6月20日~22日にかけて、東京ビッグサイトで世界最大級のものづくり専門展「日本ものづくりワールド 2018」が開催された。

本記事では「第26回 3D&バーチャル リアリティ展」のセミナーとして、小松製作所 開発本部 資料技術開発センタ 資料改革グループ グループマネージャーの髙田徹氏が登壇したセッション「VRを活用したものづくり事例 コマツにおける、3D技術活用の取組み~3次元CADデータ活用の経緯と、集大成としてのVR&AR~」の内容をご紹介しよう。

3つのステップに分けて行われた3DCADの導入とITツール活用

小松製作所(コマツ)では、1995年より情報武装をスタートした。

中でも、設計/製造/販売など開発業務の改革としては、3DCAD/CAM/CAE/VRを積極的に導入。2Dから3Dへと文化の改革が行われたほか、性能品質予測やデジタル試作にも用いられている。

設計部門と製造部門のIT化による、コスト削減、開発リードタイムの短縮、製品品質の向上が目的だ。

髙田氏は「開発のデジタル化は、3DCADの導入とITツールを活用することにより、業務内容と業務フローをどう変えるかを主眼として活動しました」と語る。

実際の取り組みは、大きく3つのステップに分けて行われた。

まず1997年~2000年にかけての第1ステップでは、生産部門におけるCAMツールの開発とITツールの活用を狙いとして、コア技術に対するCAMツールの開発と適用拡大、3DCADの標準化を実施。国内生産での量産準備のリードタイム50%短縮を目標とした。

2001年~2005年の第2ステップでは、”物”での確認から”データ”での確認を狙いとして、CAEでの予測確度アップと新CAEツールの適用拡大、業務フローの改善と定着化を実施。設計のリードタイム30%短縮を目標に掲げた。

そして2006年からの第3ステップは、DMQ(Digital Mockup Quality)検討のレベルアップを狙いとしたものだ。2011年からはVR活用、2017年からはARの試行をスタートしている。

「3DCADを導入した結果、『従来よりも時間やコストがかかるようになってしまった』という話も聞きますが、弊社では生産技術部門でCAMツールを開発しており、このCAD/CAM連携が功を奏しました」(髙田氏)

小松製作所 開発本部 資料技術開発センタ 資料改革グループ グループマネージャーの髙田徹氏

3DCADは”一粒で5度美味しい”

続いて髙田氏は、”一粒で5度美味しい3DCAD”として、5つの部門における活用例を紹介した。

設計部門での活用事例としては、意匠デザイン評価、視界性検討、詳細設計、デザインレビューが挙げられる。詳細設計では、実際にネジなども含む数万点の部品で構成されたフル3Dモデルを表示。その有用性を語った。

解析部門では、CAD-FEM連携による応用解析、空気の流れを調べる流体解析、車輌の転倒シミュレーション、車輌内部から見た視界性検討、ミラー視界性検討、そして3Dモデル内で人による操作性などを検討するデジタルヒューマンで活用されている。

生産部門においては、溶接工程設計、溶接オフラインティーチング、工程設計/作業指示書、実装評価、機械加工、塗装、製造CAE、治具設備の3D検討と、幅広い分野で活用している。

溶接オフラインティーチングでは、これまでライン稼働が終了した後にティーチングを行う必要があったが、3Dモデルの活用によってライン稼働中でも効率的なティーチングが可能に。

また実装評価では、3Dモデルで描かれた配管の引き回しなどを、現場のノウハウで最適化するような取り組みも行われているそうだ。

調達部門においては、「薄板板金」簡略図を用いることで、メーカー側でデータの早期受け取りが可能になるほか、コマツ側でも製図工数の低減が図れているという。また、パーツカタログ/ショップマニュアル/取扱説明書といったサービス資料作成も、3Dモデルの活用で大幅な効率化が実現している。

髙田氏は「設計が3D化されたことで、後工程の業務においても望んでいたものが実現できました」と語る。

VRでさらに加速する3Dモデル活用

VRに関するコマツの取り組みは、2011年5月のコマツ創立90周年を記念して、新開発センターを竣工するという「大阪新開発センター構想」からスタートした。

この新開発センターを竣工するにあたり、同社では2009年9月にワーキングチームを発足。打ち合わせを重ねながら、ICTを活用した開発センターというコンセプトが決定した。そうした中、VR活用についても検討が行われたそうだ。 「3Dモデルの活用により数多くの効果が出ていますが、一方で相変わらず試作車輌を作らなければ評価できない項目も残っており、それをバーチャルリアリティで行いたい、というのがきっかけでした」(髙田氏)

VRの必要条件としては、「現実感がある」「違和感のないレスポンスが得られる」「準備に手間取らない」といった点が挙げられた。そこでHMD(Head Mounted Display)の評価を行い、2000年頃にホイールローダや油圧ショベルの運転席から見た視界を再現するシミュレータとして試行を開始。

現在は、バーチャル実装(3D実装事前検証)、ワイパー拭き取り範囲視界性評価、部屋の壁に3D映像を投影することで実車輌内にいるような視覚が得られるCAVEシステムなどに活用されているという。