先週から週末にかけて米国ではSNS大手MySpaceと服飾大手Gapのブランドロゴ変更が大きな話題になった。どちらの新ロゴも酷評の嵐に直面している。

MySpaceはサンフランシスコで10月8日(米国時間)に開催されたWarm Gun Designカンファレンスで新ロゴを初公開した。同社のユーザーエクスペリエンスを担当するバイスプレジデントMike Macadaan氏いわく「MySpaceはユーザーがなりたいものになれるプラットフォームだ。そこでユーザーのためにスペース(空白)を用意した」 - myの後に4文字文の下線が続く。

左は現在のMySpaceのロゴ、右がWarm Gun Designカンファレンスで発表された新ロゴ

ロゴを見ただけではMySpaceとわかりにくいし、"Space"の部分に空間と空白の二重の意味に持たせているつもりだと思うが、「うまい!」と唸らされるよりは「あぁ……」と言葉を失ってしまう。奇をてらい過ぎだ。これでは「ロゴでユーザーを驚かすよりも先にやることがあるだろ」と言われても仕方がない。

Gapの新しいロゴは、ゴシック体のフォントの右上にGapの象徴と言えるブルーの四角いボックスが描かれている。以下の画像を見てもらうと分かるが、ふざけ過ぎと紙一重のMySpaceと違って真っ当なブランドロゴである。ところが、こちらの方がすさまじい逆風にさらされているのだ。

左がGapの現在のロゴ、右がWebサイトで初披露された新ロゴ

Gapの突然のクラウドソーシングに戸惑うネットユーザー

Gapは1969年設立で、その歴史の半分以上に相当する20年以上も現在のブランドロゴを使用し続けてきたが、10月4日(同)に突然Webサイトで新しいロゴを公開した。すぐに新ロゴをからかうTwitterアカウントが立ち上がり、ボランティアでデザインしてやると名乗りを上げるデザイナーまで出てくる始末。しかし騒動が拡大したのは、ネットでの反応にGapがFacebookを通じて対応し始めてからだ。

10月6日(同)にGapは、ネットユーザーのコメントに感謝し、自分たちは新しいロゴを気に入っているとした上で、他のデザインの提案/アイデアも見てみたいからクラウドソーシングプロジェクトを実施すると発表した。新しいロゴを披露した後でデザインを公募する - 順番が逆だし、新しいデザインを何が何でも浸透させるという意気込みがないのなら、歴史のあるこれまでのロゴでいいじゃないかという声が爆発した。そもそも新しいロゴをデザインしたデザイナーは納得するのだろうか? Mule DesignのMike Monteiro氏は「いい服が揃っているからよく利用するが、私がさえないパンツを履いているからといって、あなた方の店員はパンツを無料で提供するとは言わないだろう。服を売るのが彼らの仕事であり、同じようにデザインを売るのが私の仕事だ」と記したオープンレターを公開している。

翌7日にGapのMarka Hansen社長の手記がHuffington Postに掲載された。Gapの歴史をふり返り、その上でコンテンポラリーなデザインが必要であるとし、改めてクラウドソーシングへの協力を求めた。だが、わずか1日でネットでは安易にデザインを公募するGapの姿勢に対する批判が沸騰し、もはやクラウドソーシングどころではなかった。状況とズレたGapの対応が、さらに火に油を注いだ。結果11日(同)のFacebookへの書き込みで、Gapは従来のロゴを維持すると発表することになる。

現在Gapは1969年から新デザインを提案し続けてきた歴史をアピールするマーケティングを展開中

Gapにとってはとんだ災難だったが、Webサイトのロゴを一時的に変更するだけで、新しいロゴデザインに対する消費者のネガティブな反応を認識できたのだからソーシャルメディアをうまく利用したとも言える。昨年初めにTropicanaがオレンジジュースのパッケージを変更したときに新デザインが「安っぽい!」と消費者から酷評され、すべてを以前のデザインに戻すという騒動があった。リブランドに投じた数千万ドルの費用がムダになっただけではない。新鮮で高級というイメージが薄れた新パッケージの影響で売上げが20%も減少した。それに比べると、Gapは小売店の看板や製品のタグなどを変更していないのだから傷は浅い。このあたりは消費者の反応を見ようというGapの狙いだったのかもしれない。

ただGapがソーシャルメディアを通じてきちんと消費者の反応を見ていたかというと大きな疑問符が付く。Facebookでの対応だけを見ても、ネットの議論の流れを読み取って、うまく誘導していたとは言い難い。なぜ現代的なロゴに変えたいのか、新しいロゴにはどのような意味が込められているのかを、まずはきちんと説明する必要があったと思う。たとえば、9月にAppleが発表した新しいiTunesのロゴやiPod nanoの新デザインに対しても、からかったり批判的な声が多い。だが「CDから音楽配信への移行」「多機能はiPod touch、iPod nanoは音楽専門に」という狙いがきちんと伝えられているから、その上でユーザーの議論が発展している。ひいては、そうした声が次のモデルや製品開発に活かされるだろう。

基本的に消費者は慣れ親しんだ製品の変化を望まないというのもポイントだ。Tropicanaのケースも然りだし、1985年にCoca-ColaがNew Cokeを発売したときは、当初あたらしい味が受け入れられたにも関わらず、オリジナルのCoca-Colaと入れ換える考えが明らかになると評価が一変した。結局、Coca-Cola Classicとして復活したオリジナルが生き残った。

本当に変えたいとき、20年以上親しまれたGapのロゴ変更はこのケースだと思うが、企業は相当な覚悟が必要だ。ちょっとやそっとでは揺るがない一本筋を通す必要がある。ソーシャルメディアは消費者の意見を採り入れる場ではなく、自分たちのやり方/考え方の浸透を確認する場とするべきだろう。

製品開発やサービス開発などにソーシャルメディアを活用すれば、最終的なものが消費者に受け入れられる可能性が高まる。だが、消費者の声におもねっていれば安全だと思って安易に利用したら、そうした企業の小賢しさも見透かされてしまう。ソーシャルメディアを活用するリスク、「ソーシャルメディア活用は"転ばぬ先の杖"なのか?」ということを考えさせられた騒動だった。