携帯各社によるサブ6など高い周波数帯の活用や、SA運用への移行などが進んでいるとは言い難く、2023年も非常に厳しい状況が続いた日本の5G。そうした状況にあって、今後5Gの活用は順調に拡大するのでしょうか。2023年を振り返りながら、2024年を展望してみたいと思います。→過去の「次世代移動通信システム『5G』とは」の回はこちらを参照。

5Gの整備遅れがNTTドコモ通信品質低下の一因に

年明け早々から波乱が続いている2024年ですが、今年の5Gを展望するうえで振り返っておきたいのが2023年の5Gに関する動向です。

サービス開始当初に大きく膨らんだ5Gへの期待がはじけ、ここ数年5Gに対する関心は低下の一途をたどっていますが、2023年もその傾向に大きな変化はありませんでした。ある意味でその停滞ぶりを示しているのが、同年に大きな注目を集めたNTTドコモの急速な通信品質の低下です。

同社はコロナ禍による制約が減少し、人流が回復した同年春ごろから都市部を中心として急速に通信品質が低下、利用者から「つながりにくい」「遅い」などの不満を高めていました。

その要因として、人流回復によるトラフィックの急増を読み切れなかったことを挙げていましたが、5Gの整備が思うように進んでいなかったことも大きな原因の1つとなっていたようです。

5Gの設備を増やす許可を得るため、基地局などを設置しているビルオーナーなどとの交渉が順調に進まなかったことで、大容量通信に対応しやすい5Gのネットワーク整備が遅れ、その結果急増したトラフィックが4Gのプラチナバンドなどに集中し品質低下を招いた訳です。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第112回

    NTTドコモの通信品質低下が起きた要因は、コロナ禍明けのトラフィック急増を読み切れなかったことだけでなく、地権者との交渉が思うように進まず5Gの基地局整備が遅れていたことも大きい

一方でKDDIやソフトバンクは、「サブ6」や「ミリ波」といった大容量通信が可能な5G向けの周波数帯ではなく、4Gから転用した周波数帯を積極活用して5Gのエリアを広げることに重点を置き、問題を回避してきました。

しかし、4Gの周波数帯は5Gに転用しても通信速度や容量の面で4Gとの違いがなく、今後も増え続けるトラフィックに対応し続けるのは難しいでしょう。

そこで2024年は、サブ6やミリ波などを従来以上に積極活用してエリア整備を進めていくことが求められます。

ただ、携帯各社は菅義偉氏が首相だった2020~2021年に、政府主導で進められた料金引き下げ要請の影響を非常に大きく受けており、3Gや4Gの時代と比べると5Gへの投資は大幅に減少している状況にあります。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第112回

    総務省「競争ルールの検証に関するWG」第50回会合における情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の提出資料より。国内の5G基地局への投資は、3Gや4G/LTEの時と比べ明らかに減少しているという

とりわけサブ6やミリ波は、周波数特性上広範囲をカバーするのに向いていないことから基地局を多数設置する必要があり、エリア整備にはかなりのコストがかかると見られています。

それゆえ各社とも、これら周波数帯の基地局を面的に整備することにはあまり積極的とは言えず、2024年も通信品質の維持に関しては、各社とも綱渡りの状況が続くことになりそうです。

海外でも落ち込む5G投資、復活の鍵は

各社が5G投資に消極的なのはコスト的な要因だけでなく、5Gへの投資で得られるメリットがあまり見いだせなくなっていることも、要因として挙げられるでしょう。実際、5Gのビジネス活用に向けた取り組みは、2023年も大きな動きを見ることができませんでした。

一例として、NTTドコモ子会社のNTTコミュニケーションズが2023年10月12日から実施していたビジネス関連のイベント「docomo business Forum'23」を挙げますと、昨今注目される生成AIの活用などをはじめとしたソリューションに関する展示がなされる一方、5Gを活用したソリューションの事例はごく少数しか確認することができませんでした。

同社の代表取締役社長 社長執行役員である丸岡亨氏は、5Gを活用したソリューションが増えていない要因として「世の中のニーズとシーズ(企業が提供する価値)がしっかり一致するタイミングがまだ来ていない」と答えていましたが、その反面では5Gの高度化や6Gなどが今後普及することで、その使い方も変化していくとの見解を示していました。

確かに国内携帯各社の5Gはまだ、5Gの実力をフルに発揮できるスタンドアローン(SA)運用への移行が進んでおらず、ネットワークスライシングを活用できないなど課題を多く抱えています。

それだけに5Gのビジネス活用が進むにはやはり、5Gに積極投資してネットワークを進化させることが必要不可欠であることは間違いないでしょう。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第112回

    「docomo business Forum'23」の基調講演に登壇するNTTコミュニケーションズの丸岡氏。だがその内容を見るに、5Gのビジネス活用に関する説明はあまり多いとは言えなかった

しかし、ニーズとシーズのミスマッチは日本だけで起きている問題ではないようです。5Gを利用することで提供できる価値が、企業が期待する水準に達していないことから、5Gへの投資にも整備にも消極的になっているというのは世界的な傾向といえます。

実際、国内のネットワーク機器ベンダー大手であるNECは2023年11月30日の「NEC IR Day」で、海外での5G事業の立ち上がりが想定より遅れており、2025年度の売上目標を当初予想からおよそ3割引き下げるなど、戦略の見直しを余儀なくされている様子を見せていました。

他のベンダーからも国内だけでなく、海外での投資も低調な様子を耳にしており、明確な5Gの活用事例が見いだせず投資が落ち込んでいる印象を受けています。

  • 次世代移動通信システム「5G」とは 第112回

    「NEC IR Day」の説明資料より。同社が成長領域として力を入れていたグローバル5G事業は、海外での投資が低調なことから売上予想をおよそ3割引き下げるなど、大幅な見直しを余儀なくされている

ただローカル5Gの動向を見るに、実証実験が多くを占める状況は大きく変わらないながらも、わずかではありますが徐々に実際のビジネスの現場で活用される事例が出てきているようです。

そうしたことを考えると、2024年も引き続き低空飛行ではありますが、2023年よりはビジネスの現場で5Gが具体的に導入されるケースは増えてくる可能性がありそうです。

具体的な活用事例が増えれば5Gを整備するモチベーションが高まり、好循環をもたらすことにもんつながってくるだけに、2024年の5G動向をを占ううえでは、ビジネスでの活用事例がどれだけ増えるのかが非常に重要になってくるといえそうです。