新型コロナウイルス感染症対策として2020年3月、マネーフォワードは全社的なテレワークを開始した。国内上場企業としては、かなり早いタイミングでの決断だ。当時について、同社 執行役員 経理本部 本部長 松岡俊氏は、「不安も大きかった」と振り返る。11月を決算月としている同社は、4月に第1四半期決算の発表を行う必要があり、リモートワーク移行当初は、ちょうど四半期決算の締め業務がスタートする時期だったためだ。上場企業の四半期決算業務にフルリモートで対応しなければならないという、かつてないほど大きな課題に直面した。

マネーフォワードは、こうした状況をどのように乗り越えたのだろうか。4月22日に開催されたTECH+フォーラム「バックオフィス業務改革Day 2021 Apr.」にて松岡氏は、決算業務をリモートワークで対応するためのポイントについて、自社の事例を踏まえながら紹介した。

  • マネーフォワード 執行役員 経理本部 本部長 松岡俊氏

リモートワークの実現は、業務効率化の「結果」

実は、コロナ禍以前の2019年から、マネーフォワードは業務の見える化・効率化を目指し、自社ツールをフル活用するためのプロジェクトを発足させていた。そもそも、マネーフォワードのようなITベンチャーでも自社ツールを活用しきれていなかったというのは意外に思われるかもしれないが、「当時はまだまだ紙の作業が残っており、リモートワークでの業務は不可能」(松岡氏)な状態だったという。

当時は、自社ツールが上場企業の経理業務にマッチしていなかったことや、サービス開発のスピードが速すぎて経理部が機能をキャッチアップできていなかったことなどが、自社ツールを使いこなしきれなかった理由だ。松岡氏は「Excelや紙で行っていた業務フローの見直しが追いつかなかった」と当時の状況を説明する。

マネーフォワードが2020年3月にリモートワークへの移行をスムーズな形で実現できたのは、自社ツールを中心としたクラウドサービスの導入に踏み切り、業務効率化に取り組んでいた結果である。リモートワークへの移行自体が目的だったわけではないということに注意したい。

経理業務の効率化のポイントとして松岡氏は、次の3つをあげる。

  1. 紙と押印フローの撤廃:社内承認と社外対応
  2. オフィスに来ないとアクセスできないシステムからの脱却
  3. 監査法人や税理士など外部専門家との協業

以下で、順に詳しく見ていこう。

紙と押印フローを撤廃し、承認フローはクラウド上で完結

松岡氏は、請求書による対企業の支払い業務を具体事例に、紙と押印を含むフローの見直しについて説明する。

2019年以前は、現場担当者が紙の請求書を各企業から入手し、押印・番号記入のうえ上長へ提出。上長の承認・押印を経て経理部へ回され、経理部にて手打ちでの口座番号入力、買掛・未払金台帳の作成、支払いデータの作成を行い、CSVファイルを銀行のシステムにアップロードするという流れだった。このフローでは、口座や金額などに齟齬がないかどうか、インターネットバンク上で1つひとつ確認しなければならなかった。

「さまざまな情報が手打ちで入力されており非効率なだけでなく、内部統制的にも問題があった」(松岡氏)

業務改善後は、現場の担当者が「マネーフォワード クラウド債務支払」にて事前申請を行った後、請求書のPDFデータをアップロードし、部門・科目・事前申請番号を入力。その後の上長や経理部の承認フローはすべてクラウド上で進められる。銀行のシステムとはAPIで連携しており、ワンタッチで銀行に支払いデータを送ることができる。科目の仕訳なども自動で行われる。

※「マネーフォワード クラウド債務支払」は、2021年1月にサービス提供開始。当時は「マネーフォワード クラウド経費」の一部機能として活用を行っています。

  • 改善後の支払い依頼フロー

このフローでは、紙ではなく電子データの請求書が必須になることがポイントとなる。電子帳簿保存法においては、紙の書類をスキャンしてデータに変換して保存する方法と、電子的な書類をそのままデータとして保存する方法があるが、前者は後者に比べて作業工数が増えてしまう。取引先に対して、クラウドストレージ上へ請求書データをアップロードし共有するか、またはPDFデータをメール添付で送付するよう協力を仰ぐ必要があった。そこでマネーフォワードでは、郵送代の削減などのメリットを取引先に提示し、電子データで請求書を送付いただくよう呼びかける取り組みも行ってきた結果として、8割近くの請求書が電子データで受領できているという。

リモートワークだけでなく業務のスピードアップも実現

新しいシステムを導入するときには、現場の理解も重要となる。松岡氏は、「ツール導入の際、現場のプロセスに変更が発生する場合は社員の理解を得ることが難しく、紙の請求書を残したフローにするという案もあった」と、導入時の現場負担を減らすために紙を残す議論もなされていたことを明かす。

しかし、そうしたプロセスを受け入れていれば、リモートワークには対応できなかった。現場の理解を求めるために、マネーフォワードでは、意識改革と説明会を行ったほか、関連部署と業務フローを図にして可視化し、誰が何をすべきかを明確化するなどさまざまな工夫を実施した。さらに、段階的に導入を進めたこともポイントだったと松岡氏は振り返る。

「1カ月目は部門を限定して導入し、課題をヒアリング。その対応を行ってから、全社的に展開していった。実際に導入を進めていくなかでは、想定外のことがどうしても起こってしまう。段階的に導入を進めていくことで、そうしたリスクを削減できる」(松岡氏)

こうした対応によって、マネーフォワードは、松岡氏が提示した2つめのポイントである「オフィスに来ないとアクセスできないシステム」から脱却することができた。

ツール導入によるメリットは、リモートワークが可能になったことだけではない。遠隔地での上長による承認が可能になったため決算の早期化につながったほか、誰がどこで業務を止めているのか見える化されたことで適切な形で担当者にリマインドを出せるようになった。松岡氏は「業務のスピードアップを実現することができた」と評価する。

外部専門家、グループ企業……連携のしやすさもクラウドの魅力

松岡氏が経理業務効率化のポイントとして3つめにあげたとおり、税理士法人・監査法人など外部のエキスパートとの連携・協業がしやすくなるという点も、ツール導入の重要な論点となる。特に上場企業の場合、外部監査は必須となる。監査法人側からアクセスしやすく、認証を受けているツールを選ぶことが重要だ。

マネーフォワードでは、マネーフォワード クラウドのIDを発行して監査法人に付与している。監査法人側は、クラウドツールにアクセスしてデータを確認することができる。また、監査資料は監査法人側のストレージに格納して管理している。期末監査においては残高確認状のやり取りなどもあるが、クラウドツールを活用しながら監査法人と密接に連携して対応していったという。

「第1四半期決算の際には、リモートワークを行っているために監査法人とは1日しか面会できなかったが、大きな問題はなく進めることができた」(松岡氏)

  • マネーフォワードの監査対応フロー

外部との連携という意味では、グループ企業の対応がしやすくなったのも注目すべき点だ。マネーフォワードの国内グループ企業は、すべて「マネーフォワード クラウド会計Plus」「マネーフォワード クラウド経費」「マネーフォワード クラウド債務支払」を統一的に導入している。松岡氏は「リモートワークでは、組織・システムが異なると対応に濃淡ができてしまうが、グループ全体で標準化して統一した対応ができるようにしたことは、有効にリモートワークの実現に有効だった。オンプレミスのERPに比べてクラウドツールは比較的グループ展開しやすいという実感がある」と、そのメリットを語った。

クラウドツールで業務を構築することを意識する

ここまで説明してきたとおり、マネーフォワードは、リモートワークへの移行ではなく、クラウドベースでの業務効率化を目指していた。その結果、リモートワークの環境構築はもちろん、さまざまなメリットにつながったというわけだ。松岡氏は、「クラウドツールを活用して新たな業務フローを構築しようとしたことがポイント」と総括する。

「現在ではさまざまなクラウドサービスがあるので、ニーズや業務にマッチするかどうか自社の状況と照らし合わせながら検討してほしい。適切なクラウドツールを導入することによって、効率化・見える化・標準化が実現でき、結果としてリモートワークにも移行できる」(松岡氏)

[PR]提供:マネーフォワード