年々深刻さを増す少子高齢化により、保険業界においては被保険者の減少による市場縮小への影響が無視できない状況だ。こうした背景から、大手保険会社を中心にCX(顧客体験)の向上を掲げた動きが進められており、このカギを握っているのが、“マイナンバーカード”を活用したDXだ。本稿では、保険会社がマイナンバー情報を有効活用するための支援を行うTIS株式会社が提供するソリューションを起点に、マイナンバーカードを活用した保険DXのユースケースを紹介する。

マイナンバーカードを利用した公的個人認証・医療データ活用

保険業界におけるマイナンバーカードを利用したDXには、大きく2つの軸があると考えられる。一つは公的個人認証、そしてもう一つはマイナポータルの医療情報データ活用だ。

強固なセキュリティのもと、本人確認時の事業者・ユーザー双方の手間を削減

第1の軸であるマイナンバーカードによる公的個人認証は、保険業界に限らずすでに多くの民間企業においてさまざまなシーンで利用が進んでいる。eKYC(オンライン上で本人確認を完結するための技術)のうちの一つである、マイナンバーカードに埋め込まれたICチップ読み取りと公的個人認証サービス(JPKI)を組み合わせた「ワ方式」は、“強固なセキュリティ”、“事業者の負荷軽減”、“ユーザーの利便性向上”の3つの優位性を兼ね備えている。法令に準拠し、身元確認・当人認証双方の信用度が非常に高いことから安全に本人確認を行え、さらにオンラインで本人確認が完結することから、対面で本人を目視したり、カードのコピーを郵送してもらい画像を確認する必要がなくなるため、事業者とユーザーの手間を省くことができるのだ。

保険業ではオンラインによる契約などに役立てられる他、顧客が一度マイナンバーカードを活用した本人確認を実施しておくことで、転居で住所が変わる、結婚に伴って姓が変わるなど、当人の個人情報に変化があった際にも迅速な現況確認が可能となり、生命保険に関わる存命確認も円滑に進められる。従来のように郵送で現況を確認する必要がなくなり、手間とコストの削減にもつながるだろう。

保険会社は、保険金の支払い時に書類に顧客のマイナンバーを記載する業務がある。死後のマイナンバー確認が難しいことも業界としての課題であるが、契約時にマイナンバーカードをスキャンしておくことで、この課題も解決できる。

PHRの連携によってサービスの幅が拡大

第2の軸となるのは、顧客のPHR(薬剤情報、医療費通知情報、健診情報などの医療情報)を本人の同意の上で保険会社がマイナポータルから取得できるようにして、引き受け査定(申請者と契約できるかどうかの判断)に役立てるDXだ。マイナポータルには、医療保険情報取得APIが提供されており、これを利用することで顧客情報の取得・活用が容易に行える。引き受け査定の他にも、様々なサービス展開が可能になるだろう。

【ユースケース】業務効率と顧客CXを大幅に向上! 大手保険会社も検討を進めるデータ連携とは

そして今、将来的な実現が期待されているDXが、先述のPHR活用を一歩進めた形である“給付金手続きまでを自動化する”というものだ。現在、保険の契約者が入院・治療に関する給付金を請求する場合は、まず保険会社に連絡を入れ、給付手続きに必要となる書類を確認、自身でそれらを揃えて保険会社に送付する必要がある。書類を受け取った保険会社は書類の内容をもとに査定して、支払金額の決定・入金を行うというのが、給付金請求から支払いまでの一般的なプロセスだ。しかしこのプロセスだと、契約者は療養中、入院中や退院直後に書類を揃えるという労力を払わなければならず、病院側は求められた書類の作成、そして保険会社側では送付された書類の確認や、査定システムへのデータ転記といった作業が必要となる。

そこで注目されているのが、DXによる自動化だ。契約者は、保険会社がマイナポータルAPIを利用して自身の医療データを取得することに同意すれば、必要書類を自ら集める必要がなくなる。病院では書類作成のプロセスがなくなり、また保険会社では郵送された書類の確認が不要になる。取得したデータを査定システムに流し込めるようにすることで、書類からシステムへのデータ転記、さらには原本の保管も不要だ。自動化されるプロセスが増えることで給付金を短期間に支払うことができ、効率化と顧客満足度の向上を望めるようになる。

  • (イラスト)給付金受け取りフローの変更

今の段階ではマイナポータルAPIで取得できるデータに制約があるため、このDXはまだ実現していないが、制度の見直しが進むことで近い将来、多くの保険会社がこの仕組みの採用を目指すことになるだろう。実際、国内大手の保険会社では、制度整備を見据えてすでに検討を始めているところもあるようだ。

個人認証の技術、保険業界への知見を備えたパートナーが重要に

このように保険業務のプロセスをマイナンバーでデジタル化、効率化する取り組みは進んではいるが、マイナポータル側が対応していない給付金請求の例があるように、まだまだ過渡期であることは否めない。各社がDXに取り組んでいくためには、デジタル技術と保険業務に精通し、この過渡期にもベストプラクティスを実現してくれるパートナーを選んでいく必要があるだろう。

その候補となりうる企業として、本稿ではTISを紹介しよう。TISはキャッシュレス決済や電力といった社会インフラから、産業・公共を支えるサービスまで、ITで社会基盤を支える総合ITサービス企業だ。公的個人認証サービスにおけるプラットフォーム事業者(※)としての資格も有しており、保険会社におけるマイナンバー情報の有効活用を支援する技術力を備えている。

(※)何らかのサービスを提供する事業者が、顧客のマイナンバーカードをスキャンした際、その電子証明書の有効性は、プラットフォーム事業者を介してJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)に確認する必要がある

同社は個人認証の技術だけでなく、これまで多くの保険会社への支援を行ってきたことから、保険会社固有の業務要件/業務知識とシステム構築の経験が豊富であり、保険業務への知見が深いという点も強みである。そうした知見を活かしてさまざまなサービス展開を行っている。例えば、診断書の解読から各保険会社で定めた傷病/手術コード化までをシステムで行える「Access-医療データ標準化サービス」を提供しており、本サービスは生命保険会社の1/5が利用している状況だ(2024年9月現在)。その他にも、生活者の日々の健康情報や医療情報を生活者自らがさまざまなシーンで活用できるようにする「ヘルスケアプラットフォーム」の構築などにも取り組んできた。その一環として、保険会社がマイナポータルから取得したPHRを引き受け査定に利用するためのシステム構築支援を行う準備も整えている。

  • (イラスト)TISの保険会社にむけたサービス

先述の通り、給付金請求の自動化に向けては制度改定を待たなければならない状況だ。しかしながら、TISでは制度改正を待たず、より早期に給付金の自動化を実現させるための仕組みづくりに取り組んでいる。具体的には、医療ベンダーや電子カルテベンダーと協業・提携し、マイナポータル以外の医療情報から給付金の請求・支払い手続きを円滑に進めるというものだ。マイナポータルだけでなく、さまざまな医療情報を活用できる仕組みを提供することで、より保険会社のニーズに沿った医療情報の活用を実現できることが、同社の強みだ。また同社には金融システムに精通した部門もあるためデジタルマネー決済への対応も視野に入れており、これが実現すれば、給付金申請から受給までの一連フローをすべてデジタル化できる。こうした給付金を早期に、手間なく受け取れるためのDXは、TISだからこそ実現が期待できると言えるだろう。

  • (図)TISが目指す給付金請求・支払い

    TISが目指す給付金請求・支払い

2024年7月の厚労省の発表によれば、マイナンバーカードの保険証利用は10%程度とまだまだ進んでおらず、保険会社がマイナポータルAPIから取得できるPHRも限られている。しかしながら、今後保険業界がさらなる発展を遂げる上では、本稿で取り上げた給付金支給の自動化をはじめとしたマイナンバーカードの活用は、より一層広がりを見せるはずだ。今こそ、将来に備えたIT環境の整備を検討し、DXに向けた準備をできるところから進めていくことが、保険会社を取り巻く課題を乗り越えるための一歩となるだろう。

執筆参考資料:一般社団法人 生命保険協会「デジタル社会における生命保険業界の将来」報告書・提言書 ~マイナンバー制度を通じたデータ利活用による生命保険の利便性向上に向けて~

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