新型コロナウイルス感染症の影響が長引き、顧客の行動が大きく変化するなか、マーケティングや営業、コンタクトセンターといった顧客との接点も変革が求められている。EYストラテジー・アンド・コンサルティング ビジネスコンサルティング カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション ディレクター 千葉友範氏は、10月20日に開催されたTECH+セミナー「セールステックDay 2021 Oct. 顧客との関係性をより深める」の基調講演で、SFA/CRMの活用方法からこれからの営業組織の在り方まで、コロナ禍において取り組むべきセールスDXのポイントを整理した。
営業の課題はコロナ禍によって変わったか?
日本能率協会が毎年実施する「当面する企業経営課題に関する調査」の結果を見てみると、企業経営者が抱える経営課題として「売り上げ・シェアの拡大(販売力強化を含む)」が毎年上位にランクインしており、営業による販売力強化はコロナ禍以前から課題視されていることがわかる。
一方で、生保業界では営業拠点の休業や職員の営業自粛、製薬業界ではMRの訪問規制が行われるなど、新型コロナウイルス感染症による影響を大きく受けた業界も多い。その要因の1つは、対面営業という従来一般的だった営業手法が通用しなくなってきていることにある。
こうした背景を踏まえて千葉氏は、コロナ禍に伴い自社へ寄せられるようになった問い合わせに共通する上位3つの課題を次のように紹介した。
「1つ目は、営業活動のブラックボックス化。非対面営業を可視化したいというニーズがあります。2つ目は、顧客情報の分散化。CRMが部分最適化されており社内で顧客対応状況をうまく共有できず、クレームにつながってしまっています。3つ目は、顧客接点の再構築。マーケティング、コールセンター、フィールドサービスなどの部門と営業部門をどう連携させるかが課題になっています。対面がベースにあった営業組織の設計を見直す必要が出てきているのです」(千葉氏)
従業員体験が向上しなければテクノロジー活用は進まない
千葉氏によると、営業活動がブラックボックス化しているという問題は、営業活動のプロセスを「商談管理」と「活動管理」に大別することで整理できるという。商談管理においては多くの企業がSFAなどのデータを活用できているが、活動管理の段階では、データが取得できていない、または利用できていないためにブラックボックス化してしまっているケースがよく見られる。
営業の活動量を把握するにあたっては「The Model」の概念が昨今注目されている。千葉氏はこの考え方を基に「営業活動における各KPIを因数分解したモデルを構築し、異なる組織間で共通のKPIを設計することがポイント。それぞれのデータが取得できるようになれば、ダッシュボードでリアルタイムに把握して、活動管理に活かしていくことが可能となる」と説明する。
ここで気をつけるべきは、従業員体験を中心に据えてデータを取得・活用できる状態にしていくという点だ。テクノロジーを導入しても活用・定着が進まない大きな原因として千葉氏は、管理者目線のシステムが多く、現場を助けるシステムや機能になっていないことを挙げる。
「営業現場は効果を感じていないのにも関わらず、データ入力の負荷だけが増えているケースもあります。CRM/SFAを導入したために1時間以上業務時間が増えたという事例も出ています。不便ゆえ使われず、データもたまらない。結果として使えないデータだけがたまってしまうという負のサイクルが回るようになる。こうした状況に陥るのを防ぐため、従業員体験に目を向けてデジタル化していくことが最も重要です」(千葉氏)
解決すべき営業現場の悩みは、セールストークやクロージングなど、コミュニケーションの領域に多く存在している。研修の受講や話し方の工夫などが従来の解決策であったが、これらは対面営業を前提としていた。コロナ禍においては、「活動管理フェーズのデータを使っていかに非対面営業の悩みを解決できるか」が従業員体験を向上させるセールスDXのポイントとなる。
千葉氏は、具体的なセールスDXの例として「例えば、非対面型営業の善しあしを分析する音声解析ツールを用いて、発話時間の割合や回数、ミーティングの質、参加者の心理状態などをデータで表していくことで、商談の状況を客観的に捉えることができ、改善やアドバイスにつなげていくことができる」と、音声解析ツールの活用法を紹介した。