愛媛県四国中央市は2月16日、首都圏で活躍する同市ゆかりの企業が集い、企業間での連携や情報共有を図ることを目的としたイベント「第8回四国中央市首都圏交流会」を都内にて開催した。

同イベントでは、ゲスト講師としてAI研究者である大西可奈子氏が登壇。「AI活用に必要なただ一つのこと」と題した記念講演を行った。大西氏は現在、NTTドコモで自然言語処理を中心としたAIの研究開発に携わっており、IT Search+でもAIに関する入門記事「教えてカナコさん! これならわかるAI入門」を連載中だ。3月には著書「いちばんやさしいAI<人工知能>超入門」(発行:マイナビ出版)を上梓している。

本稿では、AIの基本や活用する上で重要なポイント、AIと人との関わり方などが具体的な例と共に解説された同講演の模様をダイジェストでお届けしよう。

AIが再現する「人間の知能」とは?

首都圏交流会に出席したのは、愛媛県四国中央市に本拠を置く企業の役員や、同市出身の議員などである。同交流会はこれまでにもさまざまなゲストを特別講師として招いてきたが、AIについての講演は初。それだけ今、AIが注目されているということでもある。

しかし、実際のところ言葉だけが先行している感は否めず、たとえIT企業に勤めている人であっても「AIとは何か」を正しく把握している人はまだ少ないのが現状だ。

大西氏はまず、その点についての解説から始めた。

「AIを定義するなら、”コンピュータ上に人間の知能を再現したもの、あるいはするための技術”となります」

AIのなかでも自然言語処理、特に対話に関する研究開発を専門とする大西可奈子氏

しかし、これではまだAIの説明としては不十分だという。

なぜなら、「”人間の知能”とは何なのか」を定義できていないからだ。

仮に「人間の知能 = 計算能力」とするなら、PCや電卓ですらAIとなってしまうが、一般的にはそうではないだろう。

だとすると、AIによって再現される”人間の知能”とは何なのか。

大西氏が挙げるAIの条件は「何らかの創造的な処理を伴うこと」、そして「(人間が)教えた以上のことができること」である。命令通りのことしかできないのであれば、それはAIではなく単なる処理速度が速いだけのプログラムだからだ。

では「教えた以上のことができる」とはどういうことなのか。

ここで大西氏が例として挙げるのが、「パンを推薦するAI」である。

例えばAさんが「メロンパンと牛乳」、Bさんが「あんパンと牛乳」を購入したとする。この情報を踏まえた上で、Cさんも牛乳を購入した場合、Cさんにはどのパンをお薦めすれば、より購入してもらえる可能性が高くなるだろうか。

ありがちなレコメンドの仕組みは、ほかの人のパン購入履歴をチェックして、Cさんとより味覚が近い人が購入したパンを薦めるというものだ。

味覚が近いかどうかを判定する方法としては、あらかじめ「このパンは甘い」「このパンは甘くない」という情報を登録しておき、これを元に判断するというやり方がある。「メロンパンは『甘いパン』で、あんパンも『甘いパン』。よってAさん・Bさんと、Cさんの味覚は近い」といった具合だ。

しかし、こうしたシステムは「それだけではAIとは呼べない」と大西氏は言う。

なぜなら、購入履歴に「甘いか甘くないかわからないパン」(仮にシナモンロール)があった場合、判断できないからだ。

本当の意味でのAIはここからが違う。

シナモンロール自体が甘いか甘くないかという直接的なデータはなくとも、過去にシナモンロールを購入したAさんの購入履歴から「Aさんはほかにも甘いパンをたくさん買っているから、きっとシナモンロールも甘いパンなのだろう」と、”推測”するのだ。

この”推測”をできるかどうかが、AIの肝となる部分である。