2024年11月19日、Tealium Japanが主催する年次カンファレンスイベント「Digital Velocity Tokyo 2024」が、ザ・リッツ・カールトン東京で開催されました。新型コロナウイルス感染症の流行を受け、同イベントは長らくオンラインで開催されていましたが、7回目となる今回は約5年ぶりのリアル開催です。
【開会の挨拶】ティーリアムジャパン
開会の挨拶を担当したのは、新たにティーリアムジャパンのカントリーマネージャーに就任した安部知雄氏です。

ティーリアムジャパン カントリーマネージャー 安部知雄氏
膨大な顧客データを貯め込み、企業目線でセグメントを切って大きな一括りのデータとし、アクションを起こすという戦略は、もはや時代遅れになっていると、安部氏は語ります。
個人情報プライバシーの保護をした上で、さまざまなソースから取得できる個々のお客さまの属性、興味関心を捉え、いまこの瞬間の熱量と態度変容を掴み、そしてこの瞬間のデータをお客さまにミリセカンドでリアルタイムに渡す、このようなソリューションを、Tealiumは“リアルタイムデータストリーミングエンジン”と呼んでいます。
安部氏は「このTealiumの特殊なエンジンが、来たる生成AI時代に真価を発揮すると思ってます。勝手ながら私は、“生成AI時代の申し子である”と考えるのです」と強くアピールします。
【基調講演1】Tealium Inc. ~リアルタイムデータ革命 - お客様の大切な瞬間に寄り添う~
まずはじめの基調講演には、TealiumのCEOであるジェフ・ランスフォード氏が自ら登壇しました。

Tealium CEO ジェフ・ランスフォード氏
同氏は13年前に設立されたTealiumの歴史とデータ管理の歩みについて振り返り、企業が直面する顧客データのサイロ化問題について言及しました。そして、その解決策として、リアルタイム循環システムの構築が重要であると改めて説きました。
AIドリブンの未来において競争力を維持するためには、リアルタイムデータが欠かせません。そしてファーストパーティデータを得るためには、顧客からの同意を得ることが必要不可欠です。プライバシー規制は世界中的に強化されつつありまますが、Tealiumは信頼できる中立的なプラットフォームとして、ガートナーに洞察力を備えたリーダーとして評価されています。
AIはユーザー企業と顧客とのやり取りを劇的に変革しました。そして、Tealiumは業界初のCDP(カスタマーデータプラットフォーム)にAIを統合したソリューションを提供しています。さらに、同意のオーケストレーションやゼロ パーティデータを収集する機能を加え、Moments iQやMoments APIといった新機能も搭載しました。パーソナライズされた顧客体験を提供するために、今後はリアルタイムなAI搭載プラットフォームが求められることになるでしょう。
最後にランスフォード氏は、「Tealiumは、インターネット革命、モバイル革命と同様に、AI革命がビジネスの歴史において非常に重要な時期であると信じています。AI革命を活用して成功を収める企業は成長をさらに加速させ、AIを取り入れない企業は厳しい競争に直面するでしょう。私たちのお客さまがこのステージに上がり、サクセスストーリーを語る日が待ちきれません」と、会場に向けて激励の言葉を贈りました。
【事例セッション】三菱UFJ銀行 ~Tealium導入の道のりと現在地~リアルタイムデータ活用による金融マーケティング実現へ向けて~
ユーザー事例紹介のスタートを飾るのは、三菱UFJ銀行 リテール・デジタル企画部 部長の鎌田克志氏です。

三菱UFJ銀行 リテール・デジタル企画部 部長 鎌田克志氏
銀行業界のデータ構造は、すべての顧客にユニークなIDが付与されており、すべての取引がIDに紐付けられています。また犯罪収益移転防止法などの法令に基づいた信頼性の高いデータを保持しているのが特徴です。
同社はデータの保管・処理の応用力、対象データの制約、個人情報保護の強化という3つの課題を解決するため、2024年4月にTealiumを導入。AWSと併用するCDPを構築しました。その結果、容量の拡張性、リアルタイム処理、Webデータの一括管理が可能になったのです。
このCDP導入の経験から、鎌田氏は「自社理解」「現地現物」という2点の重要性を強調します。これは、CDP導入の目的を明確にし、優先順位をしっかりと認識したうえで自社に合うツールを選択すること。そして導入企業の実際の利用状況そして運営体制などを知ることです。
鎌田氏は「私どもは当行の保有するデータを駆使して、お客さまとの統合的なコミュニケーションをリアルタイムに実施していくことを目的としてCDP導入を進めてまいりました。現段階でこれまで5日かかっていた配信を1日まで短縮し、クリック率は従前に対し44%向上、コンバージョンレートも50%以上上がっています」と話します。
【パートナーセッション】電通デジタル ~カスタマージャーニーの崩壊と、リアルタイム顧客が意見の創造"瞬間インサイト"を活かすCX最前線の事例紹介~
電通デジタル TXビジネスディベロップメント部 塚本三喜氏はカスタマージャーニー(顧客が購入に至るプロセス)の変化と顧客体験の創造について講演を行いました。

電通デジタル TXビジネスディベロップメント部 塚本三喜氏
現代の消費者行動は単に一方向にのみ流れるものではなく、検索と比較を反復的に繰り返し、十分な情報を収集した後一瞬で購入を決断するという形に大きく変化しています。 塚本氏はこのような現代のカスタマージャーニーを「変化の瞬間の集合」と表現します。
塚本氏は「適切なカスタマージャーニーを探し出すことよりも、いままさに動いているお客さまの心情や行動といったデータに対するアクティビティの方がはるかに重要です。顧客が変化した瞬間を、ぜひみなさまにぜひ捉えていただきたい」と述べ、リアルタイムでの対応の必要性を訴えました。
成功事例のひとつに配達ピザ業界の話があります。ある冷凍ピザメーカーは、デリバリーピザ配達後の写真結果に応じ、ダメージが大きいほど割引率の高いクーポンをリアルタイムに配布しました。この対応により、消費者のその瞬間の不満体験を解消し、ポジティブなインサイトに変えることに成功しました。
瞬間インサイトへの対応として重要なのは、"リアルタイムに"顧客情報を捉え、コミュニケーションを取り、問題解決を行うことだと述べています。しかし、すべてのデータをリアルタイムにする必要はなく、現実的にも難しいため、特に注力すべきは、顧客の「瞬間的な変化」に関連する接点であると語っています。
【事例セッション】ソニーマーケティング株式会社 ~データが生む顧客ロイヤリティ:データ活用マーケティングの最新戦略~
次に、ソニーマーケティング カスタマーマーケティング部門 カスタマーマーケティング戦略部 タッチポイント企画課 統括課長の井上亜希子氏が、ソニーが行っている顧客中心の市場創造型マーケティングについて解説しました。

ソニーマーケティング カスタマーマーケティング部門 カスタマーマーケティング戦略部 タッチポイント企画課 統括課長 井上亜希子氏
現在、国内のAV・家電市場は縮小傾向にあり、モノを作ってモノを売るのではなく、市場を創造することが求められる段階に入っています。モノを所有するだけでなく、そこから生まれる体験価値が重視されるようになっているのです。
「“モノ”から“コト”へ」という言葉がありますが、ソニーは「モノ中心からコト中心へシフトするのではなく、連続性がある」と捉え、そして、「体験の連続性がソニーのファンを作る」という理念のもと、マーケティング戦略を展開しています。
同社は、製品認知、興味・理解、購入、購入後などのタッチポイントごとに顧客のニーズを深く理解し、心地よいアプローチを通じて、「生活者」から「見込み客」、「購入者」、そして「ソニーファン」へと確実に成長させ、ブランドとの深い結びつきによる持続的なロイヤリティの成長サイクルを構築しています。
井上氏は、「私たちがデータを最大限に活用しようとしているのはなぜなのか、これは“顧客を識別して顧客の解像度を上げ、インサイトを探るため”です」と述べ、その重要性を強調しました。
そのために同社は7年前からTealiumを活用し、各部門が所有しているデータをCDPに入れて一元管理しています。また、顧客との継続的な関係を築くための取り組みとして、「My Sony」などのプラットフォームが活用されています。
【パートナーセッション】トランスコスモス株式会社 ~お客様を魅了する差別化マーケティング データの活用からはじまる“差別化ポイントと運用プロセスの確立”を解説~
トランスコスモス CX事業統括 デジタルインタラクティブ事業本部 本部長の松久直広氏は、データを活用した顧客サービスの差別化について講演を行いました。

トランスコスモス CX事業統括 デジタルインタラクティブ事業本部 本部長 松久直広氏
2024年11月、同社は新部署としてデータプラットフォーム部を設立。データソースの特定、収集・整形、分析・可視化を通じてデータ活用プラットフォームを実現し、ワンストップでビジネスの最適化・効率化を推進しています。
他社との差別化を図るには、独自の特徴や付加価値を打ち出すことが重要です。一方、同質化戦略を取ると、次第に価格競争に陥りやすくなるのが実情です。
現在求められている差別化戦略は、製品だけではなく“顧客サービス”においても競争力を高めることにあります。松久氏は、「データを活用し、個人に寄り添った細かな接客をすることが競合に対する優位性を生み出します。ユーザーインサイトをしっかり捉えることで、真の顧客サービスの差別化を実現できるのです」と語ります。
その実現には、仮説を立てた上で実証を重ね、迅速に課題を解決していくPDCAサイクルが重要です。「顧客の声をAIによる分析によって予測しながら、継続的なPDCAを行う体制の構築こそ、トランスコスモスの最大の強みです」と松久氏は強調しました。
【パートナーセッション】株式会社博報堂 ~顧客モーメントを捉えたCX向上のためのデータ活用〜日本ロレアル事例〜
続いて、博報堂 CRM&システムコンサルティング局 システム推進グループ テクニカルプロデューサー 大嶋靖海氏は、日本ロレアル ロレアル リュクス事業部の事例について紹介しました。

博報堂 CRM&システムコンサルティング局 システム推進グループ テクニカルプロデューサー 大嶋靖海氏
ロレアル リュクス事業部は高価値・高価格帯の化粧品を取り扱い、複数ブランド事業を横断的に支援しています。同事業部は、顧客の多様化する行動に寄り添うコミュニケーションを実現し、顧客体験を向上させるために顧客データ活用のプラットフォームとしてTealiumを導入しました。
大嶋氏は「これまでは購買で顧客が分類されていましたが、CDPを導入することで顧客の行動軸を捉えられるようになります。つまり顧客構造にエンゲージメントという軸を加えることができるということです」とその意義について話します。
博報堂は、次の3つの専門チームを編成し、このプロジェクトを支援しました。ひとつ目が、顧客体験の改善方針を策定する「顧客体験戦略チーム」。ふたつ目が、Tealiumを活用したデータ活用基盤を構築する、「マーケティングシステム活用実装支援チーム」。そして安定した運用体制の構築を担う「システム運用チーム」です。モーメント(顧客接点)とインサイト(顧客の意図や行動の洞察)の発掘を行い、パーソナライズ施策を実現しました。しかし、大嶋氏は「Cookieレス時代において、顧客行動をどのように捕捉するか」が今後の大きな課題であると指摘します。
最後に、大嶋氏はこうまとめました。「日本ロレアルさまの取り組みの中で実施した結果を振り返ると、顧客体験の構想をビジネスの実現に結びつけるためには、やはりモーメント捉えることが非常に重要であると考えております。それらを実現するソリューションのひとつがTealiumです」
【基調講演2】ANA X株式会社 ~Tealiumを使って8年目の課題と対策~
終わりの基調講演には、ANA X デジタルマーケティング部デジタル戦略チーム リーダーの大日向健人氏が登壇。同氏は、8年間のTealium利用を振り返りながら、デジタルマーケティングの変革においてユーザー企業が取り組むべきポイントについて語りました。

ANA X デジタルマーケティング部デジタル戦略チーム リーダー 大日向健人氏
ANA Xは、ANA経済圏が持つ商材を顧客に届ける役割を担っています。例えば会員サービス、決済機能、データベース、デジタルコミュニケーションなどです。マイルで生活できる世界を実現し、顧客体験を高めていくことがANA Xのミッションです。
同社は2017年から、Tealiumを中核に据えたデジタルコミュニケーション基盤を構築してきました。大日向氏は、Tealiumの特長として次の2点を挙げています。ひとつ目は、顧客のデータを活用して、個別化された体験を提供する「パーソナライズ施策」。ふたつ目は、顧客のアクションに応じた適切なコミュニケーションを実現する、「顧客行動をトリガーとした定常施策」です。
一方で、8年間使い続ける中で次のような課題が浮き彫りになりました。まずひとつは属性値の整理です。顧客データ項目(属性値)が1,000以上に増加した結果、ライセンスの制約により600項目まで削減する必要がありました。もうひとつは内製化の推進です。従前は企画から施策開始まで1~2カ月を要していましたが、外部委託を内製化することで、この期間を約2週間にまで短縮しました。
大日向氏は、この8年間のTealium活用の歩みを次のように総括しました。「Tealiumは非常に優れたソリューションです。しかし、それに頼りきるのではなく、企業側が運用のあり方を見直し、進化させていかなければ、機能を最大限に活用することはできません。絶えず運用を改善し続ける姿勢こそが重要だと実感しました」
【閉会の挨拶】ティーリアムジャパン
知見に満ちた年次カンファレンスイベントも、ついに閉会の時を 迎えました。閉会の挨拶を務めたのは、ティーリアムジャパン プロフェッショナルサービス&カスタマーサクセス マネージャーのジョン・ルイス氏です。

ティーリアムジャパン プロフェッショナルサービス&カスタマーサクセス マネージャー ジョン・ルイス氏
ルイス氏は、イベント参加者、講演した企業、支援したパートナーに感謝を伝えるとともに、リアルタイムデータ革命の意義をあらためて振り返りました。
これからの時代、同意を得たデータ(ゼロ/ファーストパーティデータ)は、企業成長を支える「燃料」となると、Tealiumは確信しています。AIは近年、飛躍的に進化を遂げていますが、2026年以降、学習データの不足が予測されており、高品質なデータがAIの成果を左右する時代が訪れると言われています。
この課題に対して次に取るべき行動は、企業が直接収集したゼロ/ファーストパーティデータを整理し、常に新鮮な状態でCDPに統合することが重要です。Tealiumが提供するソリューションは、法令遵守のもと、適切な同意を得たデータを活用することができます。それは企業のAI戦略、データ戦略を次のステージへと押し上げることでしょう。
最後にルイス氏は、次のように力強いメッセージで締めくくりました。「私たちTealiumは、みなさんと一緒に袖をまくり、まさに”油まみれ“になって、このTealiumというエンジンを動かし、みなさんのビジネスを加速させる準備ができています。さあ始めましょう、Tealiumと一緒に」と、参加者にメッセージ送りました。
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閉会後はネットワーキングパーティーが行われた