SAP ERPの”2025年問題”とは、2005年にリリースされた「SAP ERP 6.0」の保守が2025年に終了することを指す。3月12日に行われた「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略 & アプリケーション・アーキテクチャ サミット 2019」に登壇したガートナー バイス プレジデント アナリスト 本好宏次氏は、この問題を前に身動きが取れずにいるユーザー企業に向け、症状別に”処方箋”を示した。

“2025年問題”の背景にある問題

SAPが提供する最新のERPアプリケーションは、2015年にリリースされた「SAP S/4 HANA」だ。2025年問題の対象となるSAP ERP 6.0は、そのはるか10年前にリリースされたことになる。

本好氏は、「SAP ERP 6.0は2005年に発売されたものであり、数回の保守延長を経て2025年まで期限が延長された。20年という期間は、アプリケーションのライフサイクルとしては非常に長い。6.0のユーザーはレガシーERPを抱えているという現状認識を持つところからスタートしてほしい」と訴える。同氏によれば、2025年問題の本質は、行くべきか行かざるべきかではなく、「いつどうやって行くべきか」にあるという。

ガートナー ジャパン バイス プレジデント アナリスト 本好宏次氏

S/4 HANAは、SAPの長期戦略に基づく、同社が最も重視するソリューションである。理想とするユーザー企業の「リアルタイム経営」の実現に向け、ソースコードレベルで手が加えられており、これまでのSAPのERPとは全く違うアーキテクチャの製品だ。ユーザーライセンスは引き継がれるため、アプリケーションライセンス単独のライセンスコストは比較的少額に見えるが、SAP HANA上でのみ稼働するため、データベースの買い替えが必要になる。

問題の背景には、「現行のSAP ERPを十分に使いこなせていない」「単純なテクニカルアップグレードでは済まない」という2つの内部的な問題と「SAP人材がますます不足する」という外部的な問題があると本好氏は指摘する。保守の終了期限が迫るなか、これらが複雑に絡み合ってどうしていいのかがわからない。それが多くのユーザー企業の現状であろう。

症状ごとの”処方箋”

では、ユーザー企業はどうやってこの問題に対応するべきか。それぞれの組織の状況で対応策は異なるとし、本好氏は下図の診断フローチャートを紹介した。

診断フローチャートに見るS/4 HANAへの移行方針/出典:ガートナー(2019年3月)

2025年問題についての問い合わせが増えているなか、最も多いのが”様子見”の企業なのだという。本好氏は、そうした企業への具体的な処方箋として、症状ごとに次の4つを示した。

症状1:今のSAP環境に深刻な課題/不満がある

本好氏曰く、最初に検証してほしいことは「S/4 HANAで課題/不満が解決するか」だという。先行ユーザーからは、コストの面での不満が残るという声があるものの、内部的なERP基盤を固めてからデジタル投資を進めることができるようになった点は評価が高い。「解決することがわかった場合は、『S/4 HANAのメリット分析』を進めてほしい」と語る。

そうでない場合の処方箋は「他のERPへの乗り換え」となるが、これは最後の手段であることを肝に銘じてほしいというのが本好氏のアドバイスだ。

2018年5月のガートナーの調べによれば、他社ERPへの乗り換えの意思を示しているのは1割程度である。ミッションクリティカルなシステムという特性を考えると、乗り換えは難易度が高い。本好氏は「乗り換えの動機がカスタマイズにあるならば、S/4への移行を機会に身軽になることも一案だが、徹底的な検討をしてから判断をするべきだ」と見解を示した。