今回は株式会社イトーキの東京イノベーションセンターSYNQA(シンカ)におうかがいしています。

さすが、オフィス用品や空間のプランニングをされている開放的でかっこいいオフィスです。イトーキの商品開発や設計にはどんな数学が使われているのか、イトーキ マーケティング本部の秋山恵さんに、お話をうかがいました。

東京イノベーションセンターSYNQA(シンカ)

-本日はよろしくお願いします。まずはイトーキという会社について教えていただけますか?

秋山さん:よろしくお願いします。イトーキは120年以上の歴史をもつ、オフィス関連事業の会社です。地球環境や人に良いことを考えながら、製品・サービス・空間づくりを提案する企業です。病院や図書館、博物館なども弊社のクライアントです。

-それにしてもすごいオフィスですね!

秋山さん:従来のオフィスやショールームの概念ではなく、新しい空間として提案しています。

1階の「WORK CAFE」は、カフェやギャラリー、書架のあるスペースで、会員になれば誰でも使うことができるオープンスペースとなっています。

1階「WORK CAFE」

2階の「TEAM LAB」は、イトーキとの協業プロジェクトメンバーがプロジェクトを進めるために利用するスペースです。

2階「TEAM LAB」

3階の「SYNC OFFICE」は、イトーキ社員が実際に働く空間で、こちらはワーキングショールームとしての役割もあります。

3階「SYNC OFFICE」

会議室のテーブルはホワイトボードのようにマジックで直接書き込むことができます。

-社員の方が自ら自社の提案するワークスタイルを実践されているんですね! 秋山さんは、どんなお仕事をされているんですか?

秋山さん:私の所属しているソリューション部門では、かんたんに言うと課題解決の提案をしています。オフィスを使っているとさまざまな課題が見えてきますが、それらの課題に解決の道を示しながら、トータルでのオフィス空間を提案します。私はとくにICTに関わる提案をしています。

-ICTですか。具体的にどのようなものを作られているのですか?

秋山さん:まずはこちらを見てください。これ、なんだかわかりますか?

-シートですか? 方眼紙のようなマス目がたくさん入っていますね。

LANシート

秋山さん:これはLANシートです。無線LANの電波を、シートの中を通して伝えているんです。たとえばこのLANシートを貼ったテーブルがあったなら、そのテーブルで作業する人だけが使えるLANを構築できます。シートの上にパソコンを載せるとインターネットが使えるんですよ。

セキュリティの面で安心なだけではなく、LANの電波が拡散しないので、互いに干渉せずに安定した通信を維持することができるんです。

-電波を制限することで、より使いやすくなることがたくさんあるんですね。

秋山さん:こちらはテーブルがディスプレイになっているフェイスアップテーブルです。

フェイスアップテーブル

秋山さん:タッチパネルで操作することができるので、机の上に紙の資料を置く感覚でデータを扱うことができます。また、表示されている資料をスライドさせることで、モニタから壁のスクリーンに投影することもできます。

-テーブルがディスプレイになっている直感的なインタフェースで、会議などを円滑に進めることができるんですね!

秋山さん:ほかにも会議室を効率よく運用するための予約システムや、遠隔会議のためのシステムなども手がけています。

-このような未来のオフィスにありそうなシステムを設計する秋山さんは、学生時代にどのような勉強をされていたんですか?

秋山さん:私は工学部の土木系を大学時代に学んでいました。橋やダムなどの設計や構築ですね。

-どのようなきっかけで土木系をめざされたのですか?

秋山さん:英語や国語、古典などの文系の教科が苦手で、物理や数学が得意だったんです。だから理系に進む選択をしたのですが、それと同時に、ものづくりに携わりたいという思いもありました。

-土木や建築の分野は、数字によってなにかを作り上げる分野でもありますものね。現在のお仕事も、ものづくりに深く関わってきそうですね。

秋山さん:そうですね。私は新卒で入社して、商品企画の部門を志望しました。やはり、ものづくりが自分が仕事を選ぶうえで大事な要素だったんだと思います。

-物理や数学のおもしろさって何でしょうか?

秋山さん:物理に関しては、自然のしくみを数字によって表せるというところでしょうね。たとえば、「雨が吹きつけるように降っているとき、傘をさしてゆっくり歩くか、傘をささずに走るか、どちらが濡れないのか?」とか、「なぜ鍋にフタをした方がお湯が速く沸くのか?」とか、そういった素朴な疑問がありますよね。誰もが小さいころに考えたり感じたりしたことではないでしょうか。

そういった「なぜ?」のしくみが、物理によって数字で説明される。それはすごく魅力的なことですよね。

-数学はどうでしょう?

秋山さん:数学の好きなところは「ジャンプする感じ」ですね。図形の問題で、補助線を一本引くだけで、途端に解答への道筋が見えてくる。その気持ち良さってやっぱりありますよね。

-たしかに、角度を変えてものごとを見る訓練のような側面が数学にはありますよね。考え方の訓練をしている感じがします。現在のお仕事をするなかで、数字が生かされていることって具体的にありますか?

秋山さん:たくさんありますよ。販売予測や広告の費用対効果などは、売り上げに密接に関わってくる数字ですよね。また、私は設計の目標値を提示する人間ですが、設計への理解には数学的な理解も必要です。ソフトウェアの話をするにしても、まったくわからないよりは、数学的なロジックを理解していた方が良いですからね。

-いわゆる文系の職業でも、数字への理解は絶対に必要ですよね。

秋山さん:そのとおりです。企画書や商品説明のためのロジックの組み立ても数学的ですよね。証明問題などは本当に実践的な訓練になると思います。両方とも密接に関わっていますから、文系理系といった区分けは、あまり意味のないことだと思っています。

-より使いやすく、作業効率のよいオフィス空間を作るにはどちらの学問も不可欠でしょうね。

見学ができるようになっている3階「SYNC OFFICE」

秋山さん:はい。自分で「不便だな」と感じたところ、「こうなったらいいな」と思ったところへの対策を、いかに数値化し、改善につなげる商品開発へとつなげていくか。そういった仕事の一番おもしろいところに数学は関わっているのではないでしょうか。

-そのとおりだと思います。秋山さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

きれいでスタイリッシュなオフィスは、いたるところが数字を使って設計されていることがわかりました。漠然と「こうなったらいいな」という形を思い浮かべても、それを実際のものにしていかなくては意味がありません。そこで使われるのはやはり数学なのでしょうね。

「作りたいものを作るための言葉」とでも言いましょうか。数学はそういう力をもっている学問だと感じました。

今回のインタビュイー

秋山 恵(あきやま けい)
株式会社イトーキ
マーケティング本部ソリューション開発統括部
ICTソリューション企画推進部
ICTプロダクト開発推進室
室長

このテキストは、(公財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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