Automotive Grade Linux(AGL)プロジェクトは5月31日、東京都江東区の東京コンファレンスセンター・有明にて開催している「Automotive Linux Summit」において、トヨタ自動車が「2018年新型カムリ」にAGLベースのインフォテインメントシステムを搭載することを発表した。
2018年新型カムリは、今夏より北米から発売が開始される予定。AGLが商用利用された初めての例で、トヨタでは今後、レクサスなどの他の車種にも展開していくとしている。
コードファーストが理念! 自動車業界の無駄をなくすAGL
Automotive Grade Linux エグゼクティブ ディレクターのDan Cauchy氏 |
Automotive Grade Linuxは、コネクテッドカー向けのソフトウェアスタックを開発するオープンソースプロジェクト。The Linux Foundationがホストしており、現在は98社がメンバーとして参画している。
自動車に搭載されるソフトウェアの種類は増え続けているが、自動車メーカーごとに基盤ソフトウェアが異なるため、複数の供給先を持つサプライヤーは同じ機能であっても複数の実装を強いられる状況にある。
また、複数サプライヤーで共通するような基本機能に関しても各社で個別に開発しているため、機能の重複が発生するうえ、メンテナンス作業の工数がばかにならず、新機能の開発に割けるリソースが少ないという問題があった。
Automotive Grade Linuxはそうした状況を打破するべく立ち上げられたOSSプロジェクトだ。カスタマイズ可能な基盤ソフトウェアを開発することで、自動車メーカー各社の差別化要素は維持しつつ、無駄な工数を減らそうというのが目的。普及が進めば、サプライヤーはソフトウェア開発の大幅な効率化が期待できる。
現在のところ、AGLでは車載情報機器(In-Vehicle-Infotainment : IVI)に絞って開発を進めているが、今後は計器盤やヘッドアップディスプレイ、テレマティクス、先進運転システム(Advanced Driver Assistance System)などへの対応も予定している。
IVIに関するOSSプロジェクトとしては「GENIVI Alliance」などがあるが、AGLが大きく異なるのは「コードファースト」を掲げている点。「仕様をベースに進めると、結局は各社で実装が異なり、フラグメンテーションが発生する」(Automotive Grade Linux エグゼクティブ ディレクター Dan Cauchy氏)という理由から、仕様よりも実装を重視し、実用できるソースコードを提供するという姿勢を大切にしている。
また、最近ではGoogleらIT系企業も車載器用ソフトウェアの開発を進めているが、Cauchy氏は「1社で開発をコントロールすることになると、各社の開発の自由度が低下する。独自性を出すのが難しいうえ、開発スケジュールを引くこともできなくる」とコメント。オープンな体制で開発することの意義を強調した。
AGLが開発するソースコード「AGL Unified Code Base(UCB)」のバージョン1.0がリリースされたのは昨年1月。その後、昨年7月に2.0が、今年1月に3.0がリリースされており、理念の通り開発は非常に速い。
なお、UCBで提供しているのはあくまでIVIのベース機能。UIやモバイルデバイス連携をはじめとするアプリケーション部分は、自動車メーカー各社で独自のものを開発して提供する想定だ。
1億行のソースコードが6000万行に
トヨタ自動車 コネクティッド統括部 コネクティッド戦略企画グループ長の村田 賢一氏 |
トヨタ自動車の村田 賢一氏によると、今回発表された2018年新型カムリのIVIでは、UCB 1.0以前のソースコードをベースに開発が進められたという。発表会では、そこで得た知見を基に一部のソースコードがUCBへとコントリビュートバックされ、正式リリースに至ったことも明かされた。
村田氏はUCBの効果について、「プログラムの約70%超をUCBで充足できた」と説明。続けて、「以前の調査では、Tier 1各社によって提供されるソースコードを足し合わせると1億行に上ることが判明したが、UCBを採用することで、6000万行程度になることがわかっている」とコメントした。
自動車部品のプログラムは不具合があってはならないことから、既存の機能にアップデートをかけるのではなく、プログラムを足していくかたちをとるケースが多いため、重複が避けられず、コードが膨れがちだという。
対して、UCBでは、TIZEN IVIなどを参考に一から開発したため、プログラムがスリム化。メンテナンスもコミュニティが共同で行うため、安全かつ進められる見込みだ。