導入して10年稼働し続けたサーバのプラットフォームは、経年劣化によるハードウェアの故障のリスクが高まっています。レガシーOSをどうするかの前に、今回は10年前と比較して明らかに性能やセキュリティに優れた、最新のプラットフォームに移行する場合の選択肢を考えてみましょう。
プラットフォーム移行の3つの選択肢
Windows Server 2012/2012 R2は、いよいよ2023年10月にサポート終了(End of Service、EoS)を迎えます。10年以上稼働し続けたサーバのハードウェアは経年劣化で障害のリスクが高まり、交換部品も入手が困難になっているはずです。そのため、同じハードウェアを後継バージョンのWindows Serverにアップグレードして移行するのは現実的ではありません。
サーバOSについては、前回紹介したように「延長セキュリティ更新プログラム(ESU)」を利用することで、時間的猶予を最大で3年得ることができますが、そのプラットフォームである老朽化したハードウェアはそうはいきません。サーバOSやそこで動く既存の業務システムやアプリケーションをどうするかについてはひとまず置いておいて、レガシーシステムの移行先となる次のプラットフォームを選択する必要があります。
オンプレミスの物理サーバにリプレースするという従来型の移行は1つの手ですが、この機会にクラウドへの移行を検討する企業が増えているようです。10年前のクラウド黎明期と異なり、各種法規制やマルチテナントにおける機密性など、懸念事項の多くが解消され、クラウドが企業のITインフラストラクチャのプラットフォームとして有力な選択肢になりました。
オンプレミス、クラウドに続く第3の選択肢がハイブリッドクラウドです。 すべてをクラウドに持っていくのではなく、オンプレミスとクラウドの良いところを組み合わせて利用するハイブリッド環境に移行することができます。本連載では、クラウドやハイブリッド環境として筆者が利用しているMicrosoft Azureを例にしますが、AWS(Amazon Web Services)やGCP(Google Cloud Platform)でも同様のサービスメニューが用意されているはずです。
最近、クラウドサービスやデータセンター設備の障害を一般のニュースでも目にする機会が増えました。2023年2月にはMicrosoft TeamsやMicrosoft 365の障害、東南アジアリージョンでの冷却装置の障害に伴うサービスダウンなどが起きました。クラウドサービスへのアクセスが絶たれると業務に大きな影響が出るため、クラウドに懸念を持つ人もいますが、金銭的、人的リソースを大きく投入できるパブリッククラウドは、通常、世界規模の障害があったとしても数時間で正常性が回復します。
一方、オンプレミスの物理ハードウェアや電源障害が発生した場合はどうでしょう。交換部品はすぐに調達できるでしょうか。地域規模の停電は、いつ回復するでしょうか。自社に発電設備があったとして、何時間稼働できるでしょうか。
従来型の移行は最新Hyper-V環境がお勧め
これまでと同様、オンプレミスの物理サーバを新しいハードウェアにリプレースする方法は、最もシンプルで想像しやすい移行方法だと思います。
しかし、最新のハードウェアにサーバOSをインストールして利用することには無理があります。レガシーOSでは、メニーコアのプロセッサの能力や、新しいセキュリティ機能の利用、その他の新しいハードウェア技術を生かすことができません。
Windows Server 2012/2012 R2に搭載されたHyper-Vは、以前のバージョンと比較して、機能とスケーラビリティ(ホストと仮想マシンの両方)が大幅に強化されたため、Windows Server 2012/2012 R2のHyper-Vを利用してIT基盤の仮想化を進めた企業も多いと思います。すでに業務システムやインフラストラクチャサーバを仮想マシンで構築、運用している場合は、最新のWindows Server 2022 Hyper-V環境(Hyper-VホストまたはHyper-Vホストクラスタ)に比較的簡単に移行できるでしょう(仮想マシンの移動、V2V、Virtual to Virtualとも呼ばれます)。
業務システムやインフラストラクチャサーバを物理サーバで運用していた場合は、物理-仮想変換(P2V、Physical to Virtualとも呼ばれます)の方法で、既存のシステムを大きく変更することなく、Hyper-Vの仮想マシンという仮想ハードウェアに移行することができます(P2Vの詳細については、次回以降取り上げます) 。
クラウドにリフト&シフトして無料でESUを受け取る
クラウドのIaaS(Infrastructure as a Service)環境に、既存システムをリフト&シフトし、クラウド上で仮想マシンのインスタンスとして引き続き運用する移行方法は、企業のITインフラストラクチャにクラウドを活用する最も簡単な方法です。
この方法は、オンプレミス側のハードウェアの投資が不要であり、クラウドのリソース使用量に応じた従量課金で利用できます。つまり、ITインフラストラクチャのサーバ部分を、運用コスト化できます。オンプレミスとはセキュアに相互接続(サイト間VPN接続や、Azure ExpressRouteなど)することで、オンプレミスのネットワークの延長として、サーバをクラウドでホストすることができます。
この移行方法も、P2VやV2Vで行うことができます。Microsoft AzureのIaaS(Azure仮想マシン、Azure VM)にリフト&シフトする場合、本来は有償で提供されるESUがWindows Server 2012/2012 R2のEoS後に、3年間無料で利用可能というメリットがあります。つまり、3年間の猶予期間に、オンプレミスまたはクラウド上に新システムを構築して、準備が整ったら切り替えればよいのです。
新システムはIaaS上に構築することもできますし、Azure SQL Database、Azure App Service、Azure Kubernetes Service(AKS)といったPaaS(Platform as a Service)、Microsoft 365やMicrosoft IntuneなどのSaaS(Software as a Service)など、クラウドネイティブな方法で、真のクラウド化を実現することもできます。
ハイブリッドクラウドの実装で頭角を現してきたAzure Stac HCI
オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境は、さまざまな実装方法があります。その中で今、注目を集めているのがAzure Stack HCIです。同サービスはMicrosoftが提供するHCI(ハイパーコンバージドインフラ)で、Microsoftが認定したOEMハードウェアで構築するHyper-Vホストクラスタであり、その利用はAzureのサービスとして提供されます。仮想マシンの数に制限はなく、クラスタに実装されたコア数に応じて従量課金で利用できます(OEMハードウェアは購入する必要があります)。
ゲストOSのライセンスは、自社で用意(Bring Your Own License、BYOL)するか、無制限のWindows Serverライセンスをサブスクリプション購入できる「Windows Serverサブスクリプション」のオプションもあります。
Azure Stack HCIで、Microsoft AzureのIaaSで提供する機能の一部をオンプレミスに設置できると考えてください。オンプレミスに設置されるということは、ネットワークレイテンシが低いという利点があります。また、準拠するべき法規制などを理由にデータをクラウドに置くことができない場合でも、オンプレミスに設置するAzure Stack HCIなら対応できます。さらに、Azure Stack HCI上で実行するWindows Server 2012/2012 R2やSQL Server 2012の仮想マシンは、Azure VMと同じく、無料のESUの対象です。
Azure Stack HCIの基本機能はHyper-Vの仮想マシンを作成、実行するためのHyper-Vホストクラスタです。しかし、Azure Arcとの統合によって、Azureポータルから仮想マシンのデプロイ(プレビュー)や、クラスタや仮想マシンの制御、監視、更新、セキュリティ保護など、オンプレミスや他社クラウド上のリソースも含めてクラウド側から一元管理することができます。
また、Azure SQL Database、Azure App Service、AKS、Azure Virtual Desktop(AVD)など、いくつかのPaaS機能をAzure Stack HCI上に実装することも可能になっています。これらのサービスはプレビュー段階のものが多いものの、Azure SQL DatabaseやAKSなど一般提供が始まっているものもあります。