変革に取り組む企業にとって、生活者やステークホルダーの声を聞くことは最も重要である。国内の電通グループ約150社からなる「dentsu Japan」も、まさに、変革を志す企業のそのひとつだ。そこで、マイナビニュースの読者2,503名に電通/電通グループのイメージに関するアンケート調査を実施。この結果を踏まえて、dentsu Japanチーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサー 吉羽 優子氏に、dentsu Japanのブランディング戦略やカルチャー戦略を語ってもらった。

  • (写真)dentsu Japanチーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサー 吉羽 優子氏

    dentsu Japanチーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサー 吉羽 優子(よしば・ゆうこ)氏

働く人の「思い」こそがブランドとなる

―吉羽さんのこれまでのキャリアについて、お聞かせください。

私は2002年に入社し、営業やマーケティング、クリエイティブなど、いろいろな経験をさせていただいています。幼少期と大学院のときに海外に行っていたこともあり、国内のクライアント様はもちろんですが、グローバルのクライアント様も担当させていただきました。その後、2023年に新設されたサステナビリティコンサルティング室での経験を経て、今年からdentsu Japanのチーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサーの任に就いています。

―チーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサーの役割とはどのようなものでしょうか。

この役職ができたのは今年からで、もともとはブランディング担当とカルチャー担当の役員は別々に存在していました。しかし私たちdentsu Japanではブランディングとカルチャーは表裏一体だと考えています。「人」がすべてであり、グループの内側にいる人それぞれが、自分の思いを外に対して発露していくことで、企業グループのブランドにつながっていくのです。それぞれの思いやパッションを企業グループ全体として形づくり明らかにしていく、外に伝えていくというのが、このチーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサーの役割だと思っています。

―「電通および電通グループのイメージ」についてのアンケート調査では、取引経験の有無で、結果に大きな差がありましたね。

  • (図版)「電通もしくは電通グループはどんなイメージですか?」に対する回答

弊社グループと接点のある方々が、私たちの価値を理解してくださっていることは本当にありがたいことです。一方で、それ以外の多くの方には、伝えられていないことがたくさんあるという結果だと思います。そこは真摯に受け止めて、伝える努力をしていかなければならないですし、私のような人間が今の役職に就いたのも、それを変えていくためだと思っています。

dentsu Japan のDEIへの取り組み

―dentsu Japanの「人」のイメージを聞いた結果についてはどのように思われましたか?

  • (図版)「電通もしくは電通グループにはどんな人が多いと思いますか?」に対する回答

「クリエイティブ」「エネルギッシュ」「先進的」などは、まさにdentsu Japanの社員の魅力そのものだと思いますので、このように回答くださった方が大変多いことを、素直にうれしく思います。

一方で、一部厳しいご指摘のある項目もあり、これらについては、真摯に受け止めています。株式会社電通の労働環境改革、dentsu Japanでの意識行動改革など、さまざまな変革活動を通して、社内が以前とは大きく変わっています。このことを社外の方にもご理解いただけるように、しっかり伝えていかなければならない、と改めて感じました。

―dentsu Japanには男性が多いというイメージがあるようですが、実際はどうなのでしょうか?

もちろん男性も多いですが、活躍している女性もたくさんいます。今年でいえば、株式会社電通の新入社員の半数以上が女性です。また、2030年までに海外も含めたグループ全体で女性リーダー比率45%という目標を掲げています。まだ道半ばではありますが、実際に女性リーダーは少しずつ増えています。

―女性従業員の比率が増え、男女比が半々になれば、自然とリーダーも半々になるのでしょうか?

必ずしもそうとは言い切れません。日本の女性のライフプラン上では、育児や介護によってリーダー職を選びづらい、あるいは選びたくないという方もたくさんいます。そういったことを加味しながら、どうしたらその人にとって一番ふさわしい仕事ができるかを、仕組みや制度を含めて考えていかないと、女性社員の比率と女性リーダー比率は比例しないでしょう。これについては総合的に分析し、施策を検討、実施している最中です。

―電通の2023年度の育休取得率は、女性が100%、男性も94.3%という高い数字になっていますね。

はい。人事に関するさまざまな取り組みを現場単位で実行に移すための役職である「HRMディレクター(※1)」の配置や、全員活躍による持続的な事業進化と社会変革をめざすダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)施策など、育児休業の取得に繋がる幅広い取り組みを実施してきたことが、育休取得率の高さにつながったと思っています。

(※1)HRMディレクター:個別の局員に対し、安全配慮の視点から労務管理の徹底、指導・育成、見守りを行う専門職のこと。

グループ全体として、育休制度や復職時の育児サポートに力を入れています。最近の個社の動向でいうと、イグニション・ポイントという新事業創出や投資機能も持つコンサル系の企業では、妊活・不妊治療の無料検査およびオンラインカウンセリング窓口を設け、不妊治療のサポートを行っています。

<参考リンク>
イグニション・ポイント ニュースリリース「イグニション・ポイント、健康経営と DE&I 推進を加速」(2024年7月31日公開)
https://www.ignitionpoint-inc.com/newsroom/date/20240731_PressRelease_DE&I.pdf

(写真)インタビューに答える吉羽 優子氏

私個人も産休や育休を取った際には、いろいろな説明や支援を丁寧に受けた感覚があります。もちろん大変なこともありましたが、私の場合は、私の仕事ができる時間を周りの人が配慮してくれて、自発的に労働時間を決め、その中で自分のやりたい仕事、やるべき仕事をマネージできていました。

―ジェンダーによらず、誰もが活躍できる体制を整えているのですね。

はい。ただ前提として、ジェンダーだけに限らず、さまざまな価値観やスキルをもつ全ての社員が、活躍できる状況を作っていかなければなりません。たとえば入社2年目のある社員は、手話のプロフェッショナルの資格を活かしながら仕事をしています。そういった能力や個性を活かしながら働いている社員もたくさんいます。

<参考記事>
手話通訳のスキルを生かして広げる可能性(2024年7月22日公開)
https://gakumado.mynavi.jp/gmd/articles/74705

―dentsu JapanではDEIに多面的に取り組んでいますね。

はい。たとえば、グループ横断型のプログラムとして、「DEIパーク」というものがあります。DEIパークは、グループ各社からDEIリーダーが集まり、いろいろな知見を共有し学び合いながら、各リーダーが自組織で取り組むべきアクションを発案・実践していくことを促すアクション創出プログラムです。年間で何十ものボトムアップのDEIアクションが生まれ、実践されています。

電通の人財は自ら発案し実行できることが強みで、DEIにおいてもそこを活かしながら推進しています。例えば、「インクルフェス」(IncluFES)という取り組みは、重い障害のある方が、自分たちの力でスポーツを楽しみ、それを家族の方にも応援してもらえるような場を作っていくイベントで、グループ企業の社員からの提案で実現しました。

このように、社会課題を直接的に解決するためのサービスもいろいろ開発しています。例えば「Voice Watch」は、視覚障害がある方でもスポーツ観戦を楽しめるように、目の前のレースを音として描写することで、レースを聴きながら楽しめるサービスです。また、「VISIONGRAM」といって、視覚障害がある方の見え方を再現し、健常者が体験できるようなサービスも作っています。

  • (デモ画像)Voice Watch

    「Voice Watch」(出典:dentsu Japan)

  • (デモ画像)「VISIONGRAM」で視覚障害者の見え方を表現した一例

    「VISIONGRAM」で視覚障害者の見え方を表現した一例(出典:dentsu Japan)

<参考記事>
電通、視覚障害者の目の見え方を可視化するツールをWebサイト上で一般公開(2024年7月22日公開)
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20240329-2917046/

―これもまたDEIの実現につながる取り組みですね。

グループ企業の電通そらりには、障害のある方が100名ほど在籍しています。社食やコーヒーショップなど、グループのオフィスで勤務したり、東京都世田谷区の畑で農作業をしたりと、なるべく日常の接点で一緒にお仕事ができるような環境を整えるようにしています。

  • (写真)農園での作業風景

    農園での作業風景(出典:dentsu Japan)

―障害者向けの職場環境を整えるには、障害者向けの仕事を用意した上で採用活動をするべきでしょうか?

前提としてはそうなるかもしれませんが、日々の業務の中で自然に接点ができたり協力しあえたりする場があるのが大事だと思います。過去に、製薬会社様の案件で「大人の発達障害について、会社として情報発信していきたい」という話がありました。通常だと、健常者中心のクリエイティブチームやWeb制作チームを作って対応しますが、そのときは電通そらりのメンバーにもチームに入ってもらいました。

「障害のある方のために、こういう枠を作りました。だから、これをしてください」と業務内容を決めて依頼するのではなく、クライアント作業の中に自然に入っていただいて、それぞれの知見を活かすことができたので、とても良い取り組みだったと思っています。

広告だけではない、dentsu Japanの多様な事業

―電通もしくは電通グループの事業について知っているものを問う質問では、「メディア」がトップに来る結果となりました。

  • (図版)「電通もしくは電通グループの事業について知っているものを選んでください」に対する回答

メディアビジネスが浸透しているというのは承知していますが、私たちはIGP(※2)になることを標榜しています。

(※2)IGP(Integrated Growth Partner):複雑化・高度化する企業課題から本質的課題を発見し、統合的なソリューション 「Integrated Growth Solutions」 を提供するdentsu Japanの目指す姿。広告やマーケティングを超えたより広い領域から顧客企業の成長をサポートし、社会全体の成長に貢献しようというもの。

いろいろな手段を統合的に組み合わせながら、顧客や社会の成長にコミットするパートナーであることを目指しています。事業領域としては、コンサルティングに近いトランスフォーメーション領域と、マーケティング領域、そのほかスポーツやエンターテインメントなどのコンテンツ領域もあり、これら3つの価値提供領域を組み合わせながらIGPの実現を目指しています。

どうしても広告領域が強いように思われがちですが、よりデータドリブンに推進しているマーケティング領域に加え、DXやBX(ビジネストランスフォーメーション)といった、企業変革や事業変革の支援もしています。

実は、広告以外の領域での売上はすでに全体の3割ほどを占めており、今後もさらに増えていく見込みです。クライアント企業の方々とお話していると、広告だけでは解決できない根本的な課題が見えてきます。その企業の成長に、本当の意味で貢献していくためには、広告以外の領域も含めて、本質的な課題解決をしなければならないと感じています。

―電通グループのパーパス「an invitation to the never before.」のnever before(これまでになかった)は、アイデアやデザインだけでなく、事業においても?

クリエイティビティというと、CMなどの表現のことと捉えられがちですが、私たちが大事にしているクリエイティビティというのはそれだけではありません。クライアント企業のビジネスをいかにして転換させるか、新しい事業を生み出すためにどんなアイデアをコアに持っていくべきか、といったことを考えるのもクリエイティビティです。それを実現させるための体制や協力の座組を考えるのも、クリエイティビティのひとつだと思います。

多彩な人財とその情熱がつくる、これからのdentsu Japan

―今後、dentsu Japanでどのようなカルチャーを広げていきたいですか?

グループには約150社、2万3,000人の従業員がいますが、「これがやりたい」という強いパッションを持った人が多くいます。そしてdentsu Japanは事業領域が大変広いため、個人が持っている情熱を仕事の中で実現できる可能性が高い会社です。その思いを「Passion100」と題して、映像を撮り貯めインナー向けに公開しています。「100秒で語られる100通りのパッション」というコンセプトの元で推進しています。

  • (参考画像)「Passion 100」

    「Passion 100」(出典:dentsu Japan)

それぞれ領域は違いますが、自分が持っている個人としての情熱がどのようにキャリアや仕事で活かされているのかがひしひしと伝わってきます。これだけバラエティ豊かな人財と情熱があり、しかもそれが何かしら仕事につながるというのは、dentsu Japanの特長だと思います。

―dentsu Japanとして、今後、社会にどのような価値を届けていきたいのか、吉羽さんの思いをお聞かせください。

グループのパーパスである「an invitation to the never before.」を私なりに言い換えると、「まだ見ぬ世界を、みんなで一緒に作りに行こうよ」という招待状なんです。まだ見ぬ世界を一緒に作るためには、自分たちだけではなく、社外のみなさんを含めて一緒に取り組んでいかないと解決できない課題がたくさんあります。それを一緒に作っていくのが私たちの存在意義だと捉えており、最終的にはそこを目指していきたいですね。自分たちが自信を持つことで、カルチャーも良くなり、ブランディングもできるようになっていくと信じているので、まずはそこを目指したいと思っています。

この1~2年で絶対にやっていかなければいけないことは、私たちの存在をオープンにしていくことです。何を考え、何のために私たちは企業として存在しているのか、どんなことをしているのか、どんな人が中にいるのか、どんな人がリードしているのか。社会のみなさんからすると、これまで見えない部分がたくさんあったと思います。そこをちゃんと伝えていくのが大事だと思っています。

―ありがとうございました。

アンケート実施概要
調査主体:マイナビニュース
調査期間:2024年7月10日(水)~2024年7月19日(金)
調査対象:マイナビニュース会員 男女2503名
調査方法:マイナビニュース会員サイトログイン式アンケート

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