ビジネスにおけるデータ活用の重要性が脚光を浴びる昨今、多くの企業が積極的な取り組みを進めている。だが、期待する効果を十分に得られていない企業も少なくないのが実情だ。

ガートナー ジャパンが11月17日~19日にオンラインにて開催した年次カンファレンス「Gartner IT Symposium/Xpo 2020 in Japan」では、同社 マネージング バイス プレジデント 堀内秀明氏が登壇。データ活用を推進する「人」に着目し、データ活用に必須の役割とその強化における考え方について解説した。

データ活用において必要な「役割」

ガートナーでは、データ活用のプロセスをデータの「収集」「提供」「分析」の3つのフェーズと、「全体の統括/マネジメント」に分類し、それぞれで必要な役割を「データ活用の推進において必要な12の役割」として定義している。

セッションでは、これらの中から堀内氏が「特に理解してほしい」とする6つの役割がピックアップして解説された。

データ活用の推進で必要な12の役割/出典:ガートナー(2020年11月)

データ活用の推進で必要な12の役割/出典:ガートナー(2020年11月)

収集フェーズ - 情報スチュワード

「情報スチュワード」は、重要な情報資産の評価や改善、継続的な合目的性の確認をする。収集されたデータには欠損値やデータのブレなど、分析に適さない要素が含まれているため、それらを解消して使える状態にするのが役割だ。

「情報スチュワードはデータの入力に近いところにいることが望ましいので、ビジネスの現場や、そのマネジメントから協力を得る必要があります」(堀内氏)

データ提供フェーズ - データエンジニア、AI/ML開発者

続くデータ提供は、IT部門が大いに活躍するフェーズでもある。堀内氏曰く、ここで特に強化すべき役割は2つあるという。

1つは「データエンジニア」だ。使いたいデータがどこにあるか、そこにアクセスする最善の方法は何かといったことに精通している人材がこれにあたる。また、利用者が適切なデータにアクセスできるように、組織横断でのデータパイプラインの効率化や、データサイエンティストが分析用データを準備する際のサポート、ビジネス部門のユーザーがデータ探索を始める際のサポートなども行う。

「こうした役割をすでに担っているというITリーダーもいるかもしれません。しかし、実はシステムごとに担当が分かれていたり、片手間でやっていたりしないでしょうか。データエンジニアは、システム保守の一環ではなく、データの視点から専門的かつ横断的に立ち回れる”データの達人”のような役割なのです」

強化すべきもう1つの役割が、「人工知能(AI)や機械学習(ML)の開発者」である。各種アプリケーションへのAIモデルの組み込みや統合、デプロイのほか、モデルのトレーニング/実行のためのデータ収集、前処理などを行う。

「どういう局面でどんなAIが役に立つのかを判断しないといけないので、AI/MLの長所/短所を理解していることが必要です。ただし、AIモデル自体を開発できる必要はありません。その部分に関しては、データサイエンティストやサービスプロバイダーの力を借りれば良いのです」

分析フェーズ - データサイエンティスト、アナリスト

分析フェーズは、IT部門の支援を受けつつビジネス部門も活躍するフェーズとなる。ここで特に強化すべき役割も2つある。

1つが「データサイエンティスト」だ。データサイエンティストには、定量分析の手法で複雑なビジネス課題をモデリングし、データによる解決策を見い出すことが求められる。コンピュータサイエンスや統計学、経済学などに関する高度な知識を有し、与えられたデータの分析によって、次に取るべき最適なアクションを示すモデルを作成することが多い。

データサイエンティストの需要は高まっているが、こうしたスキルを身に付けた人材は希少であり、スキルの習得も容易ではない。そこで今、日本でも注目されているのが「市民データサイエンティスト」だ。ある程度自動でモデリングしてくれる拡張アナリティクスツールを利用することで、ビジネス部門のユーザーがデータサイエンスのタスクを自ら担う。

「ただし……」と堀内氏は言い添える。

「市民データサイエンティストがいれば十分というわけではなく、プロのデータサイエンティストと共存/協力することで、対応できるビジネス課題が格段に広がるということです」

ガートナー マネージング バイス プレジデント 堀内秀明氏

ガートナー マネージング バイス プレジデント 堀内秀明氏

分析フェーズにおいて強化すべき2つ目の役割が「アナリスト」だ。ここで言うアナリストとは、企業内の分析担当者全般を指す。ビジネスの現状をデータに基づいて分析することがその責務だ。

中でも強化すると良いアナリストは、ビジネスの可視化をする「ビジネスアナリスト」、ボトルネックを発見する「ビジネスプロセスアナリスト」、専門家とビジネス部門の橋渡しをする「アナリティクストランスレーター」だという。

堀内氏は「こうした役割は、ビジネスのあらゆる領域で力を発揮できる可能性があるが、どの領域に配置すればよいかは企業によって異なる」と説明した。

統括/マネジメント - COEリード

統括/マネジメントにおいて特に強化すべき役割は、「センターオブエクセレンス(COE:Center of Excellence)リード」である。データの収集、提供、分析の全てのフェーズに関係する統括マネジメントを担い、横断的な経験やノウハウ、スキルなどの集約を推進することが期待される。

COEには、パフォーマンスの測定や新規プロジェクト/セルフサービスへの教育、標準ツールの確率、信頼できるデータの所在の把握、組織文化の醸成と多岐にわたるミッションがあり、ここまでに紹介してきた全ての役割の人材が所属する可能性がある。

「どういうメンバーでどういう組織体制にすればよいかは、企業や組織の状況によって変わります。組織のデータリテラシーの底上げを行うために、優先したいポイントを見極めて各社の状況に応じたCOEを立ち上げるというアプローチが必要です」