新型コロナウイルス感染症の影響で多くの人々の働き方が変わった。テレワークが急速に普及し、企業の在り方も問われている。そうした状況のなかで、コロナ禍以前から推進されてきた働き方改革はどうなっていくのだろうか。

6月10日に開催された「マイナビニュースフォーラム 働き方改革 Day 2020 Jun. 変化する社会で躍進できる組織へ」に明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科 教授 野田稔氏が登壇。ウィズコロナとアフターコロナの時代を見据えた「真の働き方改革」について語った。

変えるべきは働き方ではなく「成果の出し方」

新型コロナウイルス感染症の蔓延は、社会に劇的な変化をもたらした。人々は新しい生活様式への切り替えを余儀なくされ、いまだ解決できていない課題は数多く存在している。

一方で「悪い変化だけではない」と野田氏は言う。

「新型コロナの影響で働き方は大きく変わりました。個人的に言えば、満員電車にはもう乗らなくなりました。仮にワクチンができたとしても、もう乗りたいとは思わないし、できるだけ乗らないようにするでしょう」

明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科 教授 野田稔氏

野田氏は、時間軸をコロナ禍以前、新型コロナウイルスの拡大と戦っている現在、そしてウィズコロナで生きていく未来の3つに分け、それぞれの時期における企業の動向と働き方について分析していった。

「コロナ禍前、働き方改革はそれほど進んでいたようには思えませんでした。働き方改革といっても『ふーん』という冷めた目で見ていた人が多かったのではないでしょうか。多くの会社で働き方改革は”何となく進んでいる風”であり、社員にしてみればやらされている感がありました」(野田氏)

なぜ現場は積極的に働き方改革に取り組めなかったのか。野田氏によると、現場では「どうせやるべき仕事は減らないのだから、早帰りしたってどこかで帳尻を合わせないといけない」「長時間労働なんて誰もやりたくないけれど、しょうがないじゃないか」といった声が聞かれたという。

これは多くの会社が働き方改革を「短時間労働」だと捉えてしまったことが原因だ。仕事量は変わらないのに残業だけを減らそうとしても、そのしわ寄せは現場を直撃するだけ。これでは「働き方改革」と言われても現場が冷めた反応になってしまうのは当然だろう。

ではどうすれば良いのか。

野田氏は「働き方改革」ではなく、「成果の出し方改革」を行うべきだと指摘する。働き方だけを変えるのではなく、成果の出し方を変えることにより結果的に働き方も変わっていくという考え方だ。

例として野田氏が挙げるのが、システム開発会社のSCSKの事例である。

SCSKでは働き方改革の目的を残業時間削減ではなく「社員の幸せ/人間性回復」に置いている。というのも、改革前のSCSKは徹夜が続いて会社に泊まり込む社員がいるほどの状況だったからだ。

2011年、代表取締役社長に就任したばかりの中井戸信英氏はこの状況に驚き、すぐさま改善に着手した。もっとも、野田氏によると「中井戸社長は特に変わったことをしたわけではない」という。

業務の優先順位を付け、直行直帰を徹底し、1Best運動(電話1分/議事録1枚/会議1時間)や1/8運動(会議の時間、人数、資料をそれぞれ1/2にする)、スマートチャレンジ20(残業削減前年比20%、有給休暇20日取得)などを実践したのである。

働く時間を減らしたのにもかかわらず、会社は増収増益を果たし、無事故プロジェクト率業界No.1も達成した。

同社の改革が成功したのは「明確な目的を持って戦略的に進めた」ことが理由だと野田氏は分析している。確かに残業削減も施策に含まれてはいるが、それが目的ではない。あくまでも目的は「社員の幸せ/人間性回復」であり、そのために成果の出し方を見直したことが同社の成功のポイントだったのだ。