2年ほど前にRedditの r/unpopularopinion に「Newman‑O’s are better than Oreos(Newman-O’sはオレオよりおいしい)」という投稿があり、Newman's Ownの「Newman-O’s」が話題になりました。TikTok上でも「Newman O’s Cookie Meme」が同じ頃にバズを起こしました。「テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏」の過去回はこちらを参照。
「Dupeカルチャー」
Newman-O’sは、ココア風味のクッキー生地でバニラクリームを挟んだサンドクッキーです。ざっくり言えば、Newman’s Own版のオレオ(Oreo)であり、オーガニック原材料を使用して「本家よりも甘さ控えめ」であるのが特徴です。
このように本家のアイデアや機能を取り入れつつ、独自の素材や味付け、ブランド哲学や価値観を反映させた製品は、Newman-O’sに限らず数多く存在します。とはいえ、小売チェーンのプライベートブランド商品になると「オリジナルより安く」を重視する傾向があり、さらに範囲を広げると単なる「安価な模造品」もあります。
そうしたグレーゾーンの商品に対し、著作権や商標権の侵害で訴訟が起こることは珍しくありません。ところが最近、オリジナル商品の企業による法的措置がより広い範囲で実施され始めています。その背景には「Dupeカルチャー」の存在があります。
Dupeとは「Duplicate(複製)」の略で、Dupeカルチャーは高価な人気商品やブランド品に似た安価な代替品を紹介・購入する動きを指します。特にTikTokやInstagramで拡散しており、7月時点でTikTokには#dupeのハッシュタグが付いた動画が35万件以上投稿されています。
Dupeカルチャーが広がる要因として、インフレや経済的不安定に加え、「バズり」文化の影響も挙げられています。トレンドの移り変わりが速く、高額商品を買ってもすぐに時代遅れになってしまう。それなら、似た商品を安く買えば十分という考え方が浸透しているのです。
Newman-O’sの場合は原材料や風味の違いが話題となり、本家も刺激を受けて商品開発を強化するといった相乗効果が見られました。しかし、Dupeカルチャーでは「オリジナルより安いdupe」が注目されるだけで、オリジナルのブランド価値の毀損やイメージ低下につながりかねません。そのため、法的措置が増えているのです。
消費者から誤解を招く恐れも
象徴的な例が、6月末に起こったフィットネスウェアブランドのLululemonによるCostcoの提訴です。CostcoがKirklandブランドで展開するアパレル製品が、Lululemonの「Scuba」フーディや「Define」ジャケット、ABCパンツを模倣し、デザイン特許、商標(色名:Tidewater Teal)を侵害していると主張しています。
Costcoのような企業が同じカテゴリに製品をぶつける場合、法的なリスクを踏まえて製品を開発しているはずです。それにもかかわらず、大企業同士のぶつかり合いが起きたのは、Dupeカルチャーにより消費者動向が変化しているからです。
このような訴訟において、裁判所は「機能的要素」を保護対象外とする傾向にあります。Newman-O’sのように見た目や名前はオレオに似ていても、消費者から別の商品と認識されていれば、侵害とは認定されにくいのです。つまり「消費者混乱の有無」がカギとなります。
Costcoの商品は、TikTokやInstagramなどでDupeとして大きな話題になったことで、ネット上で広く知られる存在になりました。それにより消費者が「これは公式品と同じ」という認識を強めていたり、Kirklandの商品がオリジナルであると誤解する消費者がいるとしたら、消費者混乱として認められる可能性があります。SNS文化との相互作用が争点となります。
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LululemonのABCパンツは128ドル、CostcoのKirkland パフォーマンスパンツは20ドル。New York Timesは4月に製品レビューサイトWirecutterで、Kirkland製品がLululemonのdupeであるかを調査。代替品にはならないとしながら、「Kirklandのパンツは(品質的に)半ば使い捨てだが、20ドルなら妥当」と結論
もう1つ紹介すると、シルバニアファミリーなどで知られるエポックが人気TikTokアカウント「Sylvanian Drama」(ぬいぐるみを使ったダークコメディ風の動画を投稿)を提訴しました。著作権侵害や商標権侵害、公認動画と誤認させる虚偽表示に該当するとしています。
この訴訟で注目されているのは、フォロワー250万人を超えるSylvanian Dramaに対し、長い活動期間を経て今になって訴訟が起こされた点です。エポックは訴状で「Sylvanian Dramaが独自のブランドイメージ構築にシルバニアファミリーを利用している」と問題視しています。これも、ネットで人気が高まった結果の「消費者混乱の有無」が争点となるでしょう。エポックの主張が認められれば、これから著作権の適用が拡張される可能性があります。
Dupeカルチャーをめぐる訴訟の多くは、ロゴなどを完全にコピーした「偽造品」とは異なります。ブランド側は、商標権や意匠権の侵害に加え、「ブランドイメージの希薄化」や「創造性へのただ乗り」を不正競争行為として訴えるケースが増えています。
重要なのは、これを単なる保護主義の強まりと捉えないことです。「Dupe=安価な模造品」の法的リスクが高まる一方で、Newman-O’sのように独自性を持ち、本家に刺激を与える「オルタナティブ商品」の増加は市場全体を活性化させます。
また、Dupeカルチャーは「より安く」を満たすだけのムーブメントではありません。Z世代は「デザインをシェアする文化」に寛容であり、「ブランド力よりも実用性やデザイン重視」「コスパの良い選択は賢い」といった考え方を持っています。こうした新しい価値観に寄り添う製品こそ、今後の市場で存在感を増しそうです。