DX型の保険商品「Vitality」の開発を通して、DX人材に必要な資質、能力、知識とは何かを知ることができた――住友生命保険(住友生命) 情報システム部担当部長 兼 代理店事業部担当部長 岸和良氏はこう語る。現在では、これらを数値化することで、DXプロジェクトに向く人を選抜し、育成する取り組みも行っているという。7月29日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「失敗と挑戦から導くDX促進の方法論」にて、岸氏がその詳細を明かした。

岸和良氏

住友生命保険(住友生命) 情報システム部担当部長 兼 代理店事業部担当部長 岸和良氏

会社視点での電子化はDXとは呼ばない

DXと一口に言っても、その実態は企業によってさまざまであり、定義が明確でないのが実情だ。金融庁の定義では、デジタル化すること全般は「デジタライゼーション」、そのうち社内業務の効率化を「デジタイゼーション」、顧客価値を向上させるビジネスモデルまで変えることを「デジタルトランスフォーメーション」とされている。これを踏まえて岸氏は、「DXは便利/感動/満足といった行動変容を促すような価値を感じる消費者側から見た概念」であると説明する。

「DXはデジタル技術を使ったもので、多くの場合、ビジネスモデル変革が伴います。その結果、社会が良くなり、消費者の生活が向上するなどの効果が現れます。会社の業務がデジタル化によって効率化されても、それはDXではありません。あくまで顧客/消費者側がどう感じるかです」(岸氏)

さらに岸氏は、DXの段階を下記の5つのレベルに分けて整理する。

DXの5つの段階

DXの5つの段階

その上で岸氏は、住友生命のDX型商品である健康増進型保険「Vitality」について紹介した。Vitalityは、加入後の健康診断や日々の運動など、継続的な健康増進活動を評価してサービスに反映することにより、リスクそのものの減少を目指した商品だ。日々の健康増進活動はポイント化され、累計ポイントに応じてユーザーのステータスが決定される。ユーザーにはステータスによって保険料が変動したり、リワードが提供されたりといったメリットがある。

その効果について「当社の調査によると、93%のユーザーが加入後に健康を意識するようになったと回答している。また、1日の歩数が増加した、血圧が下がったなど、健康の質が高まったと感じるユーザーが84%に上った」と岸氏は紹介。Vitalityはユーザーの行動変容を促すことに成功していると言えるだろう。

Vitalityの概要

Vitalityの概要

DXに対する向き/不向きを計数化してプロジェクトに抜擢

「レガシーシステムを30年ほど維持している」(岸氏)という住友生命において、Vitalityのようなサービスはどのようにして生まれたのだろうか。岸氏は「Vitalityの開発には人材が必要だったが、ビジネスを自分で作り出せるようなDX人材が社内にあまりいなかった。そこで、どうすれば社員を早くDX人材に転換できるかという考えからスタートした」と説明する。

岸氏は、DX人材に必要な資質として、新しいものを好む、好奇心旺盛、現状を良しとしない、といった”イノベーティブ度”を挙げる。能力としては、ビジネスを作り出す力、価値を生み出す力、人脈、事例解析力、組み合わせる力、それを導入するためのプロジェクトマネジメント力が必要であるとする。

「DXに向く人と向かない人がいます。DXに向いている人は新しいことを考えるのが好きですが、向かない人は抱え込んで考えてしまうタイプです。こうした資質に加え、能力と知識を計数化して、当社のSEのなかから適した人材を選出できないか考えました」(岸氏)

計数化には、ネクストエデュケーションシンクの「イノベーティブ人財診断」および「人間力診断」、日本イノベーション融合学会の「DX検定」を用いて試みた。イノベーティブ人財診断は、その名の通りイノベーティブな資質を計るもの、人間力診断は、仕事の遂行能力を計るもので、経験値が高いほど点数が高くなる傾向にあるという。DX検定は最新のITとビジネストレンドの知識量を判定するものだ。

これらのアセスメントを社員に対して実施し、その結果をイノベーティブ度×能力、イノベーティブ度×知識、知識×能力でプロットしたところ、すでにDXプロジェクトに参画しているような人材だけでなく、レガシーシステムの開発/保守に携わっているような人材も好成績を収めるという、興味深い結果が出たという。

アセスメントの実施結果例

アセスメントの実施結果例

「該当人物は、レガシーシステムに飽きて、子どもの夜泣き検知のセンサーを開発し、夜泣きを検知したらメールが送信されるようなシステムをプライベートで個人的につくっていました。意欲が高かったこともあり、DXプロジェクトに配置転換し、現在はビジネスサイドで活躍しています。

同じくレガシーシステムを長年担当してきていた人が、資質/能力/知識とも高かったため、DXプロジェクトにアサインしてDX人材の教育カリキュラムの作成を担当してもらったところ、短期間で10以上の研修教材や動画編集を実施するといった活躍をしています」(岸氏)