僕は朝型の生活になって7年になります。その前は夜型の生活を20年ほど続けていました。ずっと朝型に憧れ続けていたけど、できなかった。それがもう7年も続いているのは単に、太陽に逆らう体力がなくなり、きちんと、それなりに歳をとってきたのだなと思うんです。
朝は、鉢植えに水をやることから始まって、窓を拭くこともあれば、家の前を少し箒ではくこともあります。そうやってると徐々に身体や頭が動き出して調子よく1日を始めることができます。社会人は「通勤」がその役目になってるんでしょうね、僕の場合は家からあまり出ないから、そのような鉢植えに水をやるとかになるんだけど、本当は庭の手入れなんかがしたいですね。庭があれば。
家で仕事をする人は、朝の犬の散歩とかもそうだけど、そのような徐々に眠っていた身体を動かしてゆく工夫をしている方も多いんじゃないでしょうかね。
目黒区にある影絵作家である藤城清治さんが自宅アトリエを公開していたので、先日、観に行きました。びっくりしたのは家の中に生き物が沢山いたこと。フクロウ、カワセミ、犬、猫、大型水槽もいくつかあり、池のようなものもあったな~。なるほど、庭のような土地がなくても、家の中にスペースは小さくても「庭のようなもの」を持ち込めばいいんだ! と思いましたね。部屋に外のものを持ち込む! やり過ぎると、動物の世話で1日が終わったりして、かえってストレスの原因になったりするかもしれません。でも何もない、水も土も生き物もいない部屋は、もう気味が悪いと感じます。寝るためだけに帰る部屋ならいいけど、その部屋に一日中いるような生活をしてる人なら、部屋の中に自分以外の体温のようなものと共生してゆきたい。
練馬区にある絵本作家 いわさきちひろさんのアトリエを再現した空間にも「ちひろの庭」という気持ちのいい中庭があります。岡本太郎さんのアトリエ(現、岡本太郎記念館)にも素敵な庭があって、南国の木が植わっている。
家の中でモノづくりをやってきたプロフェショナルの多くは、自分の庭のようなものをうまく管理しているようなイメージがあるのは、僕だけでしょうか。誰か「作家と庭」というテーマで研究レポートしてくれないかなあ。
植物に水をやる行為というのはシンプルだけど、とても気持ちのいいことなんですよね。ほとんど無条件の愛情。小さな鉢でも乾いた土に水が沁み込んでいくのは、こちらも気持ちのいいもんです。愛情や思いやりを小さなジョウロで流してやる。それが「呼び水」のように、すうっと愛情の流れが動き出す。愛は水みたいなもんで、いったん流してやれば動き出すんですよね。その流れは創作に注ぎ込まれて、めんどくさい作業や、煩わしい行程も、愛してやればいいから、その流れを利用しちゃえばいいんですよね。これは家で創作活動をする心のテクニックです。以上、笑いなしでお届けいたしました! では、また次回!
タナカカツキ
1966年、大阪府出身。弱冠18歳でマンガ家デビュー。以後、映像作家、アーティストとしても活躍。マンガ家として『オッス! トン子ちゃん』、『バカドリル』(天久聖一との共著)など作品多数。1995年に、フルCGアニメ『カエルマン』発売。CM、PV、テレビ番組のオープニングなど、様々な映像制作を手がける。映像作品『ALTOVISION』では「After Effects」や「CINEMA 4D」、「3ds Max」を駆使して、斬新な映像表現に挑んだ。キリンジのアルバム『BUOYANCY』など、CDのアートディレクションも手掛ける。