2020年11月、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に向けた社内横断組織としてデジタルソリューション本部を立ち上げたJR西日本(西日本旅客鉄道)。鉄道事業を確固たる柱としながら、流通・不動産・ホテル・旅行といった多彩な事業も展開する同社は、データ利活用をベースにビジネス環境の激しい変化に対応し、グループの価値向上を志向している。これまではデータ利活用の文化がなかなか浸透せず高い壁を感じていたが、その壁に風穴を開け、データドリブンの経営と業務運営を推し進める目的で、このたびドーモ社のクラウド型BIプラットフォーム「Domo」を導入した。その導入の背景から「Domo」を選んだ理由、活用の現状、そして今後の展望までを、デジタルソリューション本部で導入を牽引したDX基盤(システムデザイングループ)担当部長の小山秀一氏、同グループでDomoを始めとしたデータ利活用環境の構築を担当する東馳氏に伺った。

――最初に、JR西日本がいま直面しているビジネス環境と、それを踏まえたDX戦略・データ利活用の方針を教えてください。

西日本旅客鉄道 デジタルソリューション本部 DX基盤(システムデザイングループ) 担当部長 小山秀一氏

西日本旅客鉄道
デジタルソリューション本部
DX基盤(システムデザイングループ)
担当部長 小山秀一氏

小山氏 当社は鉄道を基幹事業としつつ、グループ全体では流通・不動産・ホテル・旅行など多岐にわたる事業を手掛けています。人口減少や新型コロナウイルスの影響を受けた行動様式の変容で未来予測が困難になっている中、鉄道以外の事業の成長がグループの成長にとっても重要な鍵を握っています。そこで中期経営計画を見直し、変化への対応力を高める事業構造改革に取り組むこととなりました。その重要な柱の一つとして、グループ全体で保有する豊富なデータを利活用し、新たな価値を生み出していくデジタル戦略の推進を掲げ、旗振り役として2020年11月にデジタルソリューション本部が発足しました。データを利活用した「顧客体験」「従業員体験」「鉄道システム」の3つの再構築を牽引していくのが当本部の役割です。

――「Domo」の導入に至った背景にはどのような課題があったのでしょうか。

小山氏 データ利活用という大きな方針は打ち出したものの、そこには以前から存在していた「組織」「風土」「人財」の3つの壁が立ちはだかっていました。まず組織の壁については、従来から鉄道を始めとして各事業を支えてきた縦の統制がきわめて強固であり、組織を横断してデータを共有し活用することには相当な抵抗が生じていました。2つ目の風土の壁は、中核である鉄道事業が生活を支えるインフラを担っていることから、安全・安心を最優先し、事業継続に影響を与えるリスクはなるべく排除すべき、という考え方が根底にあり、そのため用途がはっきりしないデータの開示には慎重とならざるをえない状況にありました。そして3つ目の人財の壁ですが、こうした組織・風土の壁があることから、果敢にチャレンジしている一部組織を除いて、データ利活用に長けた人材が育っていない状況にありました。

西日本旅客鉄道 デジタルソリューション本部 デジタル基盤(総括) 兼 IT本部 デジタル技術室 東馳氏

西日本旅客鉄道
デジタルソリューション本部
DX基盤(システムデザイングループ)
東馳氏

東氏 現場目線でいうと、一般社員が鉄道や営業の情報にアクセスするシステム自体は存在しているのですが、データを出力しExcelで利用するという不便な環境のため、データに接する文化がなかなか育ちません。また、経営幹部向けに資料作成を日々行っている部署の社員も、部門ごと・担当者ごとに同じデータから似たような資料を思い思いに作っているため、重複作業が多く、情報分散の課題もあります。

小山氏 いずれにしても一朝一夕には解決しない課題ですので、まずは2021年6月、グループ全体でデジタル戦略を実行していくうえでの羅針盤となる「グループデータ利活用ポリシー」を出し、データの安全・安心を保ちながら攻めの活用を促しました。その延長で、グループ内でデータが円滑に流れるようにし、データの効用を実際に体感してもらうため、ツール導入に踏み出したのです。

――データ利活用ツールの選定にあたり重視したポイントと、「Domo」を選んだ理由を教えてください。

小山氏 予測不能な変化が起こり得る現在、経営判断においては過去の経験や従来の想定に固執するのではなく、状況をスピーディーに把握し、必要な意思決定ができる状況をつくっておくべきだとの認識がありました。その観点で、視覚的にわかりやすいこと、操作が簡便であることの2点を重視しました。経営に関する指標をダッシュボードで可視化したいという要望は以前から社内で上がっており、どういったツールがいいのか検討していました。その中で、鉄道を軸にグループ経営している企業でデータを意思決定に活かしている事例を探したところ、ある同業他社が「Domo」を採用した取り組みを行っていました。同様の事業構造で価値を出していこうとのベクトルが共通しているので、そのツールは当社にもフィットすると考え、導入を決断しました。

東氏 評価した点は、データの接続・蓄積・加工・可視化・共有の機能をオールインワンで備えたBIツールであり、費用も抑えられていたことです。経営会議資料のソースとなるデータはさまざまなシステムや各担当者のPCに分散しており、一つひとつをデータ利活用基盤につなげるのは現実的ではないと考えていました。その点、「Domo」はWeb上での操作で誰でも容易にデータ接続できます。初心者が気軽にデータ加工できる機能を備え、経営幹部への共有もツールをインストールする必要なくWebブラウザで手軽に見せられます。この一連の流れがすべて揃い、アジャイルに取り組める点を高く評価しました。他社製品もいろいろと組み合わせることでオールインワンに近い状態を実現できますが、そのぶん費用が高くなりますし、操作についても知識がなければ難しい製品が多い中で、「Domo」は踏み込みやすいという印象を持ちました。

――導入から運用開始までの流れを教えてください。

東氏 2020年11月、無償PoCに申し込んだのがスタート地点です。まずは試してみようということで、経営会議の担当者にヒアリングし、作成の負担が大きかった資料を「Domo」で再現することにしました。その資料を経営会議に出席する約50人に提示し、実際に触ってもらったところ、「Domo」でもっといろいろな資料を見たいという前向きな評価が多かったので、2021年1〜3月に有償PoCを契約して実証を進め、2021年4月から本格利用を開始しています。まずは経営指標を見る経営ダッシュボードとしての活用を大前提として経営会議に関わるデータの可視化を進め、さらにグループ会社も含めて可視化の範囲を広げようとしている状況です。

――導入の過程でどういった点に苦労しましたか。

東氏 ツール操作に慣れてもらうことと、浸透を進めることですね。後者についてはドーモ社から助言をもらい、今使っている帳票を「Domo」で再現し、業務を置き換えられることを示すようにしています。そのうえで、「Domo」であればデータ連携や可視化が簡単で、分析も行えることを丁寧に説明しているところです。さらには、こういったツールは使う側にメリットがなければなかなか浸透しないので、現場を主導する立場の人をしっかり巻き込み、リードしてもらうように心がけています。

小山氏 組織を超えたデータ開示がやはり課題です。経営管理の観点で導入したツールではあるわけですが、その部分だけを前面に出してグループ会社に使用を強制しても、むしろ抵抗感が生まれてしまいます。「Domo」にデータを出すことがグループ会社にとってもプラスに作用するというWIN-WINの関係性をいかに作るかが、現状の課題としては大きくなっています。

――浸透状況と導入の成果はいかがでしょうか。

小山氏 まだまだ手探りの状況ではありますが、第一歩としてデジタルソリューション本部が所管しているアプリのダウンロード実績やよく使われる機能、鉄道予約へのコンバージョン率などを指標化し、KPI管理できるようにしました。これにより、どのような施策やプロモーションが顧客に支持され、どこを改善すべきなのかを各自が数値で把握でき、顧客体験の再構築を継続的に行えるようになりました。ダッシュボードを用いることで、経営層から実務層まで、それぞれの取り組みが自社、グループ、ひいては社会につながりを持っていることを知ることができるようになり、互いに協力して取り組めるような姿を目指していきたいと思います。

  • ダッシュボード利用例

    ダッシュボード利用例

東氏 2021年度中には経営会議に出る月次の資料すべてを「Domo」上で再現できるようにする予定です。さらには今後の計画として、データ利活用基盤に入っている多様なデータと「Domo」の連携を進め、一般社員にもより広く公開していくことを考えています。現時点の成果として、現場からは作業が楽になったという声をよく聞きますが、具体的にビジネスがどう変わったかについては定量評価も含めこれからの話です。ただ、「Domo」を利用する社員数は着実に増えており、手応えは感じています。

――導入においてドーモ社のサポートはいかがでしたか。

東氏 非常に満足しています。PoC開始当初、経営陣にダッシュボードの操作を説明するのが難しかったのですが、ドーモ社が手順を丁寧に説明する動画を用意してくれたので、スムーズに進みました。その後もさまざまな要望に真摯に対応してもらえるので感謝していますし、とても心強いですね。

  • 操作手順の説明動画

    操作手順の説明動画

小山氏 導入して終わりではなく、ユーザー目線に立ったノウハウの共有に加え、ビジネスのインサイトまで入ってデータ利活用のアドバイスも適切に提供してくれるので、コンサルタントとしても非常に頼りにしています。

――今後の展望と「Domo」に期待することを教えてください。

小山氏 データ利活用の推進に向け、3つの壁を乗り越えなければなりませんが、安全・安心に利用できるというプラットフォームとしての基本部分がしっかりしていますし、可視化やデータ活用のハードルも低いので、まず風土と人財の壁は「Domo」でクリアできると考えています。あとはやはり組織の壁が課題で、グループ内のどの組織にどこまでのデータを見せるか、今協議しているところです。ここを解決できれば「Domo」の利用はさらに広がり、顧客体験、従業員体験、鉄道システムの3つの再構築にも深く寄与していくのではないでしょうか。

また、今後の「デジタル戦略」の取り組みとして、利用者のニーズに沿った移動手段を最適化して提供するMaaSなどがあり、データの利活用は一層重要になってきます。担い手不足による機会損失や炭素排出量の削減などの社会課題を解決していくためには、利用者の求めるものをデータで把握し、個にあわせたサービスをリアル、デジタルの双方で不便なく提供できるようにすることが必要です。ダッシュボードは、一定のボリューム層に対しての変化をとらえる手段として有用だと感じています。ドーモ社には、より様々なデータを収集、加工しやすい環境を引き続き提供いただけることを期待しています。

  • 西日本旅客鉄道 小山秀一氏と東馳氏
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