デジタル領域の4テーマについて、各回1テーマで4回にわたり開催された「Fujitsu Insight 2017」。「デジタルマーケティング」にフォーカスして行われた11月29日の基調講演・特別講演には、前グーグル日本法人の名誉会長で村上憲郎事務所 代表取締役の村上憲郎氏が登壇した。

IoT、ビッグデータ、AI――その進化の行方は?

村上氏の講演では、「IoT、ビッグデータ、AIが切り拓く、デジタルマーケティングの新地平」というテーマの下、「IoT」「ビッグデータ」「AI」の3つの技術を概説すると共に、これらが引き起こす第4次産業革命において、従来のサプライチェーン概念からデマンドチェーン概念への転換を基軸としたデジタルマーケティングの新しい在り方が示された。

前グーグル日本法人の名誉会長で村上憲郎事務所 代表取締役の村上憲郎氏

まず、村上氏が触れたのが、IoTの動きを象徴する流れの1つである「モバイルからウェアラブルに」というデジタルデバイスの進化だ。AR(拡張現実)を身近にした「Google Glass」や、体温、血圧、脈拍などの生体信号を取得でき、アスリートのトレーニング状況や持病のある人のヘルスケア用モニタなどへも応用されている腕時計型のIoTデバイス「Smart Watch」を取り上げ、「ウェアラブルのポイントは、小さいことよりも肌に密着していることにあります」と強調した。

氏によれば、ウェアラブルは情報端末を身体に埋め込む「インプランタブル」へと進化することが予測され、そこではデジタルと神経系統との結合が重要になる。そして最終的には、サイボーグ化へと至るのだという。

また、現在の「第3次AIブーム」の要因として村上氏は、以下の3点を挙げた。

  1. 以前からアイデアはあった「機械学習(マシンラーニング)」や「ニューラルネットワーク」に加えて、「深層学習(ディープラーニング)」という新しいアルゴリズムが登場したこと
  2. AIにはデータが必要だが、インターネットの普及やこれから普及するIoTによって膨大なデータ(ビッグデータ)の入手が可能になったこと
  3. 潤沢なコンピューティングパワーが手に入るようになったこと


このうち3番目の要因については、NVIDIAのGP GPU「CUDA」やGoogleのTPU(深層学習専用プロセッサ)の登場、さらには量子アニーリング方式の量子コンピュータも実用化段階に入ったことなどを挙げた。

パーソナルアシスタントからアンドロイドバトラーへ

続いて村上氏は「アンドロイドへの2つの道」という将来予測を掲げた。まず1つの道は、先のインプランタブルからサイボーグへの進化の先にあるという。脳以外の臓器や四肢が機械に置換されるのがサイボーグ化だが、「人間の身体をベースして機械への置換が進んだサイボーグに最後に残っていた脳がAIに置き換わったとき、それはアンドロイドとなる」(同氏)という。

そしてもう1つの道が、機械のスマート化からロボットへと至る道だ。ロボットの搭載するAIが人間の知能と比べて遜色なくなったとき、そのロボットはアンドロイドと呼ばれるようになるのである。

いずれの道にせよ、AIの飛躍的な進化が前提となるわけだが、そこに向けてはバトラー(執事)サービスへの道をたどることになる。現在、既にSiri、Google Assistant、Cortana、Alexaなどのデジタルパーソナルアシスタントが登場しているが、それがやがてバトラーサービスへと進展していくのだという。その上で、データセンター上のバトラーからアンドロイドバトラーへと変革していくわけだが、そうしたアンドロイドバトラーというのは、スマホ、タブレット、スマートスピーカー、自動走行車などへと形状を変幻自在に変えるようになる。

「アンドロイドバトラーは、パーソナライズ性とリアルタム性を兼ね備えた究極のUI/UXだと言えるでしょう」(村上氏)