運輸からレジャー、不動産まで多角的に事業を展開する東武グループ。その中核を担う東武鉄道株式会社は、多種多様な事業を展開する東武グループならではの視点で、データの有効活用を推進しています。
「グループ企業間の横断的なデータ活用」だけでなく、「各企業単位、個別でのデータ活用」も重視する同社では、一部の限られた従業員だけがデータを活用するのではなく、全社的なデータ活用を推し進めることが、サービス品質の向上に結びつくと考えています。そこで同社は 2016 年 4 月、セルフサービス型 BI の実現へ向けて Power BI を導入。きわめて実用性の高いデータ分析基盤を構築しました。
プロファイル
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鉄道による一般運輸事業などを行う東武鉄道株式会社。東武スカイツリーライン・伊勢崎線、日光線、東武アーバンパークラインや東上線を運営し、東京、埼玉、千葉、栃木、群馬の 1 都 4 県 463.3 km で路線を展開しています。「安全は東武グループすべての事業の根幹である」という信念のもと、一日平均利用 247 万人の安全と安心を最優先に、これからもサービスを提供していきます。
導入の背景とねらい
全社的なデータ活用を推し進めるうえで、既存環境では利便性にネックがあった
1897 年に創業した東武鉄道株式会社 (以下、東武鉄道) は、関東私鉄の中でもっとも長い営業キロを持つ企業です。東武鉄道を中核とした「東武グループ」を形成し、交通、住宅、流通、レジャーといった多様な事業を複合的に展開する同社は、その総合力をもって、沿線地域の発展に貢献しています。
近年では、グループ コンプライアンスである「安全・安心を第一に考え、お客様のニーズに合わせた高品質なサービス・商品を提供し続けることによって、お客様からの期待に応えます」を実践すべく、各事業で得たデータの有効活用を推進。「グループ企業間の横断的なデータ活用」「各企業単位、個別でのデータ活用」といった多種多様な事業を展開する東武グループならではの視点で、そこへ取り組んでいます。
各社一丸となりデータ活用を推し進めている東武グループですが、その中核となる東武鉄道が保有する交通産業データは、グループ全体の事業発展において非常に重要な位置を占めるといいます。東武鉄道株式会社 システム開発部 課長 波田野 裕 氏は、交通産業データの概要と、その重要性について、次のように説明します。
「各駅の収入金を集計したデータが、交通産業領域におけるデータの根幹です。このデータは、当社単体でいえば、利用者数に基づき事業戦略を構想するうえで有効なデータとなります。同時にこのデータは、『人の物理的な動きを示す数値』としても捉えられるため、グループ会社の取り組みを検討するうえでもきわめて有効です。こうしたデータを活用すべきユーザーは、決して経営層や企画部門だけではありません。たとえば営業部門であれば、『取り組んだキャンペーンの昨対比』を確認することで、それを次年度の企画へ活かすことができるでしょう。このような全社的なデータ活用の推進が、『お客様からの期待に応える』という当社方針の実現度を高める有効な方法だと考えています」(波田野 氏)。
波田野 氏が語る「全社的なデータ活用」は、幅広いエンド ユーザーが高い利便性のもとデータを活用することでようやく実現できます。これまで東武鉄道では、その根幹となるデータ分析基盤を「SAP Business Objects (以下、SAP BO)」で運用管理してきましたが、このシステムにはこれまで、エンド ユーザーによるデータ活用がなかなか生まれないという課題があったといいます。
東武鉄道株式会社 システム開発部 谷内 秀二 氏は、次のように当時の課題を振り返ります
「SAP BO の活用には相応の技術や知見が必要であり、普段の業務において Office をメインで使用しているエンド ユーザーやセルフ サービス BI のような形でのデータ活用には適しません。そのため、エンド ユーザーからのリクエストに応じシステム開発部でデータを抽出し、それをエンド ユーザーへ提出する、という形式を取らざるを得ませんでした。この場合、データは EXCEL 形式で抽出されるため、エンド ユーザー側に『数値情報のグラフ化』といった処理が求められます。また、リクエストからデータの提出まで数日を要したため、タイムリーなデータ取得もできませんでした。エンド ユーザーにとっては利便性が低く、またデータ取得までの所要時間や、システム部門にかける工数負担への遠慮、といったハードルも生まれ、積極的にデータを活用しようという動きが加速しなかったのです」(谷内 氏)。
システム概要と導入の経緯、構築
地図データと紐づけた BI レポートが、「人の物理的な動きを示す情報」を活用するうえで最適だった
もちろん、エンド ユーザーから寄せられるリクエストに応じて都度データを抽出することも、ICT 部門の重要な業務となります。しかし、データが積極的に活用される土壌を形成することで全社的なデータ活用を推し進める、いわゆる "攻めの ICT 企画" こそが、本来の ICT 部門へ求められる命題と東武鉄道は考えています。そこで同社では、2016 年に控えていた基幹系システムのリプレース計画と併せて、データ分析基盤についてもリプレースすることを計画しました。
波田野 氏は、マイクロソフトより Power BI の紹介を受けたことが、データ分析基盤のリプレースを検討した大きなきっかけだったと、当時を振り返ります。
「マイクロソフトから Power BI の紹介を頂いた時にまず感じたのは、『エンド ユーザー自身で使いこなせるだろう』という期待です。Power BI は、Excel に近い UI で自らデータの抽出ができ、特別な処理をせずとも情報がグラフィカルに表示されます。なによりも地図データと紐づけて情報を可視化する機能です。当社が持つ『人の物理的な動きを示す情報』を最大限活用するには、地図と連携したデータの見える化が最適です。これは経営層だけでなく、当社のあらゆる部署が活用したい機能でした。Power BI の紹介があったからデータ分析基盤のリプレースを検討した、と言っても過言ではないでしょう」(波田野 氏)。
事実、基幹系システムのリプレースを検討開始した 2013 年の時点では、同社は SAP BO の利用継続を計画していたといいます。しかし、Power BI が持つ利便性と可視化機能は、課題であったエンド ユーザーのデータ活用を推し進めるとともに、地図との連携によってこれまでになかった視点からデータを視覚化できることも見込めたのです。東武鉄道は 2015 年春、データ分析基盤のリプレースをプロジェクト化し、本格的な検討を開始。その後、複数サービスを比較検討し、同年末に Power BI の採用に至りました。
Power BI 採用までの経緯について谷内 氏は「プロジェクトでは、グループ間のシナジーを生み出すべく、東武鉄道が保有する交通系のデータとグループ企業である株式会社東武カードビジネス (以下、東武カードビジネス) が保有するクレジット カードの利用データの統合も、併せて検討しました。BI 製品については、東武カードビジネスが当時利用していた BI 製品と Power BI、SAP BO の 3 製品を比較しました」と説明。そのうえで、Power BI を採用した理由について、次のように語ります。
「波田野も触れたとおり、Power BI は Excel がベースであるため、エンド ユーザーが自身でデータ活用を進められる点に、大きな利点がありました。また、先に仮説を立ててその正誤を検証するといった深い分析処理にも十分に対応するため、当社におけるデータ活用の幅、そして深さの双方を向上できると考え、Power BI の採用を決定したのです。もともとデータベースには Microsoft SQL Server を利用しており、Power BI との親和性が高いことも決定のポイントでした」(谷内 氏)。
この決定後、東武鉄道では Windows Server の Hyper-V で構築したプライベート クラウド上に 3 か月ほどかけて、同社と東武カードビジネスの DB 連携を実施。また、データ活用の幅をさらに高めるべく、「鉄道の最寄駅」を抽出するマスター データも SQL Server 上で独自に構築。これは、異なるデータベースでも最寄駅を紐づけて顧客の日常的な動向を把握することをねらいとし、進められました。これらのシステム構築を経て、東武鉄道は 2016 年 4 月より、新たなデータ分析基盤の運用を開始しています。
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SQL Server と Power BI によるデータ分析基盤のイメージ図。新たに構築したマスター データにより、購買情報や交通情報といった既存の顧客データベースを変更することなく、それぞれを連携させて「(顧客の) 鉄道の最寄駅」を抽出することが可能 |
導入ソフトウェアとサービス
Power BI
Microsoft SQL Server
導入メリット
Excel に近い UI で操作できる Power BI を導入したことで、セルフサービス型 BI が実現できる基盤を獲得。全社的なデータ活用を推し進めることができた
地図との連携などこれまでになかった視点からデータの視覚化ができるようになり、"新たな発見" を生み出すことができた
こうした実用性の高い環境を、従来と比較しコストを大幅に削減し運用できるようになった
導入の効果
Power BI が生み出す "新たな発見"
従来のデータ分析基盤でも、データ抽出やそこでの分析処理、結果のグラフ化は可能です。しかしその場合、どうしても前提となる仮説に基づいて分析処理を開始する必要がありました。Power BI の場合、まずダッシュボード上にグラフィカルなデータが表示されるため、特異点の有無を把握したうえでデータの活用と分析作業が開始できます。
波田野 氏は Power BI の導入効果としてまず、こうした特異点の見える化によって、当初構想していなかったような "新たな発見" が生まれたことを挙げます。
「情報が最初から見える化された状態で扱える Power BI は、仮説の検証だけでなく、新たな発見を生むという点で非常に重要だと感じています。たとえば当社では、2016 年 3 月 26 日のダイヤ改正までは下りのみ、座席定員制の優等列車『TJライナー』を運行していました。この下り TJライナーは、池袋駅で乗車後は降車駅に関わらず一律定額制ですので、これまでは実際にどの駅、どのエリアで降車したかまでは把握できませんでした。しかし Power BI を使うことで、東武カードビジネスが所有するデータを連携させて、地図上にグラフィカルに表示される降車駅分布を把握しながら、分析ができます。この見える化の段階で、当初構想もしていなかった特異点が発見できることもあるのです。その発見をもとに要因分析を深く進めていくことも可能であり、これは Power BI の大きな利点でしょう」(波田野 氏)。
Power BI の導入前、東武鉄道では TJライナーの降車駅について、「(定額制ゆえに) 遠方まで乗車する方の購入割合が高い」という先入観があったといいます。たしかに Power BI 上で表示される降車分布データはその傾向を示していましたが、その中には予想もしない駅での利用率が高いという特異点が見て取れたといいます。この特異点について深く分析を行った結果、該当する駅は東武カードの高額利用者数が他に比べて多く、東武グループにとって優良顧客駅であることが判明したのです。
こうした見える化により判明した新たな事実は、グループ全体で事業戦略を進めるための有効な情報となります。また部門単位では、同駅で取り組むキャンペーンの検討などで有効に活用できるでしょう。
谷内 氏は、グループ会社が保有するデータが今後増加することにより、エンド ユーザーによってより積極的に活用できる機会が広がるといいます。
「東武鉄道では、2017 年夏に、新型特急『Revaty』や約 50 年ぶりの SL 復活運転に向けて準備を進めています。こうした取り組みによる各営業支社や駅の収益情報や、それに紐づく各種分析へのニーズは、営業や企画部門などあらゆるセクションで高まるでしょう。そこでエンド ユーザーが自身でデータの見える化や分析を行える環境を用意できたことは、現場でのデータ活用を押し上げる意味で非常に意義があると考えています」(谷内 氏)。
さらに波田野 氏は、「Power BI を採用したデータ分析基盤は、きわめて実用性の高い環境でありながら、以前の環境を継続して使い続けた場合と比べ大幅にコストを削減して運用できています。従来そこに要していたコストや工数を、新たなマスター データの開発や Power BI のライセンス増に割り当てることで、全社的なデータ活用がさらに加速していくでしょう」と期待を述べます。
今後の展望
データ活用の有効性を実証し、グループ内の別企業への展開を目指す
東武鉄道では、Power BI のクライアント側アプリケーションを Windows 10 に最適化し構築しました。今後 5 年間かけて、分析業務を必要とするエンド ユーザーへ Power BI アカウントの付与を拡げていくことを計画しています。
「現在は、営業部門および企画部門へ Windows 10 と Microsoft Office 2016 を搭載したクライアント PC を 1 台ずつ設置し、そこから Power BI が活用できるようにしています。今後、業務 PC のリプレースで Windows 10 と Office 2016 を搭載した PC を配付し、5 年かけて社内の (アカウントが必要なエンド ユーザーの) 全クライアント PC で Power BI が利用できる環境を構築していく予定です。また、東武鉄道だけでなく、これからリプレースを控えているグループ各社のデータ分析基盤も同システムが適用できないかと考えています。そうすることで企業単体だけでなく、グループのシナジーもより高められるでしょう。そのためにもまず、当社においてデータ活用の有効性を実証していきたいと思います」(波田野 氏)。
この「データ活用の有効性」を実証していくべく、東武鉄道では今後、オープン データと連携することによる、さらに高いレベルでの情報可視化と分析へ取り組む予定です。
「市町村、町丁字別の人口動向といったオープン データを加工し、鉄道の最寄駅を抽出したところ、人口の多さは必ずしも鉄道利用者の増加には比例しないことがわかりました。これは、人口の中でも活動年齢層の含有率が鉄道利用者数に左右するということを示唆しています。商業施設や学校といった多くの人が集まる施設のオープン データを活用すれば、この活動年齢層はより明確化でき、ひいては各駅や当社グループでの取り組みに活かすことができるでしょう。こうした新たな可能性を、新たなデータ分析基盤上で探っていきたいと考えています」(谷内 氏)。
Power BI の導入を通じて、エンド ユーザーによる積極的なデータ活用とそこでの "新たな発見" を生み出しつつある、東武鉄道。同社の取り組みは今後、Windows 10 搭載クライアント PC の配付とともに加速することで、新時代のカスタマー エクスペリエンスを生み出していくでしょう。
ユーザー コメント
「情報が最初から見える化された状態で扱える Power BI は、仮説の検証だけでなく、新たな発見を生むという点で非常に重要だと感じています。たとえば当社では、2016 年 3 月 26 日のダイヤ改正までは下りのみ、座席定員制の優等列車『TJライナー』を運行していました。この下り TJライナーは、池袋駅で乗車後は降車駅に関わらず一律定額制ですので、これまでは実際にどの駅、どのエリアで降車したかまでは把握できませんでした。しかし Power BI を使うことで、東武カードビジネスが所有するデータを連携させて、地図上でグラフィカルに表示される降車駅分布を把握しながら、分析ができます。この見える化の段階で、当初構想もしていなかった特異点が発見できることもあるのです。その発見をもとに要因分析を深く進めていくことも可能であり、これは Power BI の大きな利点でしょう」
東武鉄道株式会社
システム開発部
課長
波田野 裕 氏
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