今回、ご登場いただいているのは日本デジタルゲーム学会で理事を務める三宅陽一郎氏。前編では、ゲームAIの進化の歴史について、日本と海外の違いなどを交えながらご教示いただいた。
それらを踏まえ、後編では、ゲームAIの現状と共に、今後のゲーム開発が向かう方向性や、”次”のゲームを生み出すものとして期待される技術などについて見解を伺っていく。
今、AIはゲームでどう使われている?
大西氏:ここまでゲームAIの歴史について伺ってきましたが、ここからは現代のお話を聞かせてください。ゲームで使われているAIには、今、どのようなものがあるのでしょうか。
三宅氏:デジタルゲームで使われるAIは、大別すると開発技術として利用するものと、コンテンツの内部に存在するものの2種類があります。
前者は、開発者を助けてくれるAIです。デバッグを自動でやってくれるとか、そういうものですね。今はまだ人間がデバッグ作業をしていますが、数百人で何カ月もかかるような作業は、AIに置き換えてしまったほうがいい。
もう一方のコンテンツのなかで動くAIについては、主なものが3つあります。まず「キャラクターAI」です。これは先ほどお話したように、FPS(First Person Shooter)を中心にほぼ完成したといって良いでしょう。もう1つは「ナビゲーション(環境認識)AI」、3つ目が「メタAI」と呼ばれています。
メタAIというのは、古くはナムコ(現:バンダイナムコエンターテインメント)のゲームに搭載されていた自動レベル調整機能のことです。うまいプレーヤーには難易度を上げ、初心者には易しくするような機能ですね。
現代ではより発展していて、ゲームのマップや敵の配置、アクションのタイミング、ストーリーなどを、全てリアルタイムに変更できたりします。これをコントロールするのがメタAIです。
大西氏:面白いですね。ゲームの内容までAIが判断して作り変えるとなると、それはもうAIがゲームを開発していると言っても良さそうです。
三宅氏:そうですね。メタAIは「開発者の頭脳を持ったAI」だと言えます。いろいろなノウハウや知恵をメタAIに集約させて、この方向を発展させるべきだと私は考えています。もう人間がゲームを作るのは終わりにしないといけません。
大西氏:それはなぜですか?
三宅氏:これまでは、1つの体験を何百万人に共有(シェア)してもらうのがゲームでした。しかし、今はシェアの仕方が手軽かつ多様になり、Youtubeなどにもプレイ動画が溢れています。そういった状況では、ゲームの側がユーザーに合わせていかないといけないと思うんです。
例えば、大体同じゲームなんだけど、プレイするユーザーによってちょっとずつ内容が変わるとか、リアルタイムで難易度調整するとか、「そのプレーヤーだけの内容」をAIが作り上げるのが、これからのゲームのあるべき姿ではないかと思っています。全員が同じ体験をするだけのゲームは、ある時期から終焉を迎えるのではないでしょうか。
大西氏:オンラインゲームやオープンワールドがはやっている辺りに、その傾向が表れているとも言えそうですね。どちらもプレーヤーによって紡ぐ物語が全く違います。
三宅氏:ええ。ゲームはインタラクティブなメディアなので、プレーヤーに応じていくらでも掘り下げることができます。ゲーム上の行動ログやGPS情報、SNSでの行動などさまざまな情報を基にして、AIがゲームを作ることが可能なんですね。つまり、ゲームがユーザーを理解するわけです。
大西氏:面白いですね! ほかのメディアとの決定的な差別化にもなりそうです。
三宅氏:以前のゲーム産業は「映画みたいなゲーム」という触れ込みでゲームを作っていた時代がありましたが、今後はゲームのインタラクティブ性が映画との差別化にもなっていくでしょうね。
ゲーム業界の”次”を担う技術は?
大西氏:AI以外にも次のゲーム業界の主役になりそうな技術はありますか?
三宅氏:これが結構難しくて……。そもそもゲームはテクノロジーと共に進化してきたメディアです。デジタルゲームは最初白黒で、インベーダーゲームなんかはカラーのセロハンを筐体に貼って色があるように見せていました。
大西氏:えっ、そうだったんですか。
三宅氏:そこから本当にカラーになり、80年代にはキャラクターを自在に動かす技術が出てきました。それで成功したのがファミコンです。そして次にドラスティックな変化だったのが、3D技術。そしてオンライン化です。
最近ではソーシャルがゲームを変えたと言えます。じゃあ次は何かと言うと、今もめている最中でして(笑)。
大西氏:候補はあるんですか?
三宅氏:はい、いくつかあります。まず、5Gによる高速通信です。そしてブロックチェーン技術。全てのアイテムにIDが紐付くので、データが運営のものではなくユーザーのものになる革新的な技術だと考えられます。
ARやVRなども有力な候補ですね。こちらが次のゲームの主役の技術になると考えている人もいます。さらにGPS。「Ingress」や「Pokémon GO」でその可能性は見えています。
大西氏:こうして伺うと、ゲームに革新をもたらしてくれそうな技術はたくさん出てきていますね。
三宅氏:ただ、私のなかではどれもいまいち弱いという印象です。どれかが突出して本命というところまでいっていません。
大西氏:三宅さんご自身は、どの技術に注目されていますか?
三宅氏:気になるのはARでしょうか。ARとVRはセットで考えたいですね。現実空間でゲームを展開できるというのはこれまでになかったジャンルで、街全体がデジタル空間化されるのは面白いと思います。
例えばですが、「東京タワーで19時から始まるゲーム」なんていうことができそうです。告知して人を集めて、東京タワーからスカイツリーまでの間でドラゴンを倒すタイムアタックとか。中継もしたら、1つのショーのように楽しむことができるんじゃないかなと思います。
実は、ゲーム産業と対極にあるのはGoogleなどのサービス企業です。なぜかと言うと、Googleが利用するのは基本的に現実空間のデータなんですね。何かをクリエイションしているわけではない。ところが、そんなGoogleがIngressを生み出したわけです。さらにそのスタジオは、NianticとしてPokémon GOを生み出しました。これはなかなか衝撃的でした。今後は、現実空間のデータと従来のゲームがミックスしたところに新しいゲームのスタイルが見えてくるのではないかと思います。AIも、そこで活躍するでしょう。
大西氏:次世代のゲームでAIがどんな風に使われるのか、とても楽しみです! 今日は興味深いお話をありがとうございました。
After Interview
私は子供のころからゲームが大好きなので、ゲームAIの第一人者である三宅さんにお話を伺えるのをすごく楽しみにしていました。ゲームAIはゲーム向けに独自に進化した特殊なAIだと思っていたのですが、そうではないと知り、AIの進化で新しいゲームが生まれる可能性があることに期待が膨らみました。プレーヤーごとに異なる物語が紡がれるような、あっと驚かされるゲームの登場もそう遠くないかもしれませんね!