米ニューヨークタイムズが17日に「2013年に最もユーザーを集めたコンテンツ」ランキングを発表した。昨年はボストンマラソンのゴール付近での爆発事件という世界中を驚かせる事件があったが、同事件に関する記事は2位と3位だった。トップは「How Y’all, Youse and You Guys Talk」。なんと、方言に関するコンテンツだった。

しかも、このコンテンツ、ニュース記事やコラムではない。話し方に関する25の質問に答えたら、個人の訛りの分析結果が判るというインタラクティブコンテンツなのだ。ニューヨークの地方紙とはいえ、ニューヨークタイムズは米国を代表する新聞である。その年間トップがインタラクティブコンテンツだったというのは時代を感じさせるものだ。

話し方に関する25の質問に答えると、その人に最も近い話し方をする地域と街が表示される「How Y’all, Youse and You Guys Talk」

How Y’all, Youse and You Guys Talkが公開されたのは12月21日。わずか10日のみで2013年の1位を勝ち取ったのだから、文句なしの1位である。

2位以下を見てもらうと分かるが、新聞がオンラインで読まれるようになっても、新聞で読まれているのはニュース記事や話題の出来事の記事である。そのような中で、How Y’all…がトップになったのは、How Y’all…が読者をデータに結びつける方法が上手かったからに他ならない。もしこれがハーバード方言調査の成果に関する普通の記事だったら、おそらく年間ランキングどころか、その日のランキング入りも怪しかった。つまり、従来の新聞記事では読まれなかったようなトピックでも、提供方法を工夫すれば、読者を集められるということだ。

この点をデジタル化に舵を切る新聞はもっと考えてみるべきである。というのも、記者や編集者(ライターにも)には自分たちの仕事に誇りを持っている人が多く、それは良いことなのだが、変化を拒む頑迷さにもなっている。膨大なデータや資料を集め、それらを咀嚼し、1本の記事にまとめ上げて読者に提供するのがジャーナリストの仕事であり、特に紙の時代から携わってきた人たちは文章の構成力と表現力がプロの仕事だと自負している。How Y’all, Youse and You Guys Talkのような、ただデータを見やすく読者に結びつけるコンテンツはジャーナリストの仕事の領域ではない。でも、一方的に記事と写真を伝えるばかりがネット時代のメディアではない。マルチメディアを使えるし、インタラクティブな手法も採れるのだ。

2007年頃に、ジャーナリストであり、開発者でもあるAdrian Holovaty氏が「Journalism via computer programming」を提唱した。編集判断、情報の提供方法などジャーナリストの仕事の多くをプログラミングは補ってくれる。だから、プログラミングはこれからのジャーナリストの新たなスキルになると予測した。

例えば、地方紙に掲載される火事の記事。小さな火事1件でも、日時、場所、被害者、消火活動に関わった消防署、消防署から現場までの距離、消火までの時間、コメントなどたくさんのデータが新聞社のデータベースに蓄積される。1本の記事を書き、そして次の何かの記事の執筆で資料として使うまで、これらのデータを眠らせておくのはもったいない。風の強さと火災被害の関係、自分が住む地域まで消防車が駆けつけるのにかかる時間などを読者がインタラクティブに調べられるように公開したら、それは立派な報道コンテンツである。でも、07年当時、記者の多くはそうしたコンテンツ作りをジャーナリストの仕事とは見なさず、新聞社のデジタル対応は新聞の記事をWebサイトや携帯電話でも読めるようにするのにとどまっていた。

Holovaty氏は新聞社が変われない理由の1つを「How is this journalism?」だと指摘した。ジャーナリストの分析力や文章力こそプロの仕事という意識だ。もちろんプロの眼は報道に不可欠なものだが、紙の時代からインターネットの時代へと移り、新聞メディアの情報伝達の幅は広がっている。そのメリットを引き出す表現力もジャーナリストは身につけるべきというのが、Holovaty氏のJournalism via computer programmingだ。

もちろん、データベースに蓄積された生のデータは読者にとって何の意味もない。ただ読者をデータに結ぶ付けるのではなく、読者に興味を持たせて、分かりやすく、価値が生じるように結び付けなければならない。そこが文章力に匹敵する新しいスキルであり、プロの仕事になる。ポイントの1つとして体験の提供が挙げられる。

例えば、「The Scientific 7-Minute Workout (科学的な7分間の運動)」というニューヨークタイムズマガジンに掲載されたコラム。エクササイズの図解を見て、実際に挑戦する人は少ないと思う。時計を用意して、1つの運動ごとに30秒を計ってと面倒なことも多い。でも、このHTML版があれば、アクセスするだけですぐに試せる。読み物で終わるのと、簡単に試せるコンテンツになっているのとでは、読者のトピックに対する興味が全く異なるだろう。

今では選挙の報道において、大手新聞社の多くがインタラクティブな開票マップを用意するようになったが、Holovaty氏がJournalism via computer programmingを言い出した頃には懐疑的な声も多く、対立も少なくなかった。去年の10月にNBC NewsチーフデジタルオフィサーであるVivian Schiller氏がTwitterのニュース事業責任者の有力候補と報じられた時に、Holovaty氏が「Twitter経営陣に告ぐ: @VivianSchillerの採用は大きな失敗になる」とツイートした。NBC Newsは、Holovaty氏が設立したニューススタートアップEveryBlockの閉鎖を決めており、Schiller氏とHolovaty氏の間にJournalism via computer programmingを巡る意見の相違があったと言われていた。今はまだJournalism via computer programmingの価値が認められたと言える状況には遠いが、「How Y’all, Youse and You Guys Talk」がニューヨークタイムズの2013年のトップコンテンツになったというのを聞いて、Holovaty氏はほくそ笑んでいるのではないだろうか。

ちなみにジャーナリストとしてHolovaty氏のJournalism via computer programmingの成果は、LJWorld.comやワシントンポストに残されている。そのワシントンポストを昨年、Amazon.comのJeff Bezos氏が個人的に買収した。慈善的な買収、億万長者の欲求を満たす買収、政治的影響力を大きくするための買収、新聞の電子化を加速させる買収など、その狙いを巡って無数の推測が飛び交った。

真相は藪の中だが、いち早くHolovaty氏のアイディアを採り入れるような新聞社であるワシントンポストに、Bezos氏が新聞の未来を期待しても不思議なことではないと思う。