NECが2023年4月28日に発表した2022年度通期決算は、そのほかの事業が好調となる中、5G関連を含むネットワークサービス事業だけが減益となっています。

原因は国内外の通信事業者の投資抑制によって5G、そしてNECが力を入れるオープンRANの、海外での立ち上がりの遅れが大きく影響しているようです。NECは5G、そしてオープンRANで成功を収められるのでしょうか。→過去の次世代移動通信システム「5G」とはの回はこちらを参照。

国内では投資抑制、海外ではオープンRANが拡大せず

多くの企業の通期決算が発表されるゴールデンウィーク前後ですが、2023年4月28日にはNECが通期決算を発表しています。その内容を見ますと、売上収益が前年同期比9.9%増の3兆3130億円、営業利益が前年同期比28.6%増の1704億円と非常に好調な決算だったようですが、詳細を確認していくと気になる点があります。

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それは5つあるNECの事業セグメントのうち、4つは増益なのですが「ネットワークサービス」セグメントだけが減益だったこと。このネットワークセグメントには、携帯電話を始めとした通信インフラに関する事業が含まれています。

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    NECの2022年度通期決算説明会資料より。他の事業が増益で好調な中、ネットワークサービス事業だけは5G関連事業の不調で減益となっている

この減益に大きく影響しているのが5Gであり、NECはオープンRANを主体としたグローバル5G事業で見込んでいた売上が、見込みにずれが生じたことから下方修正しています。その要因は、1つに国内の通信事業者が投資を抑制していることにあります。

NECは国内で、主としてNTTドコモや楽天モバイルに向けて5Gの基地局などを供給していますが、NTTドコモをはじめとした携帯3社は行政主導による料金引き下げ要請が直撃して経営が大幅に悪化しており、4Gの時と比べると5Gのインフラ投資にはかなり消極的になっています。

また、楽天モバイルも、4Gの先行投資による大幅な赤字に苦しんでおり、事業存続のためにも投資の大幅な抑制へと舵を切っている状況です。このため、国内事業者の5G投資は減少するとNECは見ているようで、来期となる2023年度は国内向けの5G事業の減少を見込むとしています。

そしてもう1つは、海外でオープンRANが思うように立ち上がっていないことです。NECはオープンRANの導入機運が高まっていることを機として、海外の携帯電話会社にもインフラ供給を進めるよう実証実験などの取り組みを進めていますが、そのオープンRANの導入が思うように進んでいないようです。

要因として、ウクライナでの戦争を機として拡大しているエネルギー問題が挙げられています。オープンRANは汎用の機器を用いることもあり、既存の大手ベンダーが提供している専用の機器と比べた場合、現状コスト面だけでなく消費電力の面で不利な部分があります。

海外では日本以上にエネルギー価格が高騰している国も多く、コストに加え消費電力に課題のあるオープンRAN導入に慎重な姿勢を示す事業者が増えているようです。オープンRANの導入意欲は依然高いものの、環境変化で導入が停滞しており、それがオープンRANに積極的に取り組むNECにとって、業績を落とす大きな要因となっているようです。

ソフト・サービスへのシフトを強化も先行きは不透明

足元の5Gネットワーク関連の受注自体は好調で、ネットワークサービスセグメントの売上自体は伸びているようですが、主力の国内事業者向けの受注が見込めないことから、2023年度の5G事業全体での売上は2022年度と同程度の約850億円の見通しです。

こうした落ち込みを、当面は固定系ネットワークやIT関連サービスでカバーする方針のようですが、環境改善が進まない中にあって、NECはどのようにして5G関連の事業改善に加え、拡大を図ろうとしているのでしょうか。

その取り組みの1つとなるのがハードからソフトへのシフトです。NECがこれまでオープンRANで強みを発揮していたのは基地局の無線通信部分を担うRU(Radio Unit、無線装置)、つまりハードウェアなのですが、同社としてはモバイル通信ネットワークのオープン化・仮想化の流れが進む中で、その上の部分となるソフトウェアの重要性が高まると見ているようです。

このため、子会社のNetcracker社が持つソフトウェア製品などの強みを生かすことにより、ソフトウェアやサービスに重点を置く方針とのこと。国内でも同様に、5Gのコアネットワークをはじめとしたソフトウェアやサービスへと比重を置き、ハードからソフトへの転換を図るようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第94回

    同じくNECの2022年度通期決算説明会資料より。同社は中期経営計画におけるグローバル5G事業の拡大に向け、ハードウェア主体のビジネスから、ソフトウェアやサービス主体のビジネスへと転換を図りたい考えのようだ

ハードウェア製品はオープン化によって競争が激しくなり、今後は低コスト化が強く求められる可能性が高まってくる一方、ソフトウェアやサービスは一度導入してもらえれば、安定かつ継続的な収益が得られることから、オープンRANの先行きが見えにくい中で収益の安定化を図るうえでも、ソフトウェアを主体としたビジネスに移行したいというのがNECの本音と言えそうです。

とはいえ、NECにとって最大の課題といえるのは、やはり5GやオープンRANに対する携帯電話会社の投資意欲が落ちていることでしょう。

本来であれば、国内携帯各社からの5Gネットワーク関連の受注が順調に拡大し、得られた利益を海外のオープンRAN関連事業に投資し、収益化するという道筋を立てていたものと考えられますが、海外だけでなく国内の事業者までもが投資抑制に動いてしまったことが、同社の5Gビジネスをより一層難しくしていることは確かです。

2月に開催された「MWC Barcelona 2023」でもオープンRANの注目度は高く、将来的には広く普及することも予想されるのですが、その将来がいつになるのかが見通せないことが、海外でチャレンジャーの立場となっているNECに厳しさをもたらしていることは間違いありません。

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    「MWC Barcelona 2023」におけるNECのブース

しかし、普及が進む時期まで投資を継続できなければ、大手ベンダーの独壇場が今後も続き海外進出への道が再び閉ざされることにもなるだけに、今後もオープンRAN関連に継続的、かつ多額の投資を続けられるかどうかがNECには大きく問われることになるでしょう。