多くの事業会社のDX推進の軸となり、経営の最重要課題ともいえるデータマネジメント。検討すべきことも多く、思うように対応が進んでいないケースも多い。企業はいかにしてデータを新たな価値につなげていくべきだろうか。7月28日、日本オラクルはオンラインセミナー「DX推進におけるデータマネジメントの戦略と動向」を開催した。

基調講演では、「DXレポート」の生みの親の1人として知られる経済産業省商務情報政策局・情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長 和泉 憲明氏が「DXレポート2.2(最新版)」をもとに、DXやデータマネジメントのあり方について解説。また、主催者講演では、日本オラクル株式会社 システムズ統括 ビジネス推進本部 柳澤 友紀氏が、事例を交えながらDX実現に向けたデータ基盤の動向について紹介した。

  • 和泉憲明氏

    経済産業省商務情報政策局・情報経済課
    アーキテクチャ戦略企画室長 和泉憲明氏

「DX」の本質と目指すべきゴール

2018年9月に経済産業省より公表された「DXレポート」には、「あらゆる企業がデジタル企業へ変革する」という主旨の内容が記載されている。その代表的な事例が、各方面で引用されている宮崎大学医学部附属病院の取り組みである。

同病院では、看護師が携行する端末をスマートフォン(Androidネイティブ)で実装。電子カルテの全項目を構造化すると同時に、本人認証や院内物流にQRコードを導入した。これにより、看護師の入力作業は、かざすまたは撮るだけで済むようになり、ナースステーションに毎回戻ることなく効率的に業務を進められるようになった。結果として、看護師の働く環境およびサービスレベルが向上。離職率の低下につながり、経営改善を実現したという。

和泉氏によると、ポイントは、紙カルテを単に電子化(デジタイゼーション)したのではなく、電子カルテとスマートフォンに最適となるよう業務を組み替えた(デジタライゼーション)ことにある。その後、医師全員にもスマートフォンが配布されるようになり、医師と看護師との関係性が刷新された。これがDXされた組織の姿であるとのこと。

「たとえば、看護師による処置時に何らかのトラブルが起こった場合にも、スマートフォンを通じて医師からのサポートを即時に受けることができ、看護師は安心して業務が行えるようになった。デジタライゼーションによる働き方の変革に加えて、新たな組織文化が確立できたということ。これが典型的なDXといえる」(和泉氏)

DXレポートの公表を機にDXという用語がコモディティ化したが、手段やツールばかりが着目されてしまうようになり、DXへの誤解が生じてしまった側面もある。そこで、DXレポート2.xシリーズは、あらゆる企業がデジタルエンタープライズになり、デジタル産業を創出していくことを重要視した内容となっている。

「既存産業としてパイを奪い合う世界(=1階の産業)は、OEMを頂点とした多重下請け構造が中心であり、人口減で市場が縮小するなかでは、既存ビジネスの強みは『積算コストをいかに低く抑えるか』にしかない。そこで、DXレポート2.xシリーズでは、デジタル産業としてグローバルにスケールする世界(=2階の産業)への変換を後押しする政策を考えている。2階の産業は、デジタル中心であり、データを活用した世界規模でのスケーラビリティのあるビジネスが中心となる」(和泉氏)

  • 和泉さん講演画像

    【DXレポート2.xの狙いと真意】デジタル産業への変革


ITインフラは価値の増幅装置

こうしたDX推進に求められるのは、どのような人材だろうか。和泉氏は「DXは全社レベルのプログラムであり、経営改革やトップマネジメントの考え方そのものであるはず。しかし、小さなプロジェクトとして進めてしまっているのが問題」と経営層のコミットメントの重要性を指摘する。

「技術導入のPoCとして小さなプロジェクトばかりを回してうまくいかず、“PoC貧乏”とも呼べる状態になってしまっている。そして、失敗したプロジェクトの課題分析ばかりして、『どのように成功させるか、ゴールにたどりつくか』ということが議論できていない」(和泉氏) 和泉氏によると、一般に、企業が実現すべき競争の戦略には大きく「better」か「different」の2通りがあるという。とくにデジタル産業の競争戦略は後者が重要となる。

「手工業から機械工業への進化には、家内制や問屋制から工場制への変遷が不可欠だった。だが昨今多くの企業が導入するRPAは、プロセス自体を変化させない。『人の作業のうちどの部分が機械化できるか』という発想では、カスタマイズが増えていくだけ。DXに関わる技術者は、自動化やオートメーションという用語の本質を掴み、技術を目利きしていくことが重要。新しい技術を中心にプロセスを刷新し、人の役割を再定義していかなければならない」(和泉氏)

とくに日本企業の多くは業務の標準化=効率化と誤解しているが、和泉氏によると業務標準化の本質は、「経営判断の高度化」。経営がIT(データ分析)を使いこなすという観点が重要になるという。そして、データ活用を経営の可能性を最大化するための手段と捉えるのであれば、サービスの競争力はITインフラから考えていくことがポイントとなる。和泉氏は「コスト戦略を考える際、サービスは市場原理による淘汰の対象だが、競争力はインフラの質に左右される。良いインフラを整備してどのような産業を強くするか、インフラ(道具)はサービス(スキル)を向上させるためにどのように有用か、という発想で導入の目的を明確にするのが大事」と説明する。ただし、デジタル社会においては、インフラ整備に関する先行事例(=正解)はないことに注意が必要だ。

「インフラの良し悪しは、サービスの競争力の是非でしか確認できない。インフラは価値の増幅装置と捉え直し、ITインフラの要件を議論する前に、業務効率化なのか、コスト効率化なのか、DX推進なのか、刷新の目的を明らかにしたほうがよい」(和泉氏)


シングル・データ・プラットフォームを支えるOracle Database

  • 柳澤友紀氏

    日本オラクル株式会社
    システムズ統括 ビジネス推進本部 柳澤友紀氏

柳澤氏は、オラクルが提供するデータ活用基盤のイメージについて、次のように紹介する。

「さまざまなデータソースから取り込まれたデータをフォーマットや構造に応じて加工・処理し、統一されたデータ管理ができる基盤に取り込むまでが一連の流れとなる。データ管理においては、多種多様な非構造化された大量のデータを安全に保管できる仕組み、データ分析・活用の場面では、さまざまな役割を持った利用者が目的に応じて異なるアウトプットを出せる方法を提供している」(柳澤氏)

  • 柳澤さん講演画像

    オラクルが提供するデータ活用基盤のイメージ

データ連携では、データの鮮度や粒度が揃っていること、高可用性と柔軟性が確保されていること、データ管理においては、各データの整合性(信頼性)、的確な分析とビジネス判断への寄与、導入+運用のコスト、中長期運用や改修への追従、サービスの継続性・高可用性などが重要な項目としてあげられる。

これを実現するのが、オラクルが提供するシングル・データ・プラットフォームである。この中核テクノロジーとして、オラクルはコンバージド・データベースという概念を提唱している。コンバージド・データベースは、構造化/非構造化データ、地理情報等のさまざまな種類のデータと、それらを活用するためのインメモリアナリティクス、機械学習、グラフ分析等の技術を1つのデータベースに集約して提供するという考え方で、柳澤氏は「シングル・データ・プラットフォームを支える機能を持つOracle Databaseを活用することで、データの付加価値を高め、真のDXを実現することが可能となる」と説明する。


Oracle Database Applianceの特徴と導入事例

続いて柳澤氏は、Oracle Databaseを構築する際に必要なハードウェア機器を事前構成したデータベース・アプライアンス「Oracle Database Appliance(ODA)」について紹介した。

特徴は4つあるという。1つは、シンプルであること。ハードウェア・ソフトウェアはすでに構成済みであるため、迅速に導入することが可能となる。2つめは、最適化。データベースのために最適設計された専用アプライアンスであり、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)へのバックアップ連携も容易な作りとなっている。3つめは、手頃である点。2コアから利用可能であり、キャパシティオンデマンド機能によりビジネスの成長にあわせて最大64コアまで拡張可能になっている。4つめは、エンドツーエンドセキュリティ。ハードウェアおよびソフトウェアに組み込まれたオラクルのセキュリティ機能により安全に利用することができる。

ODAを導入した事例として柳澤氏が紹介したのは、コンタクトセンターを中心としたBPOビジネスを展開するKDDIエボルバ。同社が約2000社の企業に対して提供する人材派遣システム「HRstation」のデータベース基盤にODAが採用されている。

「サービスの信頼性が重要であり、秘匿性の確保、BCP/DR対策の高度化が求められていた。ODAは、アプリケーションの改修なしで暗号化を実現できる点、導入がシンプルで旧システムから2カ月で移行が完了する点、キャパシティオンデマンド機能によりコスト効率が高かった点を評価いただいた」(柳澤氏)

また同社では、大阪リージョンに設けた災害対策環境において、Oracle Databaseのレプリケーション機能「Oracle Data Guard」を利用し、本番環境のODAとOCI上のデーターベースサーバーのバックアップ連携の仕組みも構築した。今後はサービスプラットフォームのクラウド化なども検討しているという。

オラクルは「人々が未だかつてない方法でデータを捉え、知見を導き出し、無限の可能性を得ること」をミッションに掲げている。経営の可能性を最大化するためにも、データマネジメントのあり方を改めて考えてみてほしい。


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[PR]提供:日本オラクル