5G向けに割り当てられた周波数帯は遠くに飛びにくく、広いエリアをカバーするのにはあまり適していません。限られた条件で広範囲をカバーするため、どのような取り組みが進められているのでしょうか。→過去の回はこちらを参照。
設備の共有で多数の基地局を低コストで整備
前回、5Gに割り当てられた電波は、高速大容量の実現のため周波数が非常に高い帯域であること、それゆえに遠くに飛びにくく広いエリアをカバーするのが容易ではないことについて説明しました。ではそうした悪条件の中で、携帯電話会社はどうやって5Gのエリアを広げていこうとしているのでしょうか。
その方法の1つは、携帯電話会社同士でネットワーク設備を共有し合う「インフラシェアリング」です。
高い周波数帯を用いる基地局は1つでカバーできる範囲が狭いことから、広いエリアをカバーするにはたくさんの基地局を設置する必要があるのですが、多数の基地局やアンテナを設置するにはそれだけの場所を確保する必要がありますし、設置・運用する上でも多くのコストがかかります。それを1つの会社でするとなると、莫大なコストがかかってしまい経営が成り立たなくなってしまうかもしれません。
そこで複数の会社で、お金を出し合ってそれらの設備を共同で整備し、シェアすることでコストを抑えながらエリアを広げるというのがインフラシェアリングになります。インフラシェアリングは電波オークションによる経営悪化でコスト削減が求められた欧州や、米国やインドなど広いエリアをカバーする必要がある国々では比較的用いられている手法で、携帯電話会社同士でインフラをシェアし合うだけでなく、アンテナなどを自前で敷設して携帯電話会社に貸し出す、独立系のタワーカンパニーを活用するケースも多いようです。
国土が狭く、携帯電話会社の企業体力がある日本では、これまでインフラシェアリングが用いられてきませんでした。ですが5Gでは整備コストの増加が見込まれることから、特に人口が少なく採算性が低い地方を中心に、低コストで広いエリアをカバーするためインフラシェアリングを進める動きが進みつつあるようです。実際KDDIとソフトバンクは2019年7月に、地方における基地局資産の相互利用に関する実証実験を開始しています。
4Gの帯域で5Gを展開する技術とは
そしてもう1つは、現在4G向けに割り当てられている周波数帯を5G向けに転用することです。2Gの周波数帯を3G、3Gの周波数帯を4Gといったように、古い世代の通信規格を終了させ、その周波数帯域を新しい世代で利用するということはこれまでにもなされてきたので、5Gでも同様の取り組みがなされる可能性は高いでしょう。
しかも現在3G、4Gに使用している周波数帯は、5G向けの帯域より低いので広いエリアをカバーするのに適しています。それだけに将来的には、現在4Gに用いられているような帯域を使って広いエリアをカバーすることになると考えられるのですが、それには移行のため、既存の3G、4Gのサービスを終了させる必要があるため時間がかかるのが難点です。
すでに3Gは大手3社ともに終了時期を発表していますが、その時期は最も早いKDDIで2022年3月末と、あと2年は待つ必要があります。4Gに至っては現在も現役で使われていることから、当分空けるのは難しいでしょう。
そこでいま注目されているのが、「ダイナミックスペクトラムシェアリング」という技術の導入です。これは要するに、同じ周波数帯で4Gと5Gを共有するというもの。4Gのサービスを終了させる必要なく、4Gの周波数帯を5Gでも活用できるのが特徴となります。
とはいえ、ダイナミックスペクトラムシェアリングにも弱点はあります。1つは、4G向け周波数帯の免許はあくまで4Gで使うことを前提に割り当てられているため、それを5Gと共用するとなると法制度何らかの変更が求められること。日本でダイナミックスペクトラムシェアリングを導入する上でも、法律上の問題をクリアするため総務省などで議論が進める必要があるのです。
そのため今すぐに導入できる技術という訳ではないのですが、国としても前向きに導入を進めていることから、そう遠くないうちに導入される可能性が高いと見られています。
もう1つは、そもそも4Gで用いている周波数帯は帯域が狭いこと。ダイナミックスペクトラムシェアリングでは、その狭い帯域をさらに4Gとシェアする形になるため、それを用いて5Gのエリアを広げたとしても高速化につながる訳ではないのです。
そうしたことから現実的には、低い周波数帯で広範囲をカバーしながら、高速大容量通信が必要な場所には周波数の高い帯域を用いるなど、双方をうまく組み合わせてネットワークを構築する必要があるのです。ゆえに充実した5Gネットワークを構築する上では、どちらか一方ではなく双方の取り組みが同時に求められることになるのではないでしょうか。