小学生の将来就きたい職業ランキングで上位に入るYouTubeクリエイター。数年前には、ヒカキン氏ら人気クリエイターが多数誕生したが、その後、YouTubeの規模が拡大し、動画数も爆発的に増えたことから状況は大きく変わっている。

これから頭角を表すクリエイターは、制作力もさることながら、世間のニーズを鋭く捉える慧眼と、多くの登録者を獲得するためのチャンネル戦略なども備えている必要がある。

本連載は、そんな現在のYouTubeで成長しているチャンネル、クリエイターに焦点を当て、動画制作やチャンネル運営の秘密に迫る。

「バイリンガール英会話」チャンネルのちかさん。動画に愛称”プリン”ちゃんとして登場する一歳の長女と

第2回となる今回は、楽しく英会話が学べる動画を公開している「バイリンガール英会話 | Bilingirl Chika」チャンネルのちかさん。これまでの動画活動の歩みやコンテンツ作りのポイント、今後の展開などについて話を伺った。

友人に頼まれたレジュメのチェックから生まれたチャンネル

――これまでの経歴について教えてください。

小学1年生から大学を卒業するまで16年間をアメリカのシアトルで過ごしました。2007年に帰国してコンサルティング会社に入社し、2011年から動画投稿を始めました。コンサルティング会社を退職してYouTubeクリエイターを専業にしたのは2013年です。

――動画を投稿するようになったきっかけは何だったのでしょう。

友人から英語の履歴書をネイティブチェックしてほしいと頼まれて見ていたときに、「A」と「The」の使い分けができていないことに気づき、動画で説明しようと思ったのがきっかけです。そこから生まれたのが、最初の動画『AとTheの使い分け // “A” vs “The” 〔#001〕』でした。

――他にも表現方法があるなかで動画というスタイルを選んだ理由は?

もともとそれ以前からブログは書いていて、コンサルタントとしての学びや思ったことを発信していたので、アウトプットする楽しさは知っていました。

動画を選んだのは、今後動画が絶対にくると思ったからです。私自身、何か知りたいことがあるとYouTubeでハウツー動画を見ていたので、親しみがあったということもありました。

ネガティブコメントへの反論よりも、応援コメントへの返信を

――当初からYouTubeクリエイターという職業を視野に入れていたのですか?

いえ、まったくです!

今ほどYouTubeクリエイターが盛り上がっていたわけでもないですし、私自身はYouTubeを動画をアップするための場所として使っていたイメージでした。アップした動画は、SNSで友人に共有していたので、自分のチャンネルページもそこまで頻繁には見ていなかったです。

収益に関しても、将来ちょっとお小遣いになればいいかなくらいで、それがキャリアになるとは思ってもいませんでした。

――動画編集も最初と今とではまったく違いますね。

最初はPCの内蔵カメラで撮影して、Windowsムービーメーカーでカット編集するくらいでしたね。初期の動画、今見るとなんで窓を背景にしてわざわざ逆光で撮っているんだろうって思います(笑)。

――登録者が365人になったタイミングで、「初めてたくさんの視聴者がいることを意識した……」という動画を投稿されています。

そのタイミングが初めて自分のチャンネルをちゃんと認識した瞬間でした。

今思うと数百人ってそれほど多いわけではないんですけど、当時は周りの友達しか見てくれていないと思っていたので、「私、365人も友達いないんだけど!」と驚きがありました。でもそれが良かったのかもしれませんね。自然体で始めることができましたから。

――そこから視聴者を意識した動画作りが始まったわけですね。

視聴者を意識するというか、動画を楽しくしたいなと思ったんです。たとえばコメントに「テンポが悪い」とか「イントロが長すぎる」とか書き込まれて、まだネガティブコメントに慣れていなかったので(笑)凹みながらも、たしかにそれはそうかもと思って試行錯誤を繰り返しました。

――ネガティブなコメントだとショックを受ける人も多いと思います。

もちろん、最初はびっくりしましたよ。面と向かって「嫌い」と伝えることって現実社会ではないじゃないですか。

――これからYouTubeクリエイターになる場合、ネガティブコメントにどう対処すればいいのでしょう。

気にしないというのは無理だと思いますが、何をしてもネガティブに捉えて言ってくる人はいるものなので、「そういう考え方もあるんだ」くらいに受け止めて、気にし過ぎなくていいと思います。

以前、視聴者の方に「ネガティブコメントではなく、応援コメントの方に返信してほしい」と言われて、本当にその通りだなと思いました。ネガティブなことを言われるとつい反論したくなるものですが、むしろ大事にすべきはポジティブなコメントだと気付かされたのです。

それ以来、ネガティブなコメントにはあまり反応しないように気をつけています。もちろん、反対意見から学べることも沢山あるのでちゃんと読んではいますけどね。

ほとんどがネガティブなコメントだったら、それはもしかしたらやっていることを見直した方がいいかもしれませんね(笑)。

学べるだけでなく楽しめる”エデュテイメント”を実践

――特に手応えを感じた動画はありますか。

私の動画はバイラルに拡散されるものはあまりなくて、地道に再生回数を重ねていくものが多いです。

瞬発的な再生回数は、英会話レッスンの動画よりも、私生活などパーソナルな動画の方が増える傾向にあるのですが、レッスン系の動画のいいところはロングランコンテンツになることです。教育動画は、トレンドに左右されず常に誰かのニーズに答えるものになるので、アップ時にはそこまで再生されてなくても気づいたら百万回近く再生されているものが結構あります。

実は、「作品としてよくできた!」と思うものほど再生されないんですよ(笑)。たとえば以前、ハロウィーンの時期に日本の妖怪を英語で紹介するというかなり凝った動画を作ったんです。ものすごく時間をかけたのですが、かけすぎてハロウィーンに間に合いませんでした……当然、再生されませんよね(笑)。これは凝ったから再生されなかったというよりも、単純にタイミングですね。

そういう意味でタイミングはとても大事です。特に時事ネタは計画的に準備しないと勿体無いことになります。

ただ、あまり一本の動画の再生回数を気にしすぎなくてもいいと思います。動画には新規開拓のためとか既存のファン向けとか、それぞれに役割があるんです。何のために、誰のためにその動画を出したのか、目的がはっきりしていれば、再生回数が少なくてもその人たちにはリーチしているはずです。

――動画を作る際の方針などはありますか。

方針といえるほどかたいものではありませんが、私は必ずしも英語を教えたいのではなく、一歩踏み出すきっかけを作りたい、生活の中で新しいチャレンジをしようとしている人の背中を押したいと思って動画を作っています。

旅の様子など、自分自身のパーソナルな動画を出しているのも、新しい文化に私の動画を通して触れることで刺激になると思うからです。

学べることも大事だけど、それ以上に楽しめるコンテンツでありたい。私の動画はエデュケーションというよりも、エデュケーションとエンターテイメントの二つの要素を持つ”エデュテイメント”なんです。

――たしかに、ちかさんの動画はあまり「勉強」という印象はありません。

私自身も先生じゃなくて、英語を話せる友だちという感覚で見てほしいんです。

最初は「教える」という言葉を使っていたのですが、それも「教えるという言い方が上から目線に聞こえる」という指摘をいただいて、確かにそうだなと共感したので、今は「教える」のではなく「シェアする」という感覚で発信しています。

――動画を作る際はどんな視聴者像を想定しているのでしょうか。

いろいろな方がいるので難しいのですが、やっぱりオフ会やミートアップで会ったことのある方、それから動画のコメントやSNSでコミュニケーションを取っている方をイメージしていますね。

――動画の企画などはどのように考えていますか。

最近は一つの動画の企画を考えていくというよりも、シリーズ単位で考えています。たとえば「プチ移住」とか、夫がセブ島に留学した「おさるさんEnglish」とか、まずはシリーズを考えて、そこからコンテンツが生まれていくんです。

――ネタは尽きませんか。

尽きませんね。尽きるとしたら、そのテーマは考え直した方が良いのかもしれません。私が続けられるのも、常に何かしらやりたいことがあるからです。

YouTubeクリエイターもお休みは大事

――動画編集にはどれくらい時間をかけますか。

動画によりますね。本当は決まった時間でやる方がいいのかもしれませんが、バラバラです。

編集ももちろん時間がかかるのですが、特に悩むのはサムネイルです。動画が再生されるかどうかはサムネイルが9割と言っても過言ではありません。その1枚で動画の魅力を伝えないといけませんから、本当に大変です。思わせぶりなタイトルとサムネイルで”釣る”方法もありますが、個人的に釣られるのがあまり好きではないので(笑)、自分の動画もなるべく釣らない方法でキャッチーなサムネイルを作るように心掛けています。

前までは、サムネイルにはインパクトのある言葉を並べて、タイトルテキストにはそれを補足する内容を入れたりして、サムネイルとタイトル両方を合わせて動画の内容を伝えていました。でも、最近になってスマホだと動画の通知で表示されるのが動画のタイトルだけのことに気づき、タイトルの付け方をより意識するようになりました。

――他に動画作りで気をつけていることや心がけていることはありますか。

企業とのタイアップ案件は特に注意しています。

まず、必ずタイアップであることを最初の段階で明かします。また、企業というクライアントがいたとしても見てもらうのは視聴者なので、コラボすることによって視聴者が楽しめる動画が作れるのかが大前提です。

とにかく視聴者と正直にコミュニケーションをとること。芸能人とは違って、YouTubeクリエイターは視聴者との距離が近い友だちのような存在です。それが急にビジネスになると違和感がありますから。

作っている自分、見ている視聴者、スポンサーてくれている企業さん、3者がwin-win-winになる動画を意識して取り組みます。

もう一つ、YouTubeクリエイターといえば毎日動画を投稿している人も多いのですが、私は休むことも大事だと思っています。実際に1ヶ月くらい休むこともありますし、そもそも毎日投稿はしていません。海外にはアウトプットに疲れて燃え尽き症候群になってしまうYouTubeクリエイターもいます。

休むと視聴者が離れてしまうのではないかと不安になるYouTubeクリエイターも多いです。でも、ちゃんと期間を決めて、いつ戻るのかを伝えれば大丈夫です。大事なのはコミュニケーションなんです。

YouTube Space Tokyoの居酒屋セットにて

――今後の展望について教えてください。

今はプチ移住プロジェクトを始めたばかりなので、いろいろな国に行って動画を出していきたいですね。それから、夫の英語力アッププロジェクトの「おさるEnglish」も続けていきます。

すでに動画が800本以上あるので、それを視聴者の学びにどう生かしてもらえるのかも考えていきたいです。動画を見て何となくわかった気になって、そこで満足してしまう人も多いと思うんです。そうではなく、そこからどう英語学習のきっかけにつなげられるのかが大事ですから。

そのために動画以外のメディアも活用したいと思っています。これまでにもアプリや書籍を出させていただきましたが、今後もシリーズで展開していきたいですね。エンターテインメントを使った教育、エデュテイメントを今後も発信できたらと思います。