「We Reserve The Right To Refuse Service To Anyone (どなたに対してもサービスを拒否する権利を持っています)」
WinHECの取材でロサンゼルスに滞在した時、立ち寄ったタイ料理レストランの注文カウンターに張られていた。その前の週に行ったサンノゼの中華料理屋でも同様の一文を見かけた。立て続けだったので、拒否権を明示するルールでもできたのかな……と思ったが、そうではなかった。
どちらも安全とは言い難い地域にあったので、面倒を起こす客も多い。聞いてみると、トラブルがあってもすぐに警察官が駆けつけられないので、トラブルを減らすために警察の指導で張り出している、と言う。だが、メニューよりも先に、この一文が目に入ってくるのはいかがなものだろう。客としてはイヤな気分である。その分チップを減らしたくなるし、客との関係が逆にギスギスするような気も……。特に、タイ料理の方は気のいい家族のファミリー経営だったし、他ではあまり見かけないようなメニューが揃っていただけにもったいないと思った。
「違反大学トップ25」をおそれる大学
スタンフォード大学が5月11日に、DMCAのクレームに対する大学の新ポリシーを明らかにした。これが学生に不評なのだ。騒ぎは大学内で収まらず、ネット上はもちろん、地元で広く配布されているローカル紙でも、全米レコード協会(RIAA)や全米映画協会(MPAA)に盲従する大学の姿勢が批判されている。
DMCAのクレームは、大学のネットワークを通じて、著作権で保護された音楽や映画などを違法に入手・交換している疑いのあるネット接続を指摘する文書だ。スタンフォード大学の新ポリシーでは、初めてのクレームの場合、大学のInformation Security Office(ISO)がクレームのコピーと対処法を記したインストラクションを該当する学生にEメールで送信する。学生は48時間以内に、DMCAのクレームに対応し、違法に入手した音楽や映画などを削除する。もし学生が制限時間内に適切な対応をとらなければ、ISOは学生の大学のネットワークへの接続を禁止する。再接続には問題解決後、100ドルを支払う必要がある。DMCAのクレームが2度目になると、ISOはクレームのコピーを学生本人と学部長に送信する。すぐに学生のネット利用は制限され、問題解決後に支払う罰金は500ドルになる。3度目は、学生にクレーム文書のコピーを送信した上で、同校のネットワークの使用権を剥奪。さらに懲罰処分の検討を申請する。学生の対応次第では、ネットワークの使用権が再び認められる可能性もあるが、その場合は1,000ドルを支払うことになる。新ポリシーは今年9月から施行される予定で、学生から徴収した罰金はASSU(Associated Students of Stanford University)を通じて、学生のための一般活動予算に割り当てられるそうだ。
スタンフォード大によると、DMCAクレームは増加の一途で、昨年度(2005年9月から2006年8月)全体に相当するDMCAクレームを、すでに2006年の9月から2007年の1月の間に受け取ったという。クレームの対象には職員も含まれるが、90%は学生。スタンフォード大はDMCAクレームへの対応に3人のフルタイムスタッフを充てており、ネットワーク帯域を含めて「スタンフォードのリソースの浪費につながっている」と指摘している。
スタンフォード大以外にも9月からの新学年に向けて、DMCAのクレームに対するポリシーを厳格化する大学が増えている。例えばオハイオ大学は、学内でのP2Pソフトの利用を全面的に禁止した。ウイスコンシン大学マディソン校は、クレームではなく正式な召喚状が用意された場合に限り、該当する学生へのコンタクトを認めている。問題は、これらの大学がRIAAとMPAAが公開した「違反大学トップ25」を意識して、ポリシー制定に熱心になっているという点だ。スタンフォード大学はMPAAのリストの24位。オハイオ大学は、RIAAのリストで1位、MPAAのリストでは18位という不名誉ぶりだ。
ユーザー訴訟も同様だが、RIAAやMPAAは見せしめのような方法を用いて違法行為の抑制を図っている。違反大学トップ25公開に反応して、大学が一方的に学生を非難してはRIAAやMPAAの思惑通りだ。あげく大学がネットワークからの排除や多額の罰金をちらつかせては、本当に学生のための大学なのか……と疑ってしまう。RIAAやMPAAも相変わらずだが、一部の大学の対応は、レストランでいきなり「サービスを拒否する権利」の張り紙を見せられるような気分である。
DRMフリー論争では、急成長するオンライン販売市場に比べると、違法ファイル交換市場はパイが小さくなっているという指摘があった。ただ、そのような楽観論は、P2Pによる違法ファイル共有波及の中心となった大学には当てはまらないだろう。むしろ健全はオンライン販売市場を作る仕上げとして、積極的に攻撃するのが近道かもしれない。だが、音楽や映画に対する関心の高さという点で、学生は最も消費ターゲットになり得る層である。潜在的な顧客層と最初にギスギスとした関係を築いては、顧客を増やせず先細りするだけだ。安易な張り紙を用いず、トラブルを厭わずに、どうすれば顧客として取り込めるかを真剣に考えるべきではないだろうか。