自社光ファイバーネットワーク網を活用した法人向けネットワークや音声サービスをグローバルで提供する英Coltテクノロジーサービスは、昨年11月に米Lumen TechnologiesのEMEA(欧州・中東・アフリカ)ビジネスを買収。また今年の6月には、フィリピン、台湾、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシアの6カ国での事業を拡大することを発表するなどし、グローバルビジネスを拡大している。
そこで、今年の1月に同社のアジア太平洋地域社長(President, APAC)に就任した水谷安孝氏に、日本を含むグローバル戦略について聞いた。
9月20日付で経済同友会の会員になられましたが、経済同友会ではどういった活動をしていく予定でしょうか?
水谷氏:経済同友会の会員の方と話をさせていただいたときに、日本人で欧米の企業に勤め、本社の役員をしている人は珍しいというコメントをいただきました。
そうした観点から、どんなことが海外で起きていて、日本はどういう点を海外から学ぶべきなのか、逆にどういった点で日本に強みがあるのかという点を海外に発信していく点においても、貢献できることがあるのではないかということで、私がメンバーとして登録しています。これまでの経験をもとに、、同友会の政策提案に積極的に参加していきたいと考えています。
日本での取り組みを海外で話をする点では、昨年からケンブリッジ大学のジャッジビジネススクールで、エグゼクティブMBAコースのゲスト講師をしています。このビジネスクールは、世界中からリーダーの方が集まっていますので、日本人としてこんな活動している人がいるということをお話させていただき、活動の幅を少しずつ広げていきたいと思っています。
アジア太平洋地域社長としてのミッションは何でしょうか?
水谷氏:Coltのグローバルでのポジションを確立することが、私のミッションだと思っています。それを実現するには、アジアのサービスを世界のトップクラスに持っていく必要があります。そこには、アジア地域での投資を牽引し、会社の認知度を上げていくことも含まれます。
グローバルでビジネスを展開している日本企業は多数ありますが、そうした企業に、それぞれの国で寄り添ったサービスを提供できる会社は、世界を見渡してもほとんどありません。
日本の企業が海外に進出した際に困ることは、ネットワークの品質が異なったり、日本の常識が通用しなかったりするところだと思います。例えば、サービスの納期やネットワークの品質で問題が生じても、現地の事業者と意思疎通ができないといった問題は頻発しています。
しかしColtには、各国に現地の言語を話せる従業員がおり、自社の社員としてのカルチャーを持ってサービスを提供しているので、きめ細かな対応が可能です。こうしたサービスを日本企業にもっと使ってもらえるようになると、日本の競争力が上がっていくのではないかと考えています。
逆に、グローバル企業が日本に入ってくる際に、Coltのネットワークを使いたいというケースはかなりあります。理由としては、サービスや契約書のひな形に始まり、顧客のエクスペリエンスまで、世界中どこでも同じクオリティのものを提供している点があります。日本で投資を加速する企業が増えれば、日本の経済も活発になります。日本企業においても、海外に進出するときはColtと一緒にビジネスをやっていきたいといわれるところまで持っていくのが、私のミッションだと考えています。
米LumenテクノロジーズのEMEAビジネスを18億米ドルで買収すると発表してから約1年が経過しましたが、どのような変化がありましたか?
水谷氏:大きな変化の一つが、中東とアフリカ地域でサービスを展開できるようになったことです。また、LumenのEMEA買収に海底ケーブル10本も含まれていたため、海底ケーブルのオペレーターになったことが2つ目の変化です。
海底ケーブルを得たことで、日本のお客様が海底ケーブルをアジアで利用したいとなったとき、当社の海底ケーブルをテコにして、戦略的にアジアの海底ケーブルを調達できるようになりました。
さらに、Lumenは北米に本社があるため、彼らの米国のネットワークを使えるようになった点も大きな変化です。この1年間、Coltのネットワークと統合して、最適化することを進めてきました。北米でこれだけのネットワークを自社で敷設することは難しいので、弊社のお客様に対してグローバルのネットワークを提供する上で、北米もカバーできていると思います。
これらのおかげで、2023年度昨年のグローバルイーサネットサービスマーケットのレポートにおいて、これまでずっと2位だったものが、2023年は初めて1位にランクインしました。
競合に対するColtの優位性は、どんなところにあると思いますか?
水谷氏:弊社は各国の大手通信キャリアと競合することが多いです。ただし、そうした企業はホームとなる自国では全国規模のネットワークを持っていますが、海外にはほとんど自社の資産を持っていないため、自国のお客様にサービスを販売することがメインになっています。これは、米国や欧州、アジアでも同様の傾向が見られます。
Coltは、それぞれの国に自社の従業員を置いて、自社でライセンスを取って、自社ネットワークを構築する戦略を取っています。そのため、大半のトラフィックが発生する都市部をオンネットでカバーでき、オフネットであったとしても自社のオンネット網のようにカバーできる仕組みを世界中で作っている点がユニークだと認識しています。
最近は、世界中で100を超えるようなネットワーク事業者と取引がある大手企業も出てきています。こうした場合、資産を世界各国に持っているかどうかで、契約形態が変わってきます。Coltはオンネットのエリアが多く、自社のネットワークのサービスで提供できます。それにより、例えば契約が1つで済み、問い合わせの窓口も1つで提供できるほか、SLA(Service Level Agreement)も、世界で統一したものを提供できます。さらに、それぞれの国でネットワークを調達して、それを再販のような形で提供する事業者と比べると、かなり戦略的な価格に設定できる点も強みになると思っています。
数々の優位性をもとに、どのようなマーケット戦略を展開される計画でしょうか。
水谷氏:Coltは現在、約2万7000社にサービスを提供させていただいています。その中で、規模が大きくアジアに拠点を多く持っている企業としては、米国のほか、欧州では英国、ドイツ、フランスの3カ国が突出しています。今後は、こういった企業にColtのアジアのネットワークを提供し、アジア進出を誘致します。ヨーロッパ企業に対しアジアへのインバウンドを呼び込むような活動を今年から来年にかけて進めます。
逆に、アジアからのアウトバウンドとしては、日本に注目しています。EMEAや米国に拠点を持っている日本の大規模企業は多いです。それをカバーできる状態になっていますので、今後は日本の大手企業のEMEAや米国進出を支えていくところに注力しようと考えています。
また、生成AIの利用が一般化していく中で、大手のクラウドサービスベンダーは、日本国内における巨額の投資を行うと発表しています。これにより、法人各社がデータセンター間をつなげるネットワークを整備する動きが活発になっており、それに応えることで、生成AIによって加速していくネットワークのニーズを支えることが当社の1つの大きな柱になっています。
また、閉域網接続を使ってオフィスとクラウドサービスをつなげるという需要も増えています。2018年から昨年度までを見ても、20%近く需要が増えています。さらに、各オフィスからインターネット接続に関しても、2つの接続を持ったり、単純に回線を増速したりするケースが目立っているので、この需要にも注目しています。
今後、どのような事業領域を強化されるのでしょうか?
水谷氏:コロナ禍を経て、ネットワークセキュリティを見直す傾向があり、SASE(Secure Access Service Edge)ソリューションのご要望が増加しています。
サービス面では、リアルタイムで制御が自動化されるという流れになっていくと考えています。NaaS(Network as a Service)として、リアルタイムでサービス契約ができたり、短期の契約もしくは契約期間の縛りがなくなったりと、API経由でサービス契約の手続きも自動化されるようになります。
今後は、クラウドサービスの増減に合わせて、ネットワークもセルフサービスでコントロールでき、帯域幅やネットワークの経路の選択もできるようになっていくと考えています。
また、ネットワークに付随したFirewall機能やゼロトラスト機能など、セキュリティの機能もネットワークと一緒に選択方式で変更するといった使い方が一般的になっていくでしょう。近いうちにNetwork as a Serviceについての重要な発表ができるように、検討しています。
なお、事業を新しく起こしたり、Network as a Serviceを開発したりする際、サステナブルな社会貢献ができるかどうかを重視しています。サステナブルなものでなければ、事業としては取り組まないことも考えています。
お客様がネットワークを選ぶ際も、通常であれば一番経路が短いルートでつなげるというのが一般的です。しかし、ルートの短さではなくて、化石燃料の使用量が多い国を避けたり、よりグリーンなネットワークを購入したりという選択も可能にして、Coltネットワークを使うことでサステナビリティに貢献できるようなネットワークを提供しけるよう、PoCを行っています。
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