この連載では、ストレージの基礎的な解説をはじめ、実際のIT現場で役立つ、押さえておくべき実践のポイントを近年のストレージ動向なども交えながら解説します。IT領域の編集部1年生の私がさまざまな専門家のもとで勉強します。みなさんも一緒に学んでいきましょう。
連載の第10回目となる今回は前回に引き続き、デル・テクノロジーズで製造SE部のアドバイザリー ソリューション アーキテクトを務める前田健次氏に、ブロックストレージとファイルストレージの違いについて、SANとNASを例に教わりました。
--ブロックストレージとファイルストレージの違いについて教えてください
前田氏:前回、ブロックストレージはファイルストレージやオブジェクトストレージと比較してレスポンスに優れているとお伝えしました。こちらの図は、ブロックストレージとファイルストレージがそれぞれデータを処理する経路を図式化したものです。ファイルストレージの方がデータ処理のレイヤが多いのが分かると思います。
ブロックスストレージのデータアクセスと比較して、ファイルストレージではストレージ側にファイルシステムがありますので、多くの処理が必要です。その分、両者を比較するとブロックストレージの方がレスポンスに優れるのです。
--それでは、SANとNASとは何でしょうか
前田氏:SANはStorage Area Network、NASはNetwork Attached Storageのそれぞれ頭文字を取ったものです。SANはストレージ専用ネットワークで、アクセス方法はブロックアクセスです。一方のNASはネットワーク接続型ストレージで、アクセス方法はファイルアクセスです。
SANとNASは、ネットワークを介してストレージを利用可能にすることで、利用者にとっての利便性やリソースの使用効率を向上させるための仕組みです。
SANはブロックストレージの環境で利用され、ストレージの共有を目的としています。ストレージを集約統合して多くのサーバで共有利用することで、ストレージリソースの利用効率を上げたり運用を効率化したりできるので、コスト削減にも効果があります。
また、複数のサーバから同じ論理ボリュームを共有できるので、サーバのクラスタリング(可用性を上げる仕組み)などの構成も取りやすくなります。
一方で、NASはファイルストレージの環境で利用され、ファイルの共有を目的としています。NASもSANと同様にファイルストレージを共有利用できますので、ストレージリソースの利用効率や運用効率化といった観点では同じメリットを得られます。
NASでは複数のクライアントから同じファイルを共有可能です。例えば、日ごろみなさんがファイルサーバを使ってプロジェクトメンバーで同じファイルにアクセスしながら仕事を進めるような場面で使えます。
これはNASというよりファイルストレージの特徴ですが、フォルダやディレクトリを利用した階層構造での管理や、メタデータを使ったファイル検索などの容易なファイル管理を提供して、共有して使いやすくしています。
--なるほど、SANとNASの違いをもう少し詳しく教えてください
前田氏:よく、ブロックストレージとファイルストレージの違いや、SANとNASの話題になった際に、「SANは高額」や「SANの運用は大変そう」と言われることがあります。
NASはL2スイッチ(イーサネット)やTCP(Transmission Control Protocol) / IP(Internet Protocol)で構成されていて、みなさんが触れる機会も多く、なじみがあると思います。しかし、SANはFC(Fibre Channel)を使ってストレージのネットワークを構成しますので、FCスイッチによる運用のために新しい知識を身に付ける必要があります。また、FCスイッチも高額だという印象も強いようです。
以前は、サーバとストレージを高速につなぐ手法はFCくらいしか選択肢がありませんでした。当時主に使われていたイーサネットの帯域は1ギガビット / 秒くらいだったのですが、それに対してFCは4ギガビット / 秒くらいでした。そのため、高速にストレージにアクセスするためにFCが使われていたのです。
ところが今ではイーサネットの性能も向上してきました。10ギガビット / 秒や25ギガビット / 秒のイーサネットも当たり前に使う時代になってきましたので、わざわざFCを使う必要がなくなってきています。さらに、TCP / IPに対応するiSCSIというプロトコルや、SSD用に最近利用できるようになったNVMe / TCPという新しいイーサーネット用のプロトコルも利用できるようになったため、SANを構築するハードルは徐々に下がっています。