パブリックなクラウドの登場により、IT投資の決定権がIT部門主体から利用部門主体に変わりつつあります。前回は、「細かいことを気にせずにAzure Stackポータルから仮想マシンを作成する」という手順を説明しました。Azure Stackが、利用者部門主体のITサービスをパブリックではなくプライベートな空間でも実現できることが、おわかりいただけたことでしょう。

ただ、実際にサービスを提供するIT部門側はさまざまなことを考えなければなりません。そして、誰かのためにサービスについて考えることこそ、これからのIT部門に求められている要素だと思います。

そこで今回からは、前回は全く触れなかった「細かな部分」を1つ1つ見ていこうと思います。まずは、仮想マシンを作成する際に出てくるテンプレートからです。

社内の仮想化基盤とAzure Stackにおけるテンプレートの大きな違い

仮想化基盤のテンプレートとは、仮想化基盤を担当しているエンジニアがセットアップした仮想マシン用のファイルをベースに、メモリ量や仮想CPU数を定義したものが一般的でしょう。仮想マシンイメージは、OSがインストールされただけのシンプルなものの場合もあるでしょうし、アプリケーションや社内指定の管理用のツールまで含まれるものもあります。ただ、さまざまな環境を用意し続けるのは難しいため、誰でも使う基礎の部分のみをテンプレート化して運用するケースも多いと思います。

それに対して、Azure Stackのテンプレートは大きく異なります。Azure Stackは高機能なので、テンプレートと言っても、以下の3つの機能を頭に思い浮かべていただくことが必要です。

  1. OSやアプリケーションがプリインストールされている仮想マシンイメージ - Marketplace
  2. 仮想マシンのサイズを決定するためのVMの種類とラインナップ
  3. 自動展開を行うためのテンプレート - Infrastructure as codeテンプレート


OSやアプリケーションがプリインストールされている仮想マシンイメージ - Marketplace

Azure Stackはセルフサービスが基本なので、IT部門の管理者だけがアクセスする仮想マシン用のテンプレートを用意するのではなく、誰もが作りたいときに作りたいものを作れるようにセルフサービス用のMarketplaceを準備します。このMarketplaceはAzure Stackの標準機能ですが、Marketplaceにリスト化される仮想マシンのイメージなどは、管理者が準備する必要があるのです。

ちなみに、Azure Stack Marketplaceには、仮想マシンだけでなく、仮想ネットワークやサービスとしてのストレージ、そしてPaaSもリスト化され、利用者はそのなかから必要なものを組み合わせてシステムを構築することができます。

利用者から見たAzure StackのMarketplace

Azure Stack Marketplaceに表示される仮想マシンイメージは、Azure Stack管理者ポータルの専用画面を使い、簡単な操作でAzureのMarketplaceから持ってくることができます。

このイメージから展開された仮想マシンは現時点では英語環境のみとなりますが、Azure Stack上でサポートされている複数バージョンのWindows ServerやSQL Serverがインストールされたイメージや、CentOS/UbuntuなどのLinux、ミドルウェアインストール済みのイメージ、仮想ネットワークアプライアンスなど、さまざまなイメージ(テンプレート)を利用可能なので、テンプレート作成のためにOSやミドルウェアをインストールするといった作業は大幅に削減できるようになります。

もちろん、日本語OS環境のイメージや、会社専用の設定(管理ツールのエージェントの組み込みなど)が必要でしたら、管理者が手動でイメージを作成し、Azure Stack Marketplaceに手動で登録することも可能です。

次回以降の記事で説明しますが、登録時にアイコンなども独自のものを利用できるので、パブリッククラウドにはない仮想マシンイメージをリストに表示させることで、Azure Stackが一気に身近に感じられることでしょう。

仮想マシンのサイズを決定するためのVMの種類とラインナップ

Azure Stackの場合、OSのイメージと仮想マシンのサイズは別々に管理されており、前回の記事でも説明したように、Azure Stackで仮想マシンを作成する途中で仮想マシンのサイズを選択するという手順を用意しています。

仮想マシンのサイズ選択画面

また、一般的な仮想環境では、このサイズは仮想化基盤の担当者によって決められるでしょうが、Azure StackはAzureとの互換性のため、Azure Stack用に指定されたサイズのなかから選択していただく必要があります。

詳細はMicrosoft Azureのサイトにあるドキュメントをご覧ください。

現在は、汎用タイプのA(BasicとStandard)、D、Dv2、ストレージのIOPSを強化できるDS、DSv2が選択可能で、2018年6月までにAv2やFシリーズも利用可能になります。このように、サイズをAzureと統一することで、ハイブリッドで設定を自動化しやすかったり、Azure用に書かれたスクリプトをそのまま社内にあるAzure Stackで利用したりできるようになっています。

このAzure Stackの仮想マシンのサイズや種類によって、仮想マシンに接続する仮想ストレージの数やIOPSも決まってくるため、「なぜその種類を選ぶのか」は気にしておく必要があります。

自動展開を行うためのテンプレート - Infrastructure as codeテンプレート

第29回の記事で簡単に解説しているので、どのようなものか知りたい方はそちらをご覧いただきたいのですが、Azure Stackは単に仮想マシンを作る基盤ではなく、仮想ネットワークや複数の仮想マシンを一気に作成することができます。いわゆる「Infrastructure as code」を実践するための仕組みがAzure Stackに組み込まれているので、複雑なシステムであってもJSON形式のテンプレートから自動展開する、もしくはGitHub上のテンプレートを利用して作業を自動化するといったことが可能です。

GitHub 上のテンプレートをAzure Stackから呼び出し

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約10年、企業のITインフラを支えてきたのは仮想化だったと言っても過言ではないでしょう。ただ、仮想化は今や、パブリック/プライベートクラウドのベース技術の1つであって主役ではありません。今後は、皆さんが使いこなしてきた仮想化技術もどうやってサービスにするかが重要なのです。

今回の解説で、Azure Stackが本物のクラウドを自社内に持ち込むものだということがおわかりいただけたのではないでしょうか。まだまだ概要レベルの解説しかできていないので、次回以降も情報を深く掘り下げていこうと思います。お楽しみに!

著者紹介

日本マイクロソフト株式会社
高添 修

Windows 10やVDIの世界にいるかと思えばSDNやDevOpsのエンジニアと普通に会話をし、Azure IaaS登場時にはクラウドの先頭にいたかと思えばオンプレミスデータセンターのハードウェアの進化を語るセミナーを開くなど、幅広く活動するマイクロソフト社歴15年のベテラン。最近は主にAzure Stackをテーマにしたハイブリッドクラウドの普及活動に力を入れている。