連載第3回目となる今回はBtoB、つまり企業向けのモバイル活用について解説したいと思います。
BtoBのモバイル活用と言った場合、法人向けのWebサービスやクラウドサービスを展開している企業が、自社サービスのモバイル対応を行うケースがほとんどだと思います。例えば、勤怠管理のソリューションやSFA(Sales Force Automation)、経理業務パッケージといったソリューションを提供する企業です。サービスの種類によって、さまざまな活用方法があるので、今回は実現方法を中心に説明します。
企業向けサービスのスマートデバイス対応、その3つの実現方法とは?
多くの企業は、現在すでにモバイル対応しているか、対応中/検討中だと思います。第1回でも説明しましたが、現時点で自社サービスのモバイル対応を見送るという選択は考えにくいものです。「我々のサービスは社内で使用するものなので、モバイル対応は必要ない」と思っている方がいるかもしれませんが、それは間違っています。社内にいても、休憩中やランチの合間にスマホからデータにアクセスしたいとか、タブレットで作業したいというニーズは少なからずあるものです。
また、エンドユーザーとなる企業が製品選定を行う際、「モバイル対応」はもはや必須項目になりつつあります。適切なモバイル対応を行っていないために、商機を逃してしまう可能性があるのです。
では、既存の自社サービスをモバイル対応するには、どのような方法があるのでしょうか? 実現方法は、次の3つに分類できます。
1. 既存システム自体を見直して、モバイルからアクセスしても適切に処理を行えるようにする
2. 既存システムはそのままで、モバイル向けのアプリケーションを新規作成し、アクセスした端末を判断して
適切な画面を表示する
3. 既存システムはそのままで、モバイル向けのアプリケーションをアプリとして作成し、配布する
1の方法が最もコストがかかりますが、既存システム自体が老朽化しているサービスの場合はこの方法が良いでしょう。要は、この機会に既存のシステムを見直して、同時にモバイル対応も実施してしまおうという考え方です。アーキテクチャを刷新し、機能追加やUXの改善なども合わせて行うプロジェクトになります。実際、現時点で筆者の関わっている案件では、この方法を選択するケースが多いです。
こうしたプロジェクトは、全体を見直すものなのでモバイル対応に特化して考える必要はありません。ただし、サービス全体の仕様やデザインを見直すことになるので、実装方式とデザインに関してはモバイルを含めて検討する必要があります。例えば、「実装言語に何を選ぶか」は、システム全体にも関わる大きな検討事項です。最近は、PCからアクセスされる画面もスマートデバイスからアクセスされる画面も、HTML5で実装することが多いかもしれません。ただし、HTML5を使うと決めたとしても、デバイスに応じてHTMLコード自体を分けるのか、HTMLコードは共通でCSSだけを分けるのかなど、さまざまな方法が考えられます。それぞれの方法にはメリット/デメリットがあるので、サービスの特徴をよく考えて決めることが必要です。
筆者がお客様からよく聞くのは、評価期間を設けているサービスは機能面で競合他社と差別化するのは難しく、デザインを含めた使い勝手の良さとモバイル対応の有無が決め手になるケースが増えているということです。確かにユーザーの立場で考えれば、評価期間中にマニュアルを読んだり、使用方法のトレーニングを受けたりするのが面倒なのは容易に想像できます。だからこそ、スマホからちょっと試して「いいね」と体感できることがポイントになるのでしょう。企業でのスマホ導入率が上がっていくこれからは、さらにその重要度が高まることが予想されます。
2の場合、今モバイル向けのアプリケーションを作成するならば、使用性の高さや標準技術であることから、HTML5を採用するケースが多いでしょう。既存システムもHTML5で構築されている場合は、流用できる部分も多いはずなので、比較的低コストで実現できる可能性があります。
この場合も、1の例で挙げたように既存のCSSを改修してHTMLコードは共通のものを使うのか、HTMLコード自体を分けるのかといった選択が必要です。一方、既存サービスが古い方式で実装されている場合は、既存システム自体も改修しなければなりません。
3の場合、ネイティブアプリとしても、ハイブリッドアプリとしても配布できます。また、企業利用であればApp StoreやGoogle Playなどからのダウンロードも可能です。バージョンアップ時の対応など、手間のかかる部分もシステム部門のガバナンスやツールによって管理できるため、実現性が高い方法です。
アプリにするか? ブラウザアクセスにするか?
1、2、3すべての方法に関連して、スマートデバイス対応の部分をアプリとして配布するか、ブラウザからアクセスするスタイルにするかの検討が必要です。以下に、それぞれの特徴をまとめます。
実装の方式について
アプリとして配布する場合には、ネイティブアプリとしてSwiftやJavaを使って実装することが考えられます。ブラウザからアクセスするのであれば、HTMLの一択です。ネイティブアプリのほうがさまざまな機能を実現でき、HTMLでは多少の制約が発生することがあります。ただし、HTMLならばOSがiOSでもAndroidであっても1つのプログラムで実現できるというメリットがあります。ネイティブアプリとハイブリッドアプリの違いについては、別の機会に詳しく説明します。
アプリの位置づけについて
アプリタイプの場合は、スマートデバイスの画面に「アイコン」として表示することで存在感を出せます。ブラウザにアクセスするタイプの場合も、ホーム画面にブックマークを表示できますが、やはりアプリにはひと味違う存在感があります。
配布・審査について
アプリタイプは、App StoreやGoogle Playで配布するにあたってAppleやGoogleなどの審査を受ける必要があります。最初だけでなく、バージョンアップして再配布する際にも審査を受けなければいけないため、審査期間やリジェクトされた場合の日数を考慮して開発スケジュールを考えるなど、配布の手間がそれなりにかかることを想定しておくことが必要です。
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以上、今回はBtoBのエンタープライズモバイル活用について、主に実現方法の観点から解説しました。次回は、BtoC向けのエンタープライズモバイル活用について説明する予定です。
早津 俊秀
企業のUX・モバイル活用の専門企業であるNCデザイン&コンサルティング株式会社を2011年に起業。 ITアーキテクチャの専門家とビジネススクールや国立大学法人等、非IT分野の講師経験をミックスして、ビジネス戦略からITによる実現までをトータルに支援できることを強みとする。