音楽ストリーミングサービス大手のSpotifyが2月16日に、ポッドキャスト関連のアドテクを手がけるChartableとPodsightsの買収を発表した。以下はその買収に関するThe Verge編集長のニレイ・パテル氏とテック産業のご意見番ウォルト・モスバーグ氏のTwitter上でのやり取りだ。
パテル:「一方でSpotifyが買収によってポッドキャスト業界全体を独占しようとしている。それは規制当局が注意深く見るべきことの1つです。他方でAppleやGoogleはなぜか競争に全く動いてません。言い方を変えると、Spotifyにとってポッドキャストは不可欠なものであり、積極性がそれを示しています。AppleとGoogleにとってポッドキャストはプラットフォーム・バンドルの1つに過ぎないことを怠惰さが示しています」
モスバーグ:「あるいは、SpotifyはオープンWebの最後の名残りの1つを破壊し、危険な誤情報を拡声し、プライバシーをズタズタにしていると結論づけることもできますよね。その間、メイン製品である"音楽"のクリエイターにはほとんど何も支払っていません」
パテル:「否定はしませんが、他の企業が競争しようとしない状況で、彼らが反競争的な行動をとっているという文句は成立するでしょうか?」
インターネットを通じて、誰でも音声や動画のコンテンツを配信できるポッドキャスト。Spotifyは2019年に"オーディオファースト"を宣言し、音楽だけではなくオーディオ全般、特にポッドキャストに力を入れていく方針を打ち出した。その一環で、Spotifyのみで視聴できる「独占コンテンツ」を強化しており、中でも2020年のジョー・ローガンの「The Joe Rogan Experience」独占契約は大きな話題になり、Spotifyはその3年半の契約に1億ドル(約115億円)を超える額、一説では2億ドルを投じたと報じられている。
今年に入って、そのThe Joe Rogan Experienceに対して、新型コロナに関する誤った情報の配信を止めるように抗議する医療関係者など数百人が署名した公開書簡が送られ、ミュージシャンのニール・ヤングが適切に対応しなければSpotifyから自分の作品を引き揚げると表明。ニール・ヤングが声を上げたことで、この問題が広く一般に知られるようになり、Spotifyのローガンを擁護するような対応が同社の株価の下落を招いた。
Spotifyに入らないと視聴できないポッドキャスト。近年のソーシャルメディアのフェイクニュース問題、そして最近だとウクライナ問題もあり、オープンなインターネット上で利用者を独占するクローズドなプラットフォームの影響をパテル氏やモスバーグ氏は警戒している。
PodsightsとChartableの買収という小規模な買収に注意を喚起しているのか不思議に思う人もいるかと思う。それは2社の買収がFacebookによるOnavo(モバイルWeb分析)買収を思い起こさせるからだ。
VPNセキュリティやモバイルデータ圧縮技術も手がけるOnavoの買収(2013年)は、当時その狙いが分かりづらく、その影響力が見過ごされた。しかし、様々なモバイルアプリで起こっていること、何がトレンドで、何がそうではないかといった情報を把握できるOnavoのデータは、WhatsAppなどその後のFacebookによるサービス買収の判断、Instagramなどの運営で重要な役割を果たした。結果、Facebookへの情報の集中が加速した。
PodsightsとChartableによって、Spotifyは、どのポッドキャストが成長しており、これから人気を高める可能性があるか、トレンド、同社の目標に対する効果といったことを把握し、それを独占契約すべきコンテンツ選びの判断の目安にできる。また、他のネットワークで人気のコンテンツを分析することは、競争力のあるオリジナルオーディオ・コンテンツ製作や、Spotifyに参加するクリエイターの効果的なサポートにも役立つ。
ポッドキャストに対して、AppleやGoogleが何もしていないのではなく、どちらも強化に努めている。Appleは昨年「Apple Podcastサブスクリプション」を開始した。しかし、パテル氏が指摘するように、Spotifyのリードが広がる一方に見えるのは、同社がアテンションのゼロサムゲームの戦いを展開しているからだ。
1人の人が払えるアテンションには限りがあり、その限られた時間を奪えなければ獲得できるアテンションはゼロになる。AppleやGoogleはポットキャストに関して、ポッドキャストを視聴できるプラットフォームとしてSpotifyに対抗している。だが、Spotifyはゲームやビデオコンテンツ配信など他のエンターテインメントに対して、人々の限られた時間をポッドキャストで奪おうとしている。競争のステージが異なっている。だから、Spotifyとの競争にAppleやGoogleが「全く動いてない」ように見えるのだ。