MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO委員会は、5G時代の新しいMVNOのあり方として「VMNO」(仮想通信事業者)という新しい業態を提案しています。MVNOがVMNOに変わることで、一体どのような変化が起きると見られているのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。

自ら仮想コアネットワークを持つVMNO

携帯電話大手からネットワークを借りてスマートフォン向けの通信サービスを安価に提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)は、“格安スマホ”の名称で大きな注目を集め、一時は携帯電話会社を脅かすほど市場で存在感を高めるに至りました。現在は携帯各社が低価格サービスを強化してきたことで存在感が失われてきていますが、それでも市場でMVNOが一定の地位を確立していることは確かでしょう。

そうしたことから総務省ではMVNOの今後のあり方、より具体的には5G時代のMVNOのあり方に関する議論もなされ始めています。そして、MVNOの業界団体であるテレコムサービス協会MVNO委員会が、5G時代に向け提唱しているのが「VMNO」(仮想通信事業者)という新しい形態です。

現在の5Gは、4Gのネットワークの中に5Gの基地局を設置するノンスタンドアローン運用であり、4Gと5Gのネットワークが一体となっている状況です。ですが今後、5Gのネットワークが独立して運用されるスタンドアローン運用に移行するにつれ、ネットワークのあり方が大きく変化するといわれています。

具体的には、ネットワーク仮想化(NFV)とネットワークスライシングといった仮想化技術が、コアネットワークに導入されるようになるのです。そこでこれらの仮想化技術を活用し、MVNOが何らかの形で仮想のコアネットワークを直接運用することで、より自由度の高いサービスを実現できるようにするというのがVMNOのあり方です。

テレコムサービス協会MVNO委員会では、VMNOの形態として「ライトVMNO」と「フルVMNO」の2つを提唱しています。ライトVMNOは、携帯電話会社がネットワークスライシングで分割したコアネットワークの1つをVMNOに貸し出して使ってもらう仕組みであり、VMNO側はAPIなどを通じてコアネットワークを制御する形となるようです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第18回

    テレコムサービス協会MVNO委員会「5G時代における二種指定制度に係る課題に関する意見」より。4GまでのMVNOとは異なり、ライトVMNOはAPIを通じて携帯電話会社の仮想コアネットワークを直接制御することで、より高い自由度を確保する仕組みだ

フルVMNOはより踏み込んで、VMNOが持つ仮想のコアネットワークを、携帯電話会社の無線アクセスネットワークに直接接続するというもの。無線部分以外はVMNO側が運用することから一層自由度の高いネットワーク制御が可能になるほか、複数の携帯電話会社の無線アクセスネットワーク、あるいはWi-FiやLPWAなどモバイル以外の無線ネットワークをシェアする「RANシェアリング」により、例えば携帯大手4社のネットワークを束ねて活用できるサービスの実現も容易になるとしています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第18回

    同じくテレコムサービス協会MVNO委員会「5G時代における二種指定制度に係る課題に関する意見」より。フルVMNOは、VMNO側が仮想のコアネットワークを直接持ち、それを携帯電話会社の無線アクセスネットワークに直接つなぐ仕組みとなる

MVNOは5Gで法人ビジネスに生き残りの道を模索

しかし、よくよく考えてみるとMVNOがスマートフォン向けの低価格サービスは、現状のMVNOの枠組みでも十分対応できているものです。自由度が高まればその分設備投資が必要になり、低価格でのサービス提供が難しくなるだけに、なぜMVNOが5Gでより自由度を高める仕組みを要求するのか疑問を抱く人も少なからずいるかもしれません。

その理由は、MVNOが5Gで法人向けのビジネスを展開しやすくするためです。従来のスマートフォンを主体とした一般消費者向けのサービスとは異なり、法人向けにサービスを提供する上では、その企業のニーズに応じたネットワークの高度なカスタマイズが求められますが、現状、MVNOがネットワークに手を加えられる範囲はあまり多くありません。

確かに、2019年に「レイヤー2接続」の導入によってMVNO側がキャリアのネットワークに直接接続し、その一部を制御することで料金や通信速度のコントロールができるようになっていますし、2018年にはMVNOが加入者管理機能を持ち、自らSIMを発行できる「フルMVNO」も実現、年々MVNOの自由度が高まっているのは確かです。

しかしながら、5Gでは映像伝送やIoT、自動運転など求められる要素は非常に幅が広く、より高度な制御が求められていることから一層高い自由度が必要とされているのです。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第18回

    MVNO大手のインターネットイニシアティブは2018年にフルMVNOとなり、自らSIMを発行できるようになるなど従来のMVNOより高度なサービスを展開できるようになった

そうしたことからテレコムサービス協会MVNO委員会では、5Gがスタンドアローン運用に移行し、コアネットワークの仮想化が進む将来を見越してVMNOという新しい概念を打ち出すに至ったといえるでしょう。とはいえ、VMNOはあくまでその仕組みが議論の俎上に上がったばかりであり、いつ、どのような形で実現するのかはまだ分からないものでもあります。

しかもVMNOは、MVNO側からしてみれば大幅に自由度が上がるメリットがある一方、携帯電話会社側からしてみればMVNOとの差が少なくなり、自社の無線アクセスネットワークをいいように使われてしまう仕組みともいえるだけに抵抗も予想されます。総務省の力強い後押しがあるとはいえ、すんなりと実現に至るかどうかは未知数です。

とはいうものの、参入事業者が劇的に増加し短期間のうちにレッドオーシャンとなったスマートフォン向けの低価格通信サービスだけでは、MVNO側が将来を見通せず存続の岐路に立たされる可能性すらあるのも事実です。MVNOが5G時代に生き残るためにも新しい取り組みを必要としていることは確かであり、そのためにもVMNOの実現に関する議論には注目しておく必要がありそうです。