テクノロジーの進化によって、組織における ICT の役割が、「業務効率化」から「データ活用」へとシフトしつつあります。 ICT はこれまで、人手をかけていたさまざまな業務を自動化し、組織内の人的リソース、コストを削減してきました。こうした業務効率化のプロセスは、従来アナログな手法でやり取りしてきた情報を電子化していった過程ともいえます。今やどんな事業体においても、日々膨大なデータを生成し、それを収集、蓄積しています。ビッグ データを活用し、よりよいサービスを提供していこうという動きが、今日の ICT の役割となっているのです。

これは私企業だけでなく、複雑な社会問題と向き合い続ける自治体も同様です。兵庫県南西部に位置し、播磨地方の中核を担う姫路市もまた、データ活用を進める自治体の 1 つです。同市は 2016 年、SQL Server によって「行政情報分析基盤」を構築し、分析データを活用した施策をスタートさせました。

  • 姫路市(写真は、世界文化遺産、国宝である姫路城)

プロファイル

姫路市は兵庫県の南西部に位置する人口約 53 万人の中核都市です。西播磨地方の経済、文化の中心地であり、市内には日本城郭史上に名高い世界文化遺産・国宝姫路城がそびえています。戦後、工業都市として発達し、兵庫県内では第 2 位の商工業を誇ります。2005 年度に家島町、夢前町、香寺町、安富町の周辺 4 町と市町合併し、今の姫路市となりました。

導入の背景とねらい
社会構造が大きく変化する中、最適な市民サービスを提供していくためには地域ごとの動向を把握することが求められた

姫路市 総務局 情報政策室  情報政策担当 主幹 藤本 康樹 氏

世界文化遺産の姫路城で知られ、県内第 2 位の商工業を誇る姫路市。同市では現在、自治体が保有するさまざまな情報を活用し、それを市政に反映することでより豊かな市にしていくための取り組みを進めています。

姫路市 総務局 情報政策室 情報政策担当 主幹 藤本 康樹 氏は、都市部への人口集中などさまざまな社会問題が発生する今日においては、データを活用した市政が強く求められていると語ります。

「姫路市は 2005 年に周辺 4 町と市町合併し現在の形になりました。市街地もあれば山間地域、離島もあり、地域によって風土がまるで異なります。姫路市と一口にいっても、市民の暮らし方、文化はさまざまなのです。そのため、市政においては、画一的な手法でなく、各地域に応じたミクロな施策を実施していかなければなりません。財源には限りがあります。その中で適切な市民サービスを提供するためには、データを活用して各地域の特性を的確にとらえることが不可欠となっているのです」(藤本 氏)。

たとえば、転入転出といった人口流動データと市で運営する施設のデータとを掛け合わせて分析すれば、長期的な見立てのもとで人員や設備の配置計画を練ることができます。藤本 氏も語るように、最適な市民サービスを提供するうえで、データを活用した取り組みはきわめて重要だといえるでしょう。

姫路市 総務局 情報政策室 情報政策担当 課長補佐 原 秀樹 氏

こうした取り組みは、自治体が保有するシステムのオープン化によって、実現性が高まったといいます。この点について、姫路市 総務局 情報政策室 情報政策担当 課長補佐 原 秀樹 氏は次のように説明します。

「これまで姫路市は、ホスト コンピューターで住民票や健康保険といった住民情報システムを運用してきましたが、長年にわたる開発、運用によってシステムが複雑化するとともに、運用管理コストの増大が懸念されていました。このような問題を解決するため、2014 年 8 月に「姫路市情報システム最適化計画」を策定し、2019 年度末を目途とした情報システムのオープン化を進めているところです。システムのオープン化では業務単位にパッケージ ソフトによる再構築を実施しているため、異なるベンダーのパッケージ ソフト間で情報連携を効率的に行うためには情報連携を管理する基盤が必要と考え、情報共通(連携)基盤、統合データベースの構築を実施しました。このデータベースを本市行政サービスの「庁内ビッグ データ」と位置づけ、職員の経験やスキルだけに頼るのではなく、客観的事実(データ)から、地域の特性や課題、ニーズを把握するための分析基盤として活用することを構想しました」(原 氏)。

システム概要と導入の経緯
高度なセキュリティと圧縮率を備え、地図上で分析結果を可視化することが可能な SQL Server を、分析基盤の DBMS に採用

姫路市は 2016 年 3 月に策定した「ひめじ創生戦略」アクション プランにおいて、ビッグ データ活用による行政マネジメント力の向上として「行政情報分析基盤の構築」を事業として位置付けました。まず取り組んだのは、統合データベースから個人が特定できないように匿名化、抽象化された情報を抽出、分析し、レポート化するためのしくみの構築でした。

統合データベースを介して連携する情報には、住民基本台帳や福祉、税などきわめて機密性の高い情報が含まれています。当然、そこでは高い信頼性とセキュリティが求められます。原 氏は統合データベースを含む情報連携基盤に、マイクロソフトの SQL Server Enterprise を採用してきたと語ります。

「各システムが扱うデータ量は、今後も増加の一途をたどるでしょう。そのため DBMS には、暗号化といったセキュリティ機能だけでなく、データを効率的に扱うための高い圧縮率も備えてなければなりません。SQL Server Enterprise はこれら双方に適う機能を備えており、信頼性にも優れています。庁内システムの多くがパッケージ製品となってきます。製品の提供元が SQL Server 以外を指定する場合には異なる DBMS を使うこともありますが、独自に構築するデータベースでは、基本的に SQL Server を採用してきました」(原 氏)。

長年、SQL Server を利用してきた姫路市にとって、データベースの構築や運用、データ統合といった作業には一定の知識を持っていましたが、収集したデータを分析し、それを市政に反映していくには、まったく別の知識と技術が必要です。

姫路市 総務局 情報政策室 情報政策担当 岩澤 遥 氏

プラットフォームの整備だけでなくデータの実活用も迅速に進めるべく、姫路市は行政情報分析基盤の構築ベンダーの公募に際し、システムの構築に加えて「データの活用支援」も選定条件に設定します。姫路市 総務局 情報政策室 情報政策担当 岩澤 遥 氏と原 氏は、この条件の詳細について次にように説明しました。

「近い将来、庁内のさまざまな部門、さまざまな職員が行政情報分析基盤へアクセスし、業務上でデータを活用することを構想しました。当然、データの分析に不慣れな職員もいますし、ICT スキルに不安を抱える職員もいます。あらゆるユーザーが容易かつ有効にデータを活用するためには、UI やレポートのビジュアルを工夫することが必要でした。また、分析した結果を視覚的にわかりやすく表現するため、分析するデータを、表やグラフだけでなく『地図情報』とも重ねて表示できることを、システム側には強く求めました」(岩澤 氏)。

「ここには、ユーザーがエリアごとの特性をひとめでわかるようにしたいという思いがありました。また、自治体職員において、データ分析に基づく政策立案や業務改善アプローチのノウハウは十分ではありません。データ活用を広めるためには、具体的にどういうデータをどのように分析したらいいのか、モデルとなる分析事例を用意し、示してあげることも重要です。そこで、公募の際には、システムの提案だけでなく、3 か年の分析基盤充実、活用に向けたロードマップを提示いただくことも条件としました」(原 氏)。

地図情報を GUI に組み込むことによるデータの可視化、そしてデータの活用支援。姫路市が掲げた両要件に合致するとして、同市はベンダーに株式会社エーティーエルシステムズ (以下、エーティーエルシステムズ) を選定します。

エーティーエルシステムズは、多くの自治体の実績を持つシステム インテグレーターであり、システム構築だけでなく、地域総合戦略の策定から窓口サービス改善計画まで幅広いサポートを提供しています。原 氏は同社の提案について、「エーティーエルシステムズからは、SQL Server をコア テクノロジーとする基盤開発を提案いただきました。これまでの行政分野における分析業務の経験を活かす具体的な内容であった点や、本市のデータ分析基盤構想を『今後、地方自治体にとって将来性があり、有用性の高い取り組み』として提案されていた点で、本事業の実現性を感じました」と評価します。

株式会社エーティーエルシステムズ データソリューション事業部 システム開発部 萩原 開城 氏

これに続けて、株式会社エーティーエルシステムズ データソリューション事業部 システム開発部 萩原 開城 氏は、SQL Server を提案に組み込んだ理由について、次のように説明します。

「SQL Server のレポーティング ツール (SSRS: SQL Server Reporting Services) は機能性に優れており、マップ ウィザードを活用すれば地図とデータを重ねた GUI のレポートも作成可能です。また、姫路市様では分析用データに直接ユーザーがアクセスしてデータを活用するセルフサービス型 BI も構想されていました。これも、SQL Server の SSAS (SQL Server Analysis Services) で実装することができます。これらの機能は標準機能で利用可能なため、BI 用に追加ソフトを調達する必要がありません。姫路市様にはこうしたコスト メリットも評価いただけたと考えています」(萩原 氏)。

総務省が定める「自治体情報システム強靭性向上モデル」では、自治体におけるインターネット利用を情報収集に制限しており、業務システム上でインターネットに接続することを不可としています。Web で公開されている地図 API が利用できない状況下でマップと重ねたデータ表示を実装するうえで、マップ ウィザードを備える SSRS は大きな力を発揮したといいます。

また、既述のとおり、統合データベースで取り扱う情報は、個人情報を含む機密性の高いデータです。個人情報保護条例によって、自治体は、各業務で取得した住民情報をその対象となる業務でしか使用できないことが定められています。分析用途として、統合データベースの住民情報をそのままの形式で分析に利用することは、難しいと考えられます。

株式会社エーティーエルシステムズ データソリューション事業部 システム開発部 古澤 祐一 氏

こういった課題も、SQL Server が標準で備える SSIS (SQL Server Integration Services) によって解消できたと、株式会社エーティーエルシステムズ データソリューション事業部 システム開発部 古澤 祐一 氏は語ります。

「分析用途に住民情報をそのまま利用することが難しい以上、統合データベース上の情報は、個人が特定できないように匿名化、抽象化したうえで行政情報分析基盤のデータベースに蓄積する必要がありました。ETL ツールである SSIS を使えば、スムーズにこのデータ変換も行うことができます」(古澤 氏)。

  • 各システムの情報は、統合データベースを介し、匿名化、抽象化したうえで行政情報分析に格納される

導入効果
プロジェクト着手からわずか 1 年強で実活用段階にまで到達。分析事例をもって、データ活用の適用業務を拡大していく

2016 年度にベンダー公募を開始した本プロジェクトは、2017 年 10 月、プロジェクトの着手からわずか 1 年あまりで基盤の構築に加えて実活用を開始したことは、飛躍的な進行といえるでしょう。

分析を利用する機会の拡大を目指すロードマップにおいて、分析事例はこれを予定どおりに進めるための核となる存在です。この分析事例について、岩澤 氏は次のように説明します。

「データ分析の初期事例としてまず着手したのは、住民基本台帳情報を活用した人口動態分析や、本庁、出先機関における市民の利用状況に関する分析です。『任意の時点や場所』、『過去から現状への推移』、『地点間移動(人の流れ)』などさまざまな視点での分析を可能とし、幅広い分野で活用できる分析機能の充実に取り組みました。次に取り組んだことは、保健福祉分野のデータ活用です。特定健康診査、いわゆるメタボ健診の受診データを地域別に分析して、これを本庁や各地の保健センターで活用していきます。地域の現状を知ることで、より適切なサービスを市民へ提供することがねらいです。さらなるモデルを作り出すべく、現在は、子育て分野のデータを活用する取り組みを進めています」(岩澤 氏)。

人口減少や少子高齢化の急速な進展など、自治体を取り巻く環境が大きく変化する中、データ活用によって住民が納得する行政経営を行うことは、自治体にとって早急に取り組まなければならない課題といえます。原 氏は、姫路市が早期にデータ活用を開始できたこと自体が、プロジェクトの大きな成果だと語ります。

「現在進行しつつある人口減少などに起因する社会経済構造の変化は、全国の多くの自治体が直面する問題となります。しかし、こうした状況を個々の行政課題を重ね合わせて住民データレベルで分析するための、有効なモデル ケース、分析ノウハウは、まだ十分には存在しません。そのような中、エーティーエルシステムズに支援いただき、早期に SQL Server による分析基盤を構築したこと、そしてプロジェクト開始からわずか 1 年強で人口分布や異動の詳細な分析が可能になったことは、大きな意義があると思っています。データによって地域の特性を発見し、それを実務レベルで活用するためには、マクロとミクロの双方の視点を複合させていく必要があります。こうしたノウハウも実活用の中で蓄積し、分析事例とともに庁内に浸透させることで、データ活用の適用業務を迅速に拡大していきたいと考えています」(原 氏)。

  • 現在は、人口分析に加えて保健・子育て分野の業務をユースケースに設定し、情報政策室で作成したレポートを業務担当者が利用している。将来的には、担当者自らがデータにアクセスし、分析を行う形を構想している

今後の展望
広域連携を見据え、住民情報を適切に扱うためのガイドライン策定に取り組む

姫路市は播磨圏域連携中枢都市圏の連携中枢都市として、播磨地方 8 市 8 町の拠点都市にも位置づけられています。同市が行政データの活用に習熟していくことは、周辺の自治体にとっても好影響をもたらすでしょう。

こうした広域連携を進めるためには、分析事例の拡充だけでなく、庁内にある情報をどう適切に取り扱っていくか、ガイドラインを定めることも必要だと藤本 氏はいいます。

「今後データを活用する職員が増えるにつれて、セキュリティの担保がますます重要になります。情報保護への社会的責任が高まる中、行政として、分析、活用といった新しい形で住民データ、行政データを扱うことへの明確なガイドラインも作っていく必要があるでしょう。セキュアに、かつ有効にデータを扱う。これを各市町村が実践するうえで、当市の取り組みがよい事例になるよう、分析データのさらなる活用とガイドラインづくりに努めてまいります」(藤本 氏)。

内閣府は 2014 年度に地域経済分析システム (RESAS: リーサス) を全国に公開し、各自治体が地方創生の取り組みとして分析データの活用を進めるよう呼びかけています。姫路市だけでなくあらゆる市町村が、分析データを活用した施策を進めていかなければなりません。姫路市の取り組みが、全国の自治体の庁内データ利活用を推進する火付け役となることが期待されます。

「現在進行しつつある人口減少などに起因する社会経済構造の変化は、全国の多くの自治体が直面する問題となります。しかし、こうした状況を個々の行政課題を重ね合わせて住民データレベルで分析するための、有効なモデル ケース、分析ノウハウは、まだ十分には存在しません。そのような中、エーティーエルシステムズに支援いただき、早期に SQL Server による分析基盤を構築したこと、そしてプロジェクト開始からわずか 1 年強で人口分布や異動の詳細な分析が可能となったことは、大きな意義があると思っています。データによって地域の特性を発見し、それを実務レベルで活用するためには、マクロとミクロの双方の視点を複合させていく必要があります。こうしたノウハウも実活用の中で蓄積し、分析事例とともに庁内に浸透させることで、データ活用の適用業務を迅速に拡大していきたいと考えています」

姫路市
総務局
情報政策室
情報政策担当
課長補佐
原 秀樹 氏

マイクロソフト法人導入事例サイトはこちら

[PR]提供:日本マイクロソフト