2015年9月18~20日の3日間、金沢工業大学で、「KITハッカソンvol.3」が開催された。ハッカソンとは、ソフトウェア開発者を中心とした参加メンバーが、特定のテーマに沿って、チームを組んでのアイディア出しからプログラミングまでを短期集中で行い、その成果を競うイベントだ。イノベーションを生み出す手法の一つとして、数年前から日本国内でも広がりを見せつつある。

金沢工業大学(以下KIT)が主催するKITハッカソンは、産学連携プロジェクトや共同研究などへの発展を視野に入れ、毎回、企業の協力を得ながら開催されている。3回目となる今回のテーマは「近未来マイナンバーとIoTによって社会はこう変わる!」。「マイナンバー導入による近未来の楽しい姿」を創造し、それを実現するためのシステムを実装することが目標だ。

はたして参加者達はマイナンバーにどんな可能性を見出し、どんなアイディアを盛り込んでいったのだろうか? また学生や協力企業にとってKITハッカソンが持つ意義とは? 本稿では3日間の流れを追いながら、その概要を紹介していく。

KITハッカソンvol.3

マイナンバーカードは、新たなインフラとなる

参加者はKITの学生と社会人あわせて45名。また情報提供や技術サポートのために、GMOグローバルサイン、富士通研究所、GEUDA、DMM.comラボ、ネクスト、金沢エンジニアリングシステムズ、さくらインターネット(順不同)といった協力企業のスタッフも来場した。

マイナンバー制度についての基調講演

初日は、内閣府および野村総合研究所による、マイナンバー制度についての基調講演で始まった。講演では制度そのものの説明に加えて、マイナンバーカードに埋め込まれたICチップの構成も紹介された。チップには予め書き込まれている住基ネットアプリ、公的個人認証アプリなどの他、独自アプリを書き込める空き領域があり、総務大臣が認める民間事業者であれば、その領域を利用することができる。今回のKITハッカソンでは、ここにどんなアプリを書き込み、どう活用するかが最大のポイントとなる。

KITハッカソン実行委員会代表をつとめる中沢実教授

KITハッカソンの実行委員会代表をつとめる同学の中沢実教授(工学博士/工学部 情報工学系 情報工学科担当)は、期待をまじえながら語った。

「基調講演を通して、マイナンバーカードと様々な情報を紐づけることで新たなインフラが生まれ、多くのビジネス展開につながるということが、参加者に伝わったはずです。何か新しいアイディアが生まれてくると思いますよ」

講演後、参加者は協力企業から、ハッカソンでの開発に利用できるリソースやサポートを受けられる技術の説明を聞き、それらとマイナンバーカードを組み合わせて、どんなことができるのか、どんなことをしたいのか、アイディアを練っていった。最終的にアイディアは9つに絞り込まれ、それぞれの開発にあたるチームが編成された。

企業にとってのKITハッカソン

2日目、アントレプレナーズラボと名付けられたオープンスペースでは、各チームがアイディアの実現に向けた具体的な行動を始めた。チーム内で議論を重ねたり、協力企業のスタッフに技術的な相談をしながら、つくるべきシステムを固めていく。

今回、メインの情報提供企業として初参加したGMOグローバルサイン グループ技術開発本部 部長 浅野昌和氏は、熱心に認証技術についてのハンズオン(専門家からの直接指導)を受ける学生達の姿を見つめながら、こう語った。

「これを機会に暗号化や認証技術の知識をつけてもらって、近い将来、社会に役立つ人材になってほしいですね。今後、世の中のシステムはどんどんセキュアになっていくでしょう。それにここで育った人材が、当社の技術者や顧客になってくれるかもしれない。そういう期待も持っています」

また、情報提供企業の一つ、さくらインターネットのエンジニアである横田真俊氏は、協力企業として参加する意義について、こう話す。

「学生のうちからサーバやインフラについて知ってもらいたいという教育目的もありますし、こういう場で学生さんに当社のサーバを提供して、その使い勝手を見てもらうのも目的の一つです」

地元・石川を中心に、全国の企業からソフトウェア開発を請け負っている金沢エンジニアリングシステムズの技術担当者である小林康博氏は、1回目からKITハッカソンに参加している。当日はサポート企業のスタッフでありながら学生のチームに参加して、共に作業に取り組んでいた。

「学生さんと触れあうことで、学校が今、どういう方向性で教えているのかが分かります。時には『市場ではこういう技術が求められていますから、それを教えてみては?』と先生にフィードバックすることもあります」

各企業とも、将来を見据えて若い人材を啓蒙しようという思いには通じるものがあるようだ。

企業人と触れあい、教えを受けながらアイディアを形にしていく学生参加者達

学生にとってのKITハッカソン

今回参加したKITの学生は40名。学年も得意分野も様々だ。アイディア固めが終わり、プログラム製作が進み始めたところを見計らって、参加の目的やここまでの感想を聞いてみた。

「大学の授業ではアイディアだけで終わることも多いですが、ハッカソンでは実際のモノづくりまでできるところが面白いです」(高山翼さん 4年生)

「普段会えないような企業や自治体の人と触れあうことで、いろいろな考え方や知識をいただけるのが刺激的」(近藤豊峰さん 2年生)

「今、認証システムの構築に取り組んでいますが、知らないことばかりで、調べながら取り組んでいます。これまで自分になかった知識がついていくというのが、ハッカソンのいいところですね」(前田隼人さん 2年生)

「自分のアイディアに人が集まってきてくれて、それが膨らんでいくのは嬉しいし、形となって残れば気持ちがいいと思います」(杉下大河さん 3年生)

「社会人になると、学生ならではの“自由な発想”だけでなく、ビジネスとして収束させることまで考えなければいけない。参加企業の方々から、そういうことを教えてもらえて助かっています」(竹本健人さん 3年生)

授業では学びにくい、技術以外のものまで吸収できるハッカソンは、学生達にとって貴重な経験となっているようだ。

真剣さの中にも、リラックスした楽しげな表情を見せる参加者達