米SNS大手Facebookが2月4日(米国時間)に利用規約(TOU:Terms of Use)を改定した。ユーザーがアップロードしたコンテンツを削除したり、またはサービスを解約した後でも、コンテンツを扱う権利をFacebookに認めるという内容が暗に含まれていた。これをユーザー軽視と批判する動きがまたたく間に広がり、大規模な反対署名運動に発展。CEOのMark Zuckerberg氏が鎮静化に乗り出したものの騒ぎが拡大するばかりで、結局17日にTOUが以前の形へ戻された。

昨年前半のmixiの利用規約改定を思い出させる騒動である。mixiのときは「投稿した日記から勝手に書籍が作成されるのではないか」という憶測が出回った。同じように今回のFacebook騒動でも「プライベートなコンテンツをFacebookが無断で売買するのではないか」という懸念がユーザーの間でクローズアップされてきた。それが新TOU撤回になったことで一段落し、多くの報道が「ユーザー怒りの鉄槌にFacebook屈服……」とまとめているのが現状だ。

だが、そんなに単純な問題ではない。FacebookはTOUを以前の状態に戻したものの、同時に今後のSNSのあり方に大きな影響を与えそうな問題を提起した。TOU改定の差し戻しは暫定的であり、現在ユーザーグループの参加も促しながら再改定に向けた作業を進めている。Facebookの言い分を細かくフォローすれば、Facebookはまだ矛を収めてはいない。

Facebook、ユーザーとの窓口を改装中

TOUから消えた「ライセンス失効」

まずTOU改定の内容をもう少し詳しく紹介しておこう。

ユーザーが作成したコンテンツの著作権はユーザーにあるが、Facebookのような情報を"共有"するサービスでは、サービス上で使用/ 複製/ 公開/ 改変/ 配信などを可能にするライセンスを運営会社に与えるのが通常だ。これがなければ、RSS配信のようなサービスも実現しない。今回問題となっているのは、その先だ。以前のFacebookのTOUでは以下のような文章が続いていた。

「ユーザーがコンテンツの削除またはサービスの解約を選択した場合、Facebookに与えた上記のライセンスは自動的に失効するが、ユーザーはFacebookがユーザーコンテンツのアーカイブコピーを保持する場合があることを認める」

新TOUでは、この部分が削除されたのだ。つまりサービスを利用する上でユーザーがFacebookに認めたライセンスが、コンテンツ削除やサービス解約の後も有効であることを意味する。この点に気づいたConsumeristというブログサイトが15日に「Facebookの新しい利用規約:あなたのコンテンツで、我々はやりたいことをやれる。永遠に……。」というタイトルを掲げて、Facebookがユーザーのコンテンツを奪い取ろうとしていると指摘した。これがまたたく間にFacebookユーザーの間を伝わり、プライバシー保護団体を中心にした反対署名活動に数日で10万人を超える賛同者が集まった。

「なかったこと」をなくすTOU改定

なぜFacebookは、ユーザーからの反発を容易に予想できるTOUに変更したのだろうか。Zuckerberg氏はブログの中で「ユーザーが自身の情報を所有し、誰と共有するかをコントロールできるようにするのが我々のフィロソフィーだ」と述べている。FacebookのTOU改定はむしろ、そのフィロソフィーに反しているように思える。

情報共有サービスでは、共有者を通じてコンテンツが著作者の意志に反した形で使われる可能性がある。そのためmixiの規約改定騒動などでは、コンテンツがどのように利用されるかを著作者がコントロールできる「著作者人格権」と、サービス利用におけるサービス側へのライセンス供与にスポットが当てられた。

今回のFacebookの改定は、その先を見据えている。「新しい利用規約に関する質問のひとつは"Facebookが永遠にユーザーの情報を利用できるか"だ」とZuckerberg氏は切り出している。これではConsumeristの指摘通りの展開を予想してしまうが、Facebookの言い分は随分と異なる。例えば……。

「メッセージを友人と共有した場合、(Facebook上に)同じ情報のコピーがふたつ作られる。ひとつはメンバーの送信メッセージボックス、もうひとつは友人の受信ボックスだ。メンバーがアカウントを削除したとしても、友人のボックスにはメッセージのコピーが残り続ける」(Zuckerberg氏)

この流れを不自然に思うだろうか。Eメールを想像すれば、送信したメッセージのコピーが送信先に残るのは自然である。むしろEメールでは相手側に記録が残ることを想定してメッセージを送信している。同様にFacebookでもユーザーが送信したメッセージの記録は送信先に残されるべき、というのがZuckerberg氏の主張だ。だが、コンテンツ削除やサービス解約後も著作者からのライセンスが継続しなければ実現しない。これはFacebookやSNSに限らず、ユーザーの情報を扱う多くのネット事業者が抱える問題と言える。

Zuckerberg氏は「我々はユーザーが望まない形で、ユーザーの情報を共有することはない」と明言している。さらに「人々が信頼できる環境でより多くの情報を共有するための、優れた製品を構築するのが我々の目標だ」と続ける。つまり、ユーザーが望む形で情報を共有するためにライセンスが必要であり、一度ユーザーが自らの意志で共有した情報については、その状態をサービス上で維持し続ける必要がある。だから解約後のライセンス継続も必要になるというわけだ。

もちろん、一度ライセンスの継続を認めれば、Consumeristが指摘するようなリスクを抱えることになる。またFacebookが今後のビジネス展開を見据えてライセンスを確保しようとしているとも考えられる。ライセンス供与の条件にユーザーは慎重になるべきであり、その点で改定版のTOUは多くの問題を抱えている。修正されてしかるべき内容である。一方でFacebookの主張にもうなずける。今日のSNSの利用形態に合わせてリーガル面を整備しなければ、ユーザー間のトラブルの原因になる。

例えば、2月2日にイリノイ州に住む米国人女性とインディアナ州に住む米国人男性がバハマで逮捕された。現地でイグアナを捕獲し、その一部と思われる肉をグリルで焼いている写真がFacebookにアップされ、漁業規制と野生動物保護法に疑いが持たれている。このようなケースで写真の証拠としての価値が問われた場合、現状ではアカウントが削除された時点で公開されていた写真が「なかったこと」になってしまう。

この「なかったこと」はSNSやブログ、写真/ビデオ共有サービスなどにおいて可能になるべきと思われがちだが、その考え方はリスクが高い。友人限定のコンテンツ共有をユーザーがプライベートと見なし、それがいつの間にか公になってトラブルとなる例は枚挙にいとまがない。Zuckerberg氏の「Eメールのような、他のサービスでユーザーに浸透している形がFacebookを機能させるのにベストである」という説は、SNSユーザーの情報共有に対する"覚悟"を問いただす言葉でもある。

注目点はFacebookがプライバシー問題と切り離して、「なかったこと」をなくすルールをきちんと作成できるかだ。新TOUの修正には数週間を要するとしているところに、明文化の難しさが現れている。