エリクソンが2021年11月に公表した「エリクソンモビリティレポート」では、5Gの加入数が4Gを超える勢いで増えており、2027年には5Gが全世界で44億契約に達するなど、今後5Gが急速に普及するとの予測がなされています。中でも5Gの利用をけん引すると見られているサービスは何なのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

全世界の5G加入数が2027年には44億に

携帯電話向けの通信機器大手として知られるエリクソンは、世界的な通信トラフィックや加入者の傾向などを予測する「エリクソンモビリティレポート」を年2回公表しています。その最新版が2021年11月に公表され、2021年12月21日には日本法人のエリクソンジャパンがその説明会を実施しました。

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同レポートは最初の発行から10年が経過したことから、今回のレポートでは10年間を振り返って予測するとともに、今後の5Gの普及予測なども示されています。

その内容を見ると5Gの契約数は当初の予測を大きく上回っているようで、2015年11月時点での予測で5Gの加入契約数は1.5億とされているものの、実際の2021年の推定値は6.6億にまで拡大しています。

さらに5Gの加入数の伸びは4Gを大きく上回ると見ており、4Gが加入数10億を達成するのに約6年かかったのに対し、5Gは約4年と、2年前倒しでの達成が見込まれているとのこと。伸びをけん引している要因は1つに中国と北米での需要が予想を上回ったこと、そしてもう1つは5G対応デバイスの急速な低価格化であり、ここ最近国内でもローエンドのスマートフォンに5Gが搭載されるようになったことが、その傾向を示しているといえます。

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    2021年11月のエリクソンモビリティレポートより(以下同様)。5Gの加入数の立ち上がりは4Gより早く、2018年のサービス開始から4年で10億を超えると見ているようだ

そうしたことから同レポートの予測では、2027年に5Gの加入数が44億に達し、全世界の49%、つまり約半数の加入者が5Gを使うようになるとしています。その一方で4Gは2021年代4四半期、つまり現在の加入数である47億をピークに減少し、2027年末には33億にまで下がると見ているようです。

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    2027年末にはモバイル加入数が全世界で89億に達するが、そのうち44億が5Gになると予測されている

現在は米国と中国がけん引する形で、北米と北東アジアの5G加入数が多いようですが、レポートでは今後は西欧、そしてアラブ首長国連邦やサウジアラビアなど、GCC(Gulf Cooperation Council、湾岸協力会議)の加盟国での5G利用が急速に伸びることが予測されるとのこと。2027年には加入数比率で北東アジアを抜き、5Gが80%を超える割合に達するとしています。

5Gで利用が進むFWA、トラフィックけん引役の1つに

そして今回のレポートでは、5Gの普及をけん引する存在の1つとして、固定通信の代替として利用するFWA(Fixed Wireless Access)に関する言及がなされているのも大きなポイントといえるでしょう。その内容を見ますと、全世界の75%がすでにFWAサービスを提供しており、そのうち5Gを活用したFWAを提供する事業者が、過去半年のうちに46社から57社に増えているとのことです。

2021年末時点でのFWA接続数は8000万と予測されていますが、2027年にはそれが3倍の約2億3000万にまで増加しトラフィックは6倍にまで拡大、利用するユーザーに換算すると8億以上にまで広がるというのが同レポートでの予測のようです。さらにそのうち5Gを利用したFWAの割合は約半数に上るそうで、FWAでも高速大容量通信などにメリットのある5Gの存在感が高まっていくものと見られています。

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    全世界のFWA接続数は2021年末時点で8000万程度だが、2027年には2億3000万にまで拡大。うち半数が5Gになると見られている

FWAが大きく広がる背景には、日本のように光回線を全国的に敷設するのが難しく、5Gを活用した無線でブロードバンドインフラ構築を進めようとしている国が多いが故といえるでしょう。

しかし、最近ではNTTドコモが「home 5G」を展開するなど携帯各社が力を入れているのに加え、ソニーグループが2022年春に子会社を通じ、ローカル5Gを活用したFWAのサービス「NURO Wireless 5G」を展開予定であるなど、設備的理由で光回線を引くのが難しい集合住宅向けのFWA利用が拡大しているだけに、国内でもその動向が注目されるところです。

最後にモバイルトラフィックの動向予測を確認しますと、2021年第3四半期だけ約78エクサバイトと、2016年末までのデータ通信総量を上回るトラフィックが発生しているとのこと。世界的に見ればいかに短期間のうちに、モバイルでのトラフィックが伸びているかが理解できるでしょう。

ですが2027年末には、トラフィックがさらにその4.7倍近くとなる370エクサバイトに達する可能性があるとしており、うち5Gのモバイル利用が生み出すトラフィックは全体の62%に達すると予測されているようです。5Gを含むFWAのトラフィックも大幅な増加が見込まれていますが、今後も伸びをけん引するのは、やはりスマートフォンなどのモバイルデバイスが主となるようです。

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    世界のモバイルトラフィックは2021年第3四半期だけで2016年末までのデータ通信総量を上回っているが、2027年にはそれがさらに4倍以上に拡大。うち5Gが占める割合は約6割に達すると予測されている

トラフィックの急増には、動画など大容量を必要とするコンテンツや、それを快適に楽しめる大画面デバイスなどの普及が影響しているものと考えられますが、日本の場合そこまでトラフィックが大きく伸びる傾向にはないようです。

その背景には固定ブロードバンドが広く普及しており自宅でのトラフィックがそちらに流れていることや、モバイルで利用するコンテンツの嗜好の違いなどが影響していると見られていますが、1つ懸念されるのが通信料金です。

なぜなら2021年には、菅義偉前内閣総理大臣の肝煎り政策として通信料金引き下げが進められるなど、低価格ながら通信量が少なく、大容量コンテンツの利用に適さないプランの利用を国が推奨するかのような動きが強く見られました。そうした料金政策が5Gの積極的な利活用を妨げ、モバイル通信の発展から日本が一層取り残されてしまう要因にならないか?というのが非常に懸念されるところです。