SAS Institute Japanは10月21日、年次カンファレンス「SAS FORUM JAPAN 2021」をオンラインにて開催した。「NEW DAY. NEW ANSWERS. INSPIRED BY CURIOSITY~新たな日。新しい洞察。それらは探求心がもたらすもの~」をテーマに掲げた今回は、金融や製造、小売・流通などさまざまな業種からDXを積極的に推進する企業が登壇。最新のコンセプトや技術、事例の数々が紹介された。

そのなかから本稿では、三菱UFJ銀行 デジタルサービス推進部 担当部長 上場庸江氏が登壇した講演「MUFGがめざす顧客体験の変革」の模様をレポートする。

金融機関を取り巻く環境の変化

三菱UFJ銀行は、三菱UFJ信託銀行、三菱UFJ証券HDなどと共に三菱UFJフィナンシャルグループ(以下、MUFG)に属する普通銀行だ。講演では、同行の取り組みを中心にMUFGが推進するDXについて解説がなされた。

経済成長が鈍化する現在、世界的に低金利が続いている。日本円も2016年1月以降マイナス金利が続いており、脱却のめどは立っていない。――こうした現況を説明した上場氏は、「金融機関としてはかなり厳しい環境にある」と語る。

「我々は80兆円に上るご預金を個人のお客さまからお預かりしていますが、これが全く収益を生む資産になっていないというのは、米中の金融機関に比べると劣後的な立場にあると言えます」

上場庸江氏

三菱UFJ銀行 デジタルサービス推進部 担当部長 上場庸江氏

一方、顧客行動も多様化が進んでいる。デジタル化が進む今、コロナ禍も後押しとなり、過去5年間で店舗への来店数は半減。対するインターネットバンキングの利用は倍増しているという。

「テクノロジーは日進月歩で進化しており、これまでの常識が塗り替えられるリスクは常にあると考えています。ペイ系のモバイル決済サービスも金融サービス事業に参入しており、我々もDXを推進していかなければ存続が危うくなってきていることは言うまでもありません」

もちろん、金融機関も傍観しているわけではない。MUFGでは、口座開設や住所変更、カードの再発行といった店頭事務をPCやスマホで完結できる環境を整えており、オンラインのサービス利用比率は4割ほどを占める。2023年度末までに、これを7~8割まで引き上げる構えだ。

個人向けインターネットバンキング「三菱UFJダイレクト」におけるAIチャットボットの応対件数・問題解決率も増加しており、「着実にデジタルシフトが進展している手応えを感じている」(上場氏)という。

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とは言え、取引する個人顧客の数は約3,400万人、法人顧客は約120万社に及ぶ。そのうち対面担当者のカバー率は数%程度であることを考えると、とても十分にフォローできているとは言い難い。だからこそ「DXは欠かせない」と上場氏は強調する。

「今は、このビジネスに関わる全てのメンバーがDXに腹落ちし、商品やサービス、コミュニケーションをデジタル前提で検証・再構築して業務プロセスに落とし込むための礎を築く時期だと考えています」

「金融とデジタルの力で未来を切り拓く」- MUFGの中期経営計画

MUFGでは今年度4月、MUFGグループの活動指針「MUFG Way」が制定された。同指針でパーパスとして掲げられた「世界(全てのステークホルダー)が進むチカラとなる」の実現に向けた施策を具体化したものが、今年度の中期経営計画だ。

計画では国内リテール領域のデジタル化も重点戦略の一つとされ、今年度、新たにデジタルサービス事業本部が設置された。従来、MUFGのDX推進機能は事業本部から独立したコーポレートセンター組織だったが、マスセグメントのビジネスモデルを徹底的に変革する目的の下、事業本部にあえて統合したという。

「顧客軸としては非対面取引を行う個人・法人の顧客を担当し、併せて他の事業本部のDXを支援する組織です。事業本部との統合で、ビビッドに入ってくる顧客の声に向き合い、顧客基盤や営業部隊、マーケティングインフラを活用して新しい事業や顧客体験の変革につなげていくことを狙いとしています」