Pew Research Centerが公開した米国のイデオロギーに関するアンケート調査の結果で、保守層で「都市部に住みたい」と答えた人がわずか4%だったのがニュースで取り上げられていた。41%が田舎(rural)暮らしを希望したという。リベラルになるほどに都市生活を希望する割合が増えていき、最もリベラルな層だと都会暮らしの希望者が46%になる(田舎暮らし希望は11%)。

保守層は田舎に、リベラル層は都会というのは以前から見られた傾向だが、今回の調査でその違いが強まった(出典 : Political Polarization in the American Public、Pew Research Center)

下のチャートのように、過去10年でイデオロギーの違いがはっきり分かれ始め、それと共に保守層が都市部を離れ、逆にリベラル層が都市部に集中するという傾向が強まっている。

1994年と2004年の調査では保守・リベラルの中間層が多かったが、2014年の調査では明確な保守またはリベラルに二分される形に近づいた(出典 : Political Polarization in the American Public、Pew Research Center)

都会への集中というと、この10年の間にスタートアップの都会への移動も進んでいる。考えてみると、この変化はPewのアンケート結果と密接に関係しているように思える。

下の地図は、サンフランシスコ・シリコンバレー地域に拠点を置く企業やスタートアップの場所である。

主なシリコンバレー企業の本社所在地

このあたりの地域を説明すると、シリコンバレーはサンフランシスコ湾の西側と南側だ。"郊外"と言いたくなる感じの、のどかな住宅地である。このあたりで唯一の刺激的な都会が北に位置するサンフランシスコだ。

ガレージから起業したHPやApple、Googleは、そのまま南の方にキャンパスを構えた。Adobeはサンノゼ州立大学の近く、Facebookはスタンフォード大学に近い。しかし、TwitterやPinterest、Uberなど最近の成功しているスタートアップはサンフランシスコに拠点を置いている。シリコンバレーの成功がどんどん北に向かっている感じだ。この傾向はシリコンバレーだではなく、東海岸でもEtsyやKickstarterなど、ニューヨーク市を拠点とするスタートアップが増えている。

原因として考えられるのは、起業家やエンジニアの世代交代だ。モバイル脳を持ったポストPC世代のエンジニアは、半導体、ネットワーキング、データ・ストレージといった基盤的な技術への関心が薄く、バックエンドは人まかせ。テクノロジーよりもアイディア主導の勝負を好む。そうしたスタートアップにとって、成否の分かれ目になるのが最初の核となるユーザーである。FacebookがアイビーリーグのSNSからスタートしたように、最初から広く誰でも使えるサービスにするよりも、小規模でも熱心に利用してくれるユーザーを起点にした方が成長が計算しやすい。

保守層とリベラル層、どちらを最初のターゲットにするべきかは明白だ。移動の際にUberで車を呼び、旅行する時にはホテルではなくAirbnbで見つけた誰かの家に泊まるような自由人を狙うべきであり、そうした層が都会に集中し始めている。近年サンフランシスコのような街はスタートップにとって、SXSW (サウス・バイ・サウスウェスト)会場のような格好のローンチ環境になっている。ニューヨークも然りだ。

都会へのリベラル層の集中で、新たな格差

イデオロギーの変化は、スタートアップにとって大きなチャンスだと思う。ただリベラル層が都会に集中した結果、新たな格差を感じることもある。田舎の街に行った時にレストラン・店検索のYelpを使っても情報が少なく、レビューもその街を訪れた旅行者が書き込んだものだったりする。都市部では、そこに住む人たちの自分たちのための情報が旅行者にとっても役立つのに、地方では同じような便利さを利用できない。

都市部が経済やテクノロジーの発展のエンジンであるのは今も昔も変わらない。だが、Pewのアンケート結果は地方に住む保守層と都会に住むリベラル層の間で、新しいサービスやテクノロジにアクセスできる格差の広がりを示唆する。解決すべき問題は人が集中する都市部にだけではなく、地方にもたくさん存在する。それを解決してくれるという期待がインターネットにはあった。ユーザーの場所を問わず、誰にも等しくチャンスを与えてくれるものであったはずだが、そうしたネット世代の主張が意味をなさなくなりつつあるのが現状だ。

さて、18日に米Amazonがスマートフォン「Fire Phone」を発表した。前面に配置した4つのカメラを使ってユーザーの頭の動きをトラッキングし、端末の加速度センサーやジャイロからの情報と組み合わせて、独自の操作体験を実現している。スマートフォンのハードウエアは成熟し、差別化するのが難しくなっているが、The Vergeは「Fire Phoneのフラッグシップ機能は、本当に他には存在しないものだ」と、独自性を高く評価した。それでも120万個以上のアプリが揃うGoogle Playではなく、ようやく24万個に達したAmazon Appstoreからしかアプリを導入できないFire Phoneの成功を"困難"と見る人は多い。

米国では成熟に近づきあるスマートフォン市場で「Amazon Fire Phone」は成功できるか?

だが、Amazonの端末の魅力はAmazonのサービスに深く統合されていることなのだ。シリコンバレーでKindle Fireを使っている人をほとんど見かけないが、地方に行くとKindleユーザーが多いことに驚かされる。注文した商品を数日で田舎にも届けてくれるAmazon。田舎の人たちはエッジーなAppleよりも、田舎の生活を豊かにしてくれるAmazonを信頼する人が多い。

つまり、昨今のスタートアップとは逆に、最新のテクノロジーやサービスに関心のない保守層に上手く浸透しているのがAmazonであり、そうした人たちはAppstoreにFacebook MessengerアプリやWhatsAppアプリがなくても、Amazonのサービスが使いやすい端末であれば、それで十分なのだ。Fire PhoneのDynamic Perspectiveはテクノロジーアナリストをうならせたが、Fire Phoneのキラー機能はおそらく、Fire Phoneを通じて持っている人の周りをAmazonのショールームに変えてしまうFireflyである。