Googleがデスクトップ検索で、結果ページの右横にリスティング広告を表示するのを止めた。プライバシー問題やデバイスのパフォーマンスへの影響など、広告が議論の対象になることが増える中、検索体験の向上のために「広告スペース削減か?」と話題になっている。では、実際の使い勝手はどうなのかというと、これも体験の向上と言ったら、そうなのかもしれないが、検索結果よりもむしろ広告が見やすくなった印象である……。
変更の理由についてGoogleは「検索結果を改善し、広告主向けのパフォーマンスを上げるため」としている。この変更に関するニュース記事を読むと、モバイルに軸足を移し始めたGoogleがモバイルに適したデザインに改めた、という指摘が多い。たしかに、同じデザインである方が両方を利用する上でユーザーが迷わずに使いこなせる。最近は画面の大きなモバイルデバイスが増えてデスクトップ版をモバイルで利用することも少なくないので、それは一理ある。だが、デスクトップ版は今でもPCの横長の画面で使われるのが主流であり、モバイルに適したデザインが必ずしもPCで最適とは限らない。そもそも変更後に右側の枠がなくなったわけではないのだ。テキスト広告は表示されなくなったものの、ナレッジパネルまたは商品リスト広告(PLA)は表示される。
では、Googleはなぜ右側のテキスト広告を廃したのか? 「右側の広告枠が無くなった」のではなく、「右側の枠を商品リスト広告に譲って、テキスト広告は検索結果ページのトップに移動した」というのが正しい。
Googleは検索結果の右側だけではなく、検索結果の上にも広告ブロックを設けている。結果トップの広告表示はこれまで1~3個だったが、Googleは4個の表示を試し始めていた。MozCastのデータセット(約6,000ページ分)によると、今年の2月初旬まで広告が4つ表示される率は1%程度だった。それが2月半ばから少しずつ増加し始め、2月18日に20%近くまで急増した。1個(約36%)や3個(約27%)を下回るが、2個(約17%)よりも多い。右側にテキスト広告が表示されなくなった現在、「car insurance」や「moving company」というようなテキスト広告の人気キーワードでは4つの広告が表示される。ただ4つも並ぶと、縦に長すぎて標準的な表示で使用しているノートPCでは広告だけで画面が埋まってしまい、スクロールしないと検索結果が現れない。これを見てユーザーが広告をブロックしたくなっても文句は言えない、というような表示である。
見方を変えると、広告ブロッカーの利用者が急増しているから、これまでのように「広告はほどほどに」ではなく、広告を見る人に対してより多くの広告を提供する方向に舵を切ったと言える。結果ページでは右側の細長い枠よりも、メインのコンテンツ枠の方がより利用者の目を引き、より高い広告収入が期待できる。MozCastのデータを見ると、Googleは長い期間を費やして広告4個表示をテストしており、最大4個は収益のアップにつながるという結論に至ったのだろう。Merkleのデジタルマーケティングレポート(Q4 2015)によると、昨年第1四半期にGoogle.comのテキスト広告のインプレッションが前年同期比で17%減少した。それに歯止めをかける必要もあった。
GoogleがAmazonのライバルになる
Google検索のレイアウト変更に影響を与えたと思われるもう1つのトレンドが、商品リスト広告の伸びである。商品リスト広告は画像や商品名、価格、店舗名などがコンパクトにまとめられた広告だ。テキストのみの広告と異なり、写真でアピールするので、より商品を訴求すると言われている。
小売店の商品広告枠を設けていたAmazonが昨年10月にその枠の提供を終了させ、Microsoft(Bing)とGoogleが商品広告の受け皿になっていた。Merkleによると、Bingの商品広告のトラフィックが昨年第1四半期に前年同期比467%増だった。そして後半になると、Googleの商品リスト広告がBingを上回るような勢いで成長し始めた。下のグラフはGoogle.comの結果1ページ目におけるAdWordsの最少額(minimum cost-per-click)の推移だ。
赤い線がブランド・キーワード、青い線はノンブランド・キーワード、商品リスト広告が伸び始めた昨年後半からブランド・キーワードが上昇している(出典: MerkleデジタルマーケティングレポートQ4 2015) |
テキスト広告が効果を発揮できない右側の広告枠でも、写真のインパクトが大きい商品リスト広告なら目立つ。また、広告が多い時には、テキスト広告と商品リスト広告を混在させるよりも、はっきりと配置を分けた方が結果ページが見やすくなって広告の訴求力が高まる。
昨年Googleはモバイルでも最大2つだった広告数を最大3つに増加させている。同社は広告効果が高い検索結果トップに表示できる最大広告数を慎重に調査し、そしてテキスト広告の表示を検索トップにまとめた。それが結果右側のテキスト広告の廃止の真相である。商品リスト広告が好調だった昨年のホリデーシーズンの結果を踏まえると、新レイアウトで広告収益は上昇すると期待できる。
そして次はEコマースだ。商品リスト広告の効果を活かして、ユーザーがGoogle.comから直接、広告主の商品の購入を完了できると便利なはずだ。しかし、これまでのところインパクトを作り出せていない。それが2016年の課題になる。そこで好循環を生み出せるようになると、Eコマース分野におけるAmazonやGoogleの競争が新たな局面へ動き出しそうだ。