アクセンチュア 人事部 岩下千草氏

最近では珍しくなくなってきた企業におけるダイバーシティの推進ですが、アクセンチュアでは1999年頃から取り組んできたそうです。そして、ウィメンズ・イニシアティブとして女性の働きやすい環境整備の取り組みが本格的に始動したのは2006年。当初は、組織横断的にさまざまな立場の人たちが集まり、コンサルティング会社ならではの手法で経営層にヒアリングしたり、女性全体に対してアンケートを行ったりしながら、同社における課題をピックアップすることに努めました。

その課題の1つが、「ワークライフバランスを図りながら、育児を乗り越えてキャリアを構築できるか、将来が不安」と考える女性が多いことでした。ただ当時は、解決策の参考になるロールモデルが少ない状況だったので、次の段階として、「ゆっくり復職したい」「育児中はペースダウンして働きたい」「出産前と同様バリバリ働きたい」「子供が病気のとき」など、起こりうるケースを想定して多様な働き方を実現する制度を整備し、今年は次のフェーズに向けてモニタリングする段階に入りました。

「今までの取り組みを振り返り、作った仕組みがより適切に運用されるよう、モニタリングしながら改善していこうというのが今年の目標です」と、岩下さん。岩下さんの口調から、形だけ整えるのではなく、確実に成果を挙げていきたいという情熱が伝わってきました。

ロールプレイング・トレーニングを導入したきっかけ

同社の働き方に合った制度を導入しても、女性社員からは「アクセンチュアで働き続けることに不安を感じる」という声は依然として大きかったと岩下さん。そこで、その原因を突き詰めたところ、多様な働き方や多様なキャリアを認めるといった職場の雰囲気が大切で、職場を変えられるキーマンとなるのは上司だということになったそうです。そこで、上司が部下とのコミュニケーションを考える機会を設けるために、男性管理職を対象にロールプレイングを導入したトレーニングが生まれました。

現場をリアルに反映した3つのロープレパターン

現在のところ、ロールプレイングのパターンは3つあります。まずは、来年マネジャー昇進候補である26歳の女性のケースで、ここでは将来に漠然とした不安を抱えた女性にどう対応すべきかを考えます。次に、社会人2年目の24歳の男性社員が対象のロールプレイで、社会人として働くことに慣れてきたもののモチベーションが低下気味の社員との関わりについて考えます。このロールプレイは、男性部下を想定してロールプレイを実施し、終了後に、女性部下だった場合の共通点と相違点を考えます。最後に、生理休暇を取りやすくするために、上司としてできること、女性社員への要望などをディスカッションします。

ロールプレイングを行う際、参加者は3人1組のグループになって上司役、部下役、オブザーバー役を持ちまわりで担当します。参加者にはどのような背景で問題が起きているのかなどの詳細は一切伝えられず、自分の役柄だけを理解した状態でロールプレイングはスタートします。ロールプレイングが終了すると、「上司役の人がどんな点が効果的だった」、「その時部下役の人はこんな顔をしていた」、「やりたかったことが結果として表れていたかどうか」などを、話し合うそうです。

ちなみに、同社では、「性別に関係なく、互いをプロとして認め合う風土がある」とアンケートに答える人が男女ともに多いので、「女性だからといって特別扱いを受けたという話はあまり聞かれない」と岩下さん。だからこそ、上司も部下が女性であることを意識せずに特別な扱いをすることもないという職場環境になるとのこと。

「身体面など男女の一般的な違いを理解しておいてもらいたいと同時に、女性の中にも多様性が存在することを気づいてもらいたい。当たり前すぎてなかなか気づかないことを、ロールプレイングを体験することで、"立場が違うとどのように感じるのか"、"立場の違う女性にどのように接するべきなのか"、難しいことかもしれませんが、その答えを現場で見つけてほしいと思っています」(岩下さん)

次回は、実際にロールプレイングを体験した男性管理職の方とその部下の方に登場いただき、ロールプレイングの感想や効果についてお話いただきます。

執筆者プロフィール

藤城さつき(Satsuki Fujishiro)
コンピュータ関連業界で働く女性のためのコミュニティ「eパウダ~」を運営。男性が多いこの業界における女性の人間関係・働き方・生き方について日々模索中。株式会社タンジェリン 代表取締役。