム化でき、たとえば社員の方がスマホで撮影した領収書のデータなどをそのまま申請情報として扱えます。また、過去の申請を探して複写することも簡単にできますし、金額によって変わる承認ルートなどもシステムが自動判別できます」(浦川氏)

  • 「PCA Hub 経費精算」についての説明図

DX成功企業に共通するポイントとは

経費精算などの作業をデジタル化することは、業務効率化やヒューマンエラーの防止に大きな効果がある。しかし、それでもなかなかデジタル化が進まない場合も少なくない。その理由について浦川氏は、「人間には習慣という強力な粘着力のある機能が標準搭載されている」と指摘する。だからこそ、デジタル化の有用性をわかっていてもなかなか踏み出せないというわけだ。

では、そうしたなかデジタル化を進めるにはどうすればいいのか。

浦川氏がこれまで見てきたDX成功企業に共通していたのは、「実務担当者が業務の可視化をする」ことだという。バックオフィス業務担当者は、会社で最も解像度高く仕事の流れを見ている立場だが、業務を可視化し、何に時間をとられているのかを明確化することがDXのスタートとなるのだ。

一方、経営者やマネジメント層については、「事業目標を言語化し、メンバーへ共有する」ことが重要だという。

「アファメーション(自己達成予言)という言葉があります。目標達成した状態を思い描いて言語化し、宣言することで本当に実現できるというものです。デジタル化がうまくいっている会社の社長さんやマネジメント層の方々は、これを実際にやっていました」(浦川氏)

組織においては、よく目的と手段が入れ替わってしまいがちだ。本来は事業目標達成のためのDXのはずが、現場ではDXそのものが目的になってしまうのである。

「何のためのDXなのかということを、経営者だけでなく現場の一人ひとりまで認識したうえで、何をすべきなのかを考えていただきたいと思います」(浦川氏)

DX推進が叫ばれながらも、中小企業ではまだまだ進んでいるとは言い難いのが現状だ。その理由は、これまでのオペレーションを変更することに対する抵抗感や、経営層が考えるDXの目的がうまく現場に伝わっていないことにある。

その点を意識し、浦川氏が語ったポイントを押さえてデジタル化に取り組むことが、企業における変革の一歩目になるだろう。

関連リンク

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PCA Hub 経費精算