Robloxが、同社の生成AIの取り組みを「4D生成AI」に展開する構想を発表しました。1D(スクリプト)、2D(サーフェス)、3D(スペース)に続いて、スクリプト化されているゲームのインタラクションを生成AIで効率化し、より多くの人にゲーム制作を広げようとしています。→過去の「テックトピア:米国のテクノロジー業界の舞台裏」の回はこちらを参照。
生成AIの取り組みを「4D生成AI」に展開
Ideas are cheap. It's only what you do with them that counts.(アイデアは安い。それをどう活かすかが重要だ)。
アイザック・アシモフ氏の言葉です。アイデア自体が安っぽいものだと言っているのではありません。人々はアイデアに価値を置きがちですが、創造性や革新は発想だけでは実現しません。アイデアに基づいて行動を起こし、実現する力が伴ってこそ、初めて真の価値を持ちます。
しかし、行動するのは容易ではありません。技術や知識が必要だったり、コストがかかるなど、さまざまな課題を乗り越えなければなりません。そのリスクを取ることに挑む人が少ないから発想がデフレを起こしてしまいます。
もし、行動のハードルが下がったらどうでしょう。スキルや金銭といったものに代わり、創造性や想像力、個人のエネルギーによってのみ制限されるようになり、アイデアは安いものではなく、それ自体がより価値のあるものになります。
米Robloxが同社の生成AIの取り組みを「4D生成AI」(4D Generative AI)に展開する計画を発表しました。同社は4Dを、単一の3Dオブジェクトを超えたダイナミックな「インタラクション」としています。実現すれば、ゲーム制作の初心者や知識・経験がそれほどない人でも、クリエイターとして「こんなゲームを作ってみたい!」をRobloxの中で実現できるようになるかもしれません。
プレイヤーがゲームメーカーにもなれるRoblox
Robloxは、ユーザーが作ったさまざまなゲームで遊べるユーザー生成コンテンツ(UGC)プラットフォームです。小中学生が主なプレイヤーで、米国では9〜12歳の子供の3分の2、16歳以下の3分の1がプレイしています。
RobloxやMinecraft(マインクラフト)など、今人気のUGCプラットフォームは、制作ツールをより身近なものにして、何百万人もの人々が他の人のためにバーチャルな体験やゲームを作ることへの挑戦と開発の面白さを体験できるようにしています。
自分たちの好きなゲームに自分たちのアイデアを生かせる、プレイヤーがゲームメーカーにもなれるのがRobloxの大きな魅力です。
例えば、MaximillianのFPSゲーム「フロントライン」の開発者クラレンス・マクシミリアン氏は、9歳でRobloxを始めてからすぐにゲーム作りを開始し、大学時代に本格的な仕事にしてスタジオを設立しました。すでに15年以上のゲーム制作経験を持ちますが、まだ25歳です。
しかし、現在のマクシミリアン氏のようなゲームメーカーは一握りの存在です。ゲーム作りのハードルが低くても、それではシンプルなゲームしか作れません。Robloxの場合、小学生がメインユーザーであるため、シンプルなゲームも好まれ、ゲーム作りの経験が少ない人でもヒット作を生み出せるのがエコシステムのメリットになっています。
とはいえ、より多くの人にプレイしてもらえるゲーム、複雑なルールや機能を取り入れたゲーム、ビジュアルも凝ったゲームを作るなら、ゲームのアーキテクチャやプログラミングのより深い理解が必要になります。
ゲーム作りの入り口は広くて入りやすいものの、アイデアを本当に形にできるようになるには、やはり努力と試行錯誤の繰り返しを乗り越えなければなりません。生成AIは、その険しい道を歩きやすくしてくれるものになります。
Robloxは昨年から生成AIの導入を展開し始め、Roblox Studio向けに、Roblox固有のコンテンツでトレーニングされた生成AIツール群をリリースしてきました。ゲームの体験やコンテンツを作るには、コードを書き、作業スペースやデータの構造を設計し、3Dモデルやそのアニメーション、さらにその表面を覆うマテリアルを作成するなど、様々な要素を1つずつ作成しなければなりません。Roblox Studioにこれまで導入されてきた生成AIツールは、これらの各部分の作成を支援するものでした。
それにより、テキスト、画像、3Dモデルといったコンテンツ作りは容易になりました。しかし、これは既存のワークフローをより利用しやすくするポイントソリューションに過ぎません。Robloxはそれらすべての要素を結びつけ、同時に生成できるシステムの実現を目指しています。
AIに頼りすぎると創造性が失われる?
Robloxの4D生成AI(=インタラクション)の目的は、ゲーム環境とのシームレスな相互作用を通じてアセットに命を吹き込むことです。
例えば、アバターセットアップ・ツール(ベータ)には、すでに4D生成AIの初期の例が組み込まれています。Robloxのアバター(キャラクター)は道具をつかんだり、バランスをとる能力を持ち、またそのアバター用にデザインされたものではない服でも着ることができ、ぴったりフィットしてスムーズに動作します。そんなアバターの細部を作り込むのは数時間を要する作業でしたが、生成AIによって自動化された作業によって数分で完了できるようになりました。
スポーツカーを作成するとして、従来のツールで作られる3Dモデルは、外観がスポーツカーとして整っている張りぼてのような3Dオブジェクトです。4D要素を持つスポーツカーは、エンジン・可動部品・物理リグを備え、物理に従って全てのパーツが相互作用し、ゲーム環境を正確に疾走することができます。さらに、アバターを通して、運転するユーザーと相互作用します。
-
4D生成AIの課題を解決するには、外観、形状、物理学、スクリプトにまたがるマルチモーダルな理解が必要になります。Robloxはその実現を目指すことで、ゲーム制作がより簡単に、より効率的に、そして楽しくなり、作ることに挑戦する人が増えると期待しています
Andreessen Horowitzは「The Generative AI Revolution will Enable Anyone to Create Games」というレポートの中で、生成AIによるUGCプラットフォームの進化は2つのフェーズで起こると予想しています。
第1段階は、既存のUGCワークフローを生成AIでより強力で利用しやすくすること。これまでのRobloxの生成AIの導入はこれに当たります。
そして、第2段階はクリエーションのワークフローの再構築です。「ツールやプラットフォームというより、生成AIを基盤に構築されたエンジンやオペレーティングシステムのように見えるだろう」と予想しています。
Robloxのように大成功したプラットフォームは、ゼロからの再構築になる第2段階では大胆に変化することができず、大きな成功が逆に負債になり得ます。そこで、最初から生成AIに最適化したスタートアップに下剋上を許してしまう。イノベーションのジレンマです。
それが起こる可能性が高いため、Andreessen HorowitzはUGCプラットフォームの第2段階について「どのような形になるかは、まだ誰にも予想できない」としていました。ところが、Robloxが大胆に4D生成AIを打ち出してきました。
4D生成AIに対する反応はさまざまです。ゲームデザインをより強力なものにしようとするRobloxを称賛するユーザーがいる一方で、AIに頼りすぎると創造性が失われ、何年もかけて技術を学んできた開発者が弱体化しかねないという意見も見られます。
4D生成AIに進むRoblox Studioが本当にゲーム制作の民主化を実現するようなものになるのか、今はまだ予想するのが難しい段階です。しかし、Minecraftも対抗策を講じてくるでしょう。生成AIの活用においてUGCプラットフォームは活気のある分野になりそうです。